意義

中忍選抜試験。
最終試験から一転、木の葉崩しを目論む大蛇丸の強襲を受ける木の葉の里。
大蛇丸の里、音と同盟を結び木の葉に攻め入る砂。
砂の我愛羅達を追うサスケ。
更にサスケを追い止める任務を受けた子供達。
犬に導かれるまま、子供達はサスケが居るであろう場所へ追いつこうと必死だ。


「!! サスケの動きが止まった。まだ少し距離はあるが」
パックンが鼻をヒクつかせて二人の子供へ教える。
「よし!」
金色の髪の子供は表情を明るくした。
安心したように笑う。
サスケと同班の仲間。
ドタバタ忍者・意外性NO1と称されるうずまき ナルト。

「よかった……」
ナルトと同じく胸をなでおろすもう一人の子供。
ナルトと同じく、サスケと同班の仲間で春野 サクラ。
聡明で頭脳明晰な少女である。

「拙者達以外にもサスケを追っているものが居る」
無数の小さな臭いの塊を察知したパックンは更に言葉を重ねた。
「なに!?」
驚くナルト。
驚いているのは表向きで。もし。もしもナルトはこの事態を予想していたと。
隣を走る少女に告げたなら恐らく笑われてしまうだろう。
いつもの強がりだと。

しかしながら、このドタバタ忍者。実は性別・素性も偽るクールな上忍。
十三年前に木の葉を襲った九尾の器となった運命の為。
己が本来の家の抱える秘密の為。偽りのドベを演じ続けている。
優秀なナルトがこの非常時にまでドベを装うのには訳があるのだが。

「敵なの!? 味方なの!?」
サクラも驚いてパックンへ問いかけた。
「……分からん。ただ……人じゃない」
真っ直ぐ前を見て走り続けながらパックンは見解を口にする。
サクラは不安そうに俯く。
対照的にナルトは張り詰めていた表情を僅かに緩ませた。

 人じゃなくてパックンが感知できる『臭い』の集団。
 シノの放った蟲達。
 サスケのフォローに先回りって訳か。感謝しないと……。

視線の先には濃紺色の蝶。
ナルトの視界に入る位置で飛んでいる。

「サクラちゃん、パックン。急ぐってばよ!」
シノの手に負えるサスケならよいが。
クールに見えて熱いエリートが暴走したらシノだって手を焼くのは確実。
ナルトはサクラとパックンに声をかける。
「ええ、急ぎましょう!」
サクラとて思いの差はあるが、仲間を案じる気持ちはナルトと一緒。
強い決意を漲らせナルトに微笑みかけた。





一方。

サスケは砂の三姉弟と対面中。
明らかに様子のおかしい我愛羅はカンクロウに支えられて立っている。
ぐったりする我愛羅に不安を隠せないテマリとカンクロウ。
我愛羅の身を心配しながらもどこか恐怖の混じった顔で。

サスケは不審そうに我愛羅を見る。
「テマリ! 我愛羅をつれて先に行け!」
我愛羅の身柄をテマリへ預け、カンクロウはカラクリ人形を降ろした。
「ああ……」
弟を案じる姉の顔。
テマリはチラリとサスケを一瞥。カンクロウをジッと見つめ。
それから意を決したように場を離れた。
「しょーがねーじゃん。お前の相手オレがなってやるよ!」
「いや……。お前の相手はこっちだ」
苦々しい顔のカンクロウの言葉に第三者の声。
いつの間に追いついたのか一人の少年が木の枝に立っていた。
「シノ……。なぜお前がここに」
戸惑うサスケを他所に少年は、シノはサスケの肩を指す。
「お前が会場を出る前に、蟲を使って雌の蟲の臭いをつけさせてもらった。雌の蟲の臭いはほぼ無臭。その雌の微かな臭いを嗅ぎつけるのは同種の雄だけだ。雄自身のほうが臭いは強いがな……」

シノの想い人はまだ迷子のままだ。

この目の前に居るカラクリ人形遣いの弟の存在に己を重ね、彷徨っている。
迷子になった彼女を連れ戻した回数は数え切れないが。
今回ばかりは状況が逼迫している。
だからこそ彼女自身が気がつかなくてはいけない。
自分の力で。

