鬼ごっこ



中忍選抜試験も数日前と迫ったある日。
一陣の風が木の葉の里を吹きぬける。

「いい加減にしろっ! この成仏しそこないが」
風にたなびく髪もそのままに怒声を張り上げる美少女が一人。

目にも鮮やかな金糸。深く吸い込まれそうな蒼き瞳。
整った眉に一筋書きでかかれたような鼻筋。
桃色で柔らかい印象を受ける唇。
目の前を軽やかに駆け抜けるスケスケ人間を追う。

『やっめないよ〜♪』
対するはスケスケ青年。

美少女と同じ金糸・碧眼。キリリと引き締まった顔立ちに、柳眉・整う鼻筋。
一見美男子風の好青年。
手にした紙切れをしっかり掴んで屋根の上を駆け抜けた。
「ちっ。幽霊のクセしてなんで俺より速いんだよ」
風圧に目を細めた美少女が小さく悪態をつく。
『ええ〜? だってお兄さんナルちゃんよりは強いもんv』
きゃっ! 両手を組み合わせて一昔前のぶりっ子ポーズを決めるスケスケ青年。
ポーズを決めつつも美少女の追跡をかわす様に空を飛翔。
足音も立てずに(立てられるのかは不明だが)屋根に着地する。
「気色悪い! 男が語尾に『もんv』とかつけんな。ってゆーか、そのぶりっ子ポーズもヤメロ」
銀刃も煌く小太刀を振るう美少女は、すかさずスケスケ青年につっ込んだ。





ドベ・ドタバタ忍者・意外性NO.1。
これらの呼称で称されることが多い下忍、うずまき ナルト。
里のアパートの一室。
うずまきナルト宅から騒動に火がついた。

「流石に監視がいないとナルトも素なのな」

 パチン。

小気味良い木のぶつかり合う音。
将棋盤へ駒をさし、やや目つきの悪い少年は向かい合う美少女を眺めた。

「まあね。カカシ先生にはこっちの姿はあんまし見せたくないからな。なんか嫌な予感もするし、ジジイも見せなくて良いって言ってたし。シカマルは逆にこっちのほうが馴染んでるだろ?」

 パチン。

美少女は盤から目を離さずに少年へ答える。
少年・シカマルは頬を引きつらせた。

 そりゃーな。ナルトが実は上忍で女でクールなキャラだって知ったらな。
 カカシ上忍みたいな野郎はちょっかいだすな。
 確実に。
 火影様だってナルトを虎の巣へ送る真似はしたくねーだろ。
 色んな意味で。

しみじみ思ってシカマルは盤へ目線を落とす。

「うっ……」
盤へ落ちるシカマルと美少女・ナルトの影。
二つの影ともう二つの影。
背筋を冷や汗が流れ落ちシカマルはぎこちない動作で背後を振り返った。

「おはよう」
仏頂面の(大概いつでもこの少年は無表情である)丸黒眼鏡少年。
口許を覆う襟の高い上着を身につけている。当然シカマルにだけ分かるように丁寧に殺気まで込められたチャクラを放つ。

『おっはよ〜v ナルちゃんv んでシカマル君』

シカマル君。

の部分だけ何故かやたらと低ーい怒りの篭った呟きで言い放つスケスケ青年。
ナルトへは満面の笑みだが、シカマルへは目が全く笑っていない笑みを送る。
「はよ、シノ」
スケスケ青年の挨拶をさらっと無視して、ナルトは丸黒眼鏡の少年へだけ挨拶を返す。

 ぽむぽむぽむ。

柔らかいナルトの笑みに満足してか、丸黒眼鏡の少年・シノは無言でナルトの頭を撫で撫でした。
シノの何時もの動作にナルトも少し嬉しそうに目を細める。
『ちょと! 二人の世界構築しないで。お兄さんも混ぜてよ、ナルちゃーん』
どさくさに紛れてちゃっかりナルトへ抱きつこうとするスケスケ青年。
「あ、いたの? 注連縄」
わざとらしいにも程があるが嫌味たっぷりのナルトの言葉。
ナルトの冷たい態度に、スケスケ青年・注連縄は唇を尖らせる。
『酷いよ、ナルちゃん。お兄さんの溢れ出す愛情を……』
「今日はどうする」
注連縄に皆まで言わせずシノが口を開いた。
「ん〜。この勝負がすんだら任務の確認にジジイのトコ。シノは?」
「ああ。俺も任務の確認に火影様の屋敷へ赴くが」
ナルトが答え、それにシノも返事を返す。
「じゃ、この後は天鳴の家で休ませて貰うぜ。夜に一つ任務が入ってんだよ、めんどくせーけど」
盤上の駒を睨みシカマルがナルトへ言う。
「大分慣れてきたな、シカマルも」
やや冷ややかに聞こえるのは気のせいではないだろう。
シノは半分嫌味を込めたコメントでシカマルを口撃。
「シノほどじゃねーけど?」
負けじとシカマル、謙遜しつつも不敵に笑う。
ナルトを巡り一歩も引かない二人の少年。知らないのは当の本人。

