頑張れワカゾー



中忍選抜試験in木の葉の里。


第一試合うずまき ナルト対日向 ネジ。
落ちこぼれパワー(?)によってナルトの勝利。


続く第二回戦。
注目の的、うちはサスケ対我愛羅。
待ち望まれる試合に対し、当の本人であるうちはサスケは未到着。
サスケを失格とした火影に対し風影の提案で試合は先送りとし、第三試合・第四試合が先立って行われることとなった。





「では次の組み合わせ、カンクロウと油女 シノ。下へ」
会場に居る特別上忍が試合勧告を行う。
ぎこちなく互いの顔を見合わせるテマリ・カンクロウ。
「……オレは棄権する!」
暫しの沈黙。カンクロウは宣言した。
「チィ」
テマリは小さく舌打ちすると背に担いだ扇を広げ、軽々と操り会場へ降りる。
「どうやらお前はやる気があるようだな。オイ! 残りの一人降りて来い!」
地に降り立つテマリの姿に、特別上忍はテマリの対戦相手シカマルを呼ぶ。

 オイオイ。マジかよ……やっべーよなぁ。
 こんな危ねー微妙な状況で、手の内を明かすわけにもいかねーし。
 シノもさっきからナルトを完全無視だし。
 ナルトだってシノを眼中へ入れないし。
 俺が居なくて平気か? こいつら。

苦労症が身に沁みる天災少年。
シカマルは里の最高機密を知る数少ない忍の一人である。


ドタバタ忍者ドベ街道まっしぐらの落ちこぼれ『うずまき ナルト』
実はナルト素性も性別も全て押し隠した上忍クラスの実力保持者。
表向きの熱血キャラとは真逆のクールで淡々とした性格の持ち主。
九尾の狐の器という運命を課せられた里の憎悪の対象。

アカデミー時代。シカマルの才能を見抜いた三代目火影。
ナルトの素性をシカマルへ教えその相棒となるよう導いた。

「……」
シカマルは逡巡してしまう。

幼い頃からナルトの相棒として働いてきたもう一人。
それが今シカマルの隣に居る油女 シノだ。
頑なに人を拒絶するナルトの傍らにいて、ナルトの相棒としてアカデミーにまで入学し下忍もこなす上忍。
ナルト至上主義の少年である。
理由(わけ)あって現在はナルトと喧嘩中であるが……。
基本的に冷静で温和な少年でもある。

和解していないナルトとシノをココへ残していくのは憚られる。
シカマル真剣に悩んでいた。

「よっしゃー! シカマル頑張れってばよv」

 ドンッ。

見た目の押しに反して力一杯背中を押され、シカマルは身構える間もなく会場へ落下。
(間違ってでも無様な真似晒すなよ? 特別上忍シカマル)
シカマルが落下する最中。
見上げればナルトがニヤリと笑い唇を動かした。

 ハイハイ。せいぜいご期待に沿えるよう頑張らせてもらいますって。

棄権するのは早速諦めてシカマルは後ろ向きに会場へ着地。
絶妙なバランスでダメージを負っていないが、一応冴えない下忍風に大の字に寝転がる。

「コラーさっさと試合しろ!」

「こんな試合とっとと終わらせろ」

微動だにしないシカマルへ飛ぶ野次。

 「……」

 ハァ。めんどくせーな。ったく。
 ナルトが不安定で、木の葉の里がけっこーやっべー状態なのに、呑気に試合なんかしてられっかよ。
 しかも相手はまた女だし。

「いつまで寝てんだ立て小僧ー!」
更に野次が飛ぶ。

 しょぼい俺の試合なんざ見たってどうすんだっての。
 そりゃな。ナルトの相棒としてもうすぐ丸一年になるし?
 特別上忍としても働かせてもらってますから?
 それなりには見せちゃったりするけどなぁ。

「なぁに? アンタも降参なわけ!?」
勝ち誇った笑みを湛えテマリがシカマルを挑発する。

「コラー! シカマル!! しっかりヤレってばよ」

 あ。ナルトの奴が急かしてんな。めんどくせーけど、やるか。
 ここで差をつけさせてもらいてーしよ。

シカマルの視線の先には丸黒眼鏡の少年。
唇の端を持ち上げるシカマルに、黒丸眼鏡の長身の少年は眉間の皺を深くした。

「来ないんならこっちから行くぞ」
痺れを切らしたテマリが合図を待たずにシカマルへ攻撃を仕掛ける。
「あーあ。やる気まんまんだよ、あの女」
振り上げられるテマリの巨大扇子。
シカマルの手に握られる二本のクナイ。
巨大扇子が壁際目掛けて振り下ろされ立ち上る煙。