 大切だからこそ敢えて突き放す。理解して欲しいからこそ助けない。

忍として。癪だがシノが今成すことは。

「うちは サスケ。お前は我愛羅を追え。なぜならお前と奴との勝負はついていないからな。俺はこいつとやる。……なぜなら元々こいつの相手は俺だったからだ」
このカラクリ人形遣いを足止めすること。
シノは悔しそうに顔を顰めるカンクロウを視野に捉えた。
「ここは任せろ。行け!」
カンクロウと向かい合ったままシノはサスケに言い放つ。
「えらい強気だが。大丈夫かよ?」
サスケは不遜な態度でシノの顔色を窺う。
唐突な登場を果たしサスケを助けた形のシノへやや不信感がチラチラ垣間見える。

 無理もない。

シノは苦笑した。

合同任務や、偶然任務帰りにルーキーが終結することがあると必ず『ナルト争奪戦』が勃発するのだ。
あの天然……人の好意に対して……は、ヒナタを筆頭とした下忍達のアピールに気がつかない。
シノだって黙って黙認したりせず参戦している。
サスケ等とはナルト絡みであれば仲は悪い。
できることならこの期に乗じて始末したいくらいだ。

個人的感情を殺すのは全てナルトの為。
ナルトの傍らに居て恥じぬ忍として在り続ける為に。
どんな顔のナルトをも知りえるからこそ、決めたこと。後悔などしない。

「フン……その頃にはこっちも終わってる」
捨て台詞を残しサスケは消えたテマリと我愛羅を追って姿をくらませた。
「クククク……。そろいもそろって何も分かってねーじゃん! この世の本当の恐怖ってのを知らねーんだろうなぁ、てめーらは……」
カンクロウが引きつった顔で言った。
「この世の恐怖か。確かにアレは余り味わいたくはないものだ」
シノはしみじみ答える。

ちなみに。カンクロウが言った『恐怖』は我愛羅の事で。
シノが味わいたくないと感じた『恐怖』はナルトの事である。

「……はぁ?」
怪訝そうにカンクロウがシノを見た。
シノは無言で口角を緩やかに持ち上げる。
両腕の服の裾から無数に沸き出でる蟲。
シノを守るように周囲を取り囲む。
「傀儡の術!」
カンクロウも印を組みカラクリ人形を起こす。
二人は無言で火花を散らすが、驚いたことにカンクロウが声もなく地面へ落下。
倒れ込んだ。

「ったく、めんどくせーな。こんなトコでシノに会うなんてよ」

トン。

軽やかに木の枝に落下するのは目つきの悪い少年。
気だるげに地上に伏せったカンクロウの背中を覗く。
先ほどナルト達を逃がし囮となったシカマルである。
下忍であるシカマル如きの実力で音の追っ手を捲けるとは思えない。

「囮でナルト達を先に行かせた。俺が影分身で作った囮はアスマに保護されてるぜ。かったりーけど、ナルトの様子を……」
「必要はない」
シカマルの言葉を遮りシノはにべもなく言い切った。
「ハァ? なに言ってんだよ! いくらナルトだってサクラやサスケを庇いながら戦うんだぞ!? しかも相手はバケモノ憑きの我愛羅だ。アブねーだろ」
目を丸くしてシノに食ってかかるシカマルに、シノは首を横に振る。