「中忍になんてのは、なれなきゃなれないで別にいいんだけどよ。男が女に負けるわけにゃいかねーしな。まぁ……やるか」
壁に突き刺した二本のクナイの上に乗っかって、シカマルはテマリを見下ろす。

 別に男女差別してる訳じゃねーけど。アイツへの牽制には役立つよな〜。

シカマルの予想通りに刺々しいシノの殺気が、シカマルだけに注がれる。
シカマルが意図した発言をきちんと把握したようだ。

 どんなに強くても本当のナルトは女なんだ。
 俺は全部ひっくるめたナルトも守りてーけどな、女である部分のナルトを一番に守りたい。

ナルト対ネジの戦いを観戦中にシノへ突きつけた挑戦状。
二人の仲違(なかたが)い中につけ込むつもりはない。
だからといってこのままズルズル『お友達』でいる気もない。

「フン」
テマリは鼻で笑い扇子を一閃。
巻き上がる風に襲い来る突風。
シカマルは落ち着いて木々が生える影の部分へ逃げる。

「いっけー! シカマル!!」
頭の上から同じ班の少女の声援。聞きながらシカマル『ぼぉ〜』っと空を見上げていた。

 あーあ。雲はいいよなぁ、自由で……。
 つーか俺、俺の人生がここまで劇的だとは思ってなかったよな。
 忍者になったのだって人生楽しく生きてけそーだと思っただけだしなぁ……。

 でも。あの時。

 ナルトの正体を知って記憶を消して欲しくないと。
 俺自身が選んだ瞬間から始まった『忍道』だ。
 ヒナタじゃねーけど、曲げたくねーな。

シカマルの出方を窺うテマリだが、そのシカマルがぼんやり空を見上げて惚けている。

「ならば。忍法カマイタチ!!」
扇子から繰り出されるテマリの十八番。
テマリの激しい気性そのままに荒れ狂う風。
周囲のモノを切り裂く風の刃。

「うわっ!!」
シカマルも風圧に目を開けていられず腕で目を庇う。
観客席まで牙をむくカマイタチの破壊力。

 戦闘開始と行きますか。やる気のある俺なんてぜってーらしくねーけどな。

爆風に紛れて繰り出すのはシカマル十八番『影真似の術』

「!!」
収まりつつある爆風。テマリの足元へ伸びる影。
察したテマリはすかさず後方に飛び影を避けた。
影は真っ直ぐにテマリを追うも、一定の距離までしか伸びずに後退してしまう。

「影真似の術正体見たり! どうやら影を伸ばしたり縮めたり、形を変えるにも限界があるようだな。どんなに影の形を変え伸ばしても、自分の表面積分しか伸ばす事は出来ない……そうだろ?」
「ハハ……当り」
テマリの考えにシカマルは短く答えた。

 見抜かれることなんか最初から考えの裡に入ってんだよ。
 さてさて。本番、本番。

「!」
次にシカマルが取った不可思議な行動に、テマリが動きを止める。
忍術の印ではない不思議な組み手。両指で丸を形作る印だ。

気が付いたシカマルの担当上忍アスマが、同じく試合観戦に来ていた紅に講釈を始める。
アスマ・紅の二人はナルト達がいる観客席上の待機所からは遠かったが、ナルトの耳にはしっかり届いていた。
「キレ者もキレ者! あいつはIQ二百以上の超天才ヤローだった!」
シカマルの熟考が終了かどうかのタイミングでアスマが紅に言う。

 あれほど嫌がっていたアスマ先生の勧めるIQテスト。
 キチンと受けたんだ、シカマル。
 ある日突然抜擢され強くなったとしても誰にも疑われないように。
 ナルトへ負担がかからないように。
 シカマル自身が選んだ。

その事実にナルトは口許が緩む。

「少しはやる気になったようだな!」
腰のポーチからクナイを取り出したシカマルに反応し、テマリが再度『カマイタチの術』を繰り出す。

ゴウウウウ。

音を立てて唸る風。
木の影に隠れてカマイタチをやり過ごすシカマル。
防戦一方だ。

「いつまで逃げ回っている! いい加減にしろ」
テマリは怒鳴って三度目のカマイタチを放った。
風の合間を縫ってテマリへ迫るクナイ。
クナイを避けテマリが予め引いた線の手前で止まるが。

「……!?」
線を越えて伸びるシカマルの影に、慌てて数歩分だけ後ろへ下がる。
「陽が落ちてくると影が伸びる」
シカマル同様洞察力に優れたテマリは直ぐに状況を把握してしまう。
シカマルの巧みな誘導作戦に内心舌を巻きつつも事実を指摘した。
「フン」
悪戯が失敗した子供のようにシカマルは鼻で笑う。

 当たり前だって。俺は女をやたらとボコる主義じゃねーんだよ。
 限られた状況を最大限に利用し、相手の裏をかく。
 忍ってのは裏の裏まで読めねーとなぁ?

「テマリ! 上だ」
カンクロウが待機場から叫んだ。
「!」
テマリはカンクロウの声に反応して空を見上げ、そして素早く対処した。
シカマルの仕掛けた『罠』に。
シカマルの上着を利用した簡易パラシュートが作り上げた影が、シカマルの影を助け距離を伸ばす。
「逃がすかよ!」
シカマルの影はテマリへ迫る。
またも影回避に成功するテマリ。
十分にシカマルから距離をとり扇子を広げた。
扇子の影で印を組み、反撃に転じようとするが?
「!?」
一ミリ足りとも動けぬテマリの身体。
驚愕の色濃いテマリの表情を確認した後、シカマルは説明を始めた。
面倒臭がりなシカマルにしてはやたらと『イケている』様に見える。

「……ほう」
戦いを見守る三代目火影、本当に微かに首を縦に振った。
戦況は正に『詰め』の状態でテマリへ向け歩みを進めるシカマル。

「よっしゃー! やっちまえー!」
(……そろそろ止めておきなよ?)
目の端にそうシカマルへ告げるナルトの口の動きが見える。
シカマルは右の口端だけを持ち上げた。
今は時ではない。
テマリとシカマルの距離が縮まった。

 すっ。

シカマルは勢い良く右手を天高く掲げる。
シカマルの次の手に興味津々の観客。
水を打ったように静まり返る会場。

「……まいった! ギブアップ」
「な、なんだと!?」
シカマルの宣言にテマリは右手を上げた状態で怒鳴る。
「影真似の連発でチャクラ使いすぎてもう十秒も捕まえとけねー。で、次の手二百通りぐらい考えてたんだけどよ……。どーも時間切れくせー。もうめんどくさくなっちまった。一試合やりゃいいや」
「勝者! テマリ」
特別上忍の宣言で頭脳戦となった第三試合は終了した。



熱血ナルトが会場へ降り立ちシカマルへ突っかかる。
そんなナルトを軽くいなしてシカマルは待機場へ戻ろうと歩みを進める。
「シカマル」
徐に変化を解き愛くるしい本来の少女姿へ戻るナルトに、シカマルは階段を登ろうとした足を止めた。
「今後を考えてくれて有難う。テマリに勝つことも出来ただろうけど、これから大変だから……負けたんだよね。だから」

 ふにゃり。

柔らかく暖かいものがシカマルの頬に触れる。
シカマルは物凄い勢いでナルトを見るが、ナルトはすぐにいつもの男の子の姿へ。
シカマルを顧みずに階段を登り出す。
良く見れば耳の縁が真っ赤に染まっている。

 今回は作戦勝ちってか?

思いながらも首まで真っ赤になるシカマル。

『……仕方ないな。今回はほっぺにチューだったし。見なかったことにしておいてあげるよ』
とは。どこぞのストーカー幽霊の弁。


頑張れワカゾー! 意中の少女への道はまだ遠い!?


タイトルは無論カ○リーメイトのCMから。凄い好きなキャッチコピーです(笑)最後の部分はナルコは親愛のチューでシカマルも分かってるけど嬉しいという訳です。ゆっくりまったり人間関係も動いてくのでノロイですけど今後もお付き合いいただければ幸いです。ブラウザバックプリーズ