実はこの二人。
素のナルトを知る数少ない里の忍であり、ナルトと共に任務をこなす同僚でもある。

また。ナルトを巡るライバルでもあるのだが。

カンクロウはシカマルが放った攻撃で現在気絶中。
後で暗示でもかけておけばシノと戦ったことになっているだろう。
シカマルの存在を隠す為と、後々シノ本来の実力を悟られないようにするべく、必要な処置である。
「俺の存在意義はナルトの為。そして俺自身の護るべき者の為にある。ナルトを今甘やかしてしまったら、ナルトは一生気がつけない。他者を拒絶した強者より、他者を受け入れた強者の方がより強いことを」
ムッとした表情でシノを睨むシカマルに、シノは淡々と告げた。
「言いたいことは分かるけどよ。場合が場合だけにんな悠長なこと言ってていーのか? 俺は賛成しかねる」
シカマルは僅かに首を傾げてシノの次の言葉を待つ。
「……」
俯き加減に思案するシノ。
シカマルの冷静な一考も一理あるが。
今回ばかりはシノの存在意義にかけてもシカマルをナルトの元へ送り出すわけには行かない。
「!?」
ざわめき立つ草木。殺気混じりのシノのチャクラにシカマルは身構えた。
「めんどくせーな。俺だって意義って奴はあるんでね。シノが通さねーっつーなら、無理矢理通るまでだ」
鼻を親指で擦りシカマルは鋭い眼光でシノを射抜く。

樹上にて殺気を飛ばす二人の子供。
驚いた小鳥たちは飛び立ち、獣たちは怯えたように逃げ出す。

「戦う時は相手がどんなチンケな虫であってもナメたりはしない。……全力で向かう」
一旦は退いたシノの蟲達が服の裾から無数に沸き出でる。
「へっ、そりゃどーも」
肩を竦めてシカマルはおどけた。

互いに手の内は知り尽くしている。
だからこそ少しの油断が命取りだ。隙を見せればまず間違いなく倒されるのは。


 自分だ。


シノ・シカマル同時に同じ事を考えた。

シカマルが素早い動作で煙玉をシノへ投げ放つ。
迎え撃つシノは素早く別の枝へ飛び移りつつクナイで煙玉を破壊。

ボフン。

派手な音と煙が立ち込める。
煙の向こうから数本の手裏剣がシカマル目掛けて寸分のズレもなく放たれた。
シカマルは握り締めたクナイで手裏剣を弾き、懐から巻物を取り出す。
手早く起爆札を巻物へ巻き込み見当違いの方向へ放り投げた。

「へっ……」
シノとはいつか。こんな風に戦う日が来るとは思った。
中忍選抜試験で戦えなかったのは幸か不幸か判断に困るが。
いずれは白黒つけなければお互いの為にも良くないのだろう。

シカマルが投げた巻物。
シカマルが火影の師事で作り上げた対シノ用の巻物だ。
チャクラが放出できる代物で、一瞬であるが相手を惑わすことが出来る。
無論、チャクラはシカマルのものを込めてある。

シノの蟲はシカマルと巻物目掛け二手に分かれた。
数秒後に起爆札が爆発する音と、煙が晴れシカマルの背後に立つシノの気配が。
シカマルは思わず苦笑した。

「お互い手詰まりだな」
シカマルの身体には無数の蟲。
チャクラを喰らい、トドメといわんばかりに蜂が頭のてっぺんに鎮座していた。

一方シノの体は影真似の術で拘束中。
指さえ動かせずにシカマルの背後に立ち尽くす。

「もう直ぐお前のチャクラが尽きる」
シノは静かに言った。
「さてね」
背後に居るシノには見えないだろうが。
心底楽しそうにシカマルは笑った。
「!?」
シカマルの影が伸び、シノの腕に触手のように捲きつく。
シノが驚きに目を見開くが解き既に遅し。

チクリ。

鈍い痛みと共に身体に進入する毒の気配。

「……痺れる効果の高い毒だ。害はねーが耐性のあるお前専用に調合した」
シカマルも蜂の毒針に顔面蒼白。
力なく呟いて倒れ込んだ。
「毒も真似するとはな」
シノの体が唐突に自由を取り戻す。
が毒の回った身体ではどうにもこうにも動けない。
意識を手放す瞬間シノは自嘲気味に呟いた。


『……ナニやってんだかねぇ? この子達は』
相打ちでダウンした二人の子供&砂のカンクロウ。
見下ろしたスケスケボディーの青年が呆れた口調で呟いた。


戦闘シーンは苦手です。なのでオカシナ表現や動きがあっても見逃してください。両者ダブルノックダウンということで(笑)ブラウザバックプリーズ