 二人とも熱心だよな。実は火影とか目指してたりして?

等と見当違いも甚だしい考えを脳内で展開していた。
数十分前の出来事である。





ラウンド1


山中花店前。
二人の少女が互いにため息。
桜色の髪の子供が口火を切る。
「サスケ君、何処に行っちゃったのかな」
バケツに入った花々を眺め、嘆息。
どこか顔色も冴えない。
桜色の髪の子供の横で、バケツに花を入れる作業中の金髪の少女。
作業の手を止める。
「……無事よ、きっと」
言い、空を仰ぎ見る金髪の少女。
微風が二人の少女の冴えない顔をそっと撫でて……。
「「!!!」」

突風。

二つの影が超高速で通り抜けたかと思った瞬間。
全てのバケツがひっくり返り、花々が宙を舞い上がる。
軽いバケツも空を飛び、数秒後に派手な音を立てて地へ落下した。

「なっ、なんなのよ〜!!」
水まみれ。
ついでにバラの花びらと花にまみれた金髪の少女が絶叫する。
「速すぎて誰だかもわからなかったけど……人よね? 今の」
金髪の少女と同じように水に濡れ、水仙と桃の花のシャワーを浴びた桜色の髪の少女は呆然と呟いた。


結果:水も滴る良い女?(勝敗カウントつかず)





ラウンド2


人気の無い演習場。
長髪白眼の少年は構えを取り、お団子頭の少女が無作為にクナイを投げ放つ。
少年はよどみのない動作で次々にクナイを叩き落し、息一つ乱さずに同じ場に立ち尽くす。
「流石ね、ネジ」
お団子頭の少女が息を弾ませ言った。
「万全を期したいからな。テンテン、もう一度頼む」
表情を引き締め少年はお団子頭の少女へ声をかけ。
「ぐはっ!」
一陣の風が通り抜け(正しくは超高速で通り過ぎていった二つの人影だが)、避ける間もなく倒れ込む少年。
「!? ネジ?大丈夫!?」
低く呻いて倒れる少年に慌てて駆け寄る少女。
そして少女が目にしたものは。
「ウソ……でしょう?」
『エセエリート』と。
油性マジックで少年の上着の背中部分に落書きされた文字であった。
ご丁寧に少年の後頭部にはたんこぶまである。


結果:問答無用で突風の勝ち。(ついでにウサ晴らし?)





ラウンド3


川べりをのんびり散歩する少年と犬。
「たまにはこうやって散歩して帰るのも悪くないな、赤丸」
「わん」
よく見れば少年の身体にはあちらこちらに切り傷。
犬も少しだけ薄汚れている。
「……油断なんかじゃなかった。ナルトの奴は強くなった。負けたのは悔しいけど、俺だってこのままじゃいらんねーからな。頑張ろうぜ、赤丸」
「おんっ!」
両頬を叩いて気合を入れる主に、子犬は千切れんばかりに尾尻を振って応じた。
少々乱暴なのは玉に傷だがこの主。
心根は大変優しい少年である。
ずっと少年と長い時間を過ごしてきた子犬は知っている。
「さ、今日は……」
少年が隣を歩く愛犬を見下ろした瞬間。

凄まじい風圧。少年は立っていられずに川辺の草へ倒れ込み。
倒れる瞬間に子犬を懐へ引き寄せる。
目にも見えないし気配もあやふやだが、二つの人物が超高速で駆け抜けて行ったようだ。
素早さには自信のある少年だが彼の自尊心は大分傷ついた。

「速すぎる」
賞賛と羨望の混じった少年の声音。
少年が抱かかえた子犬は突然の出来事に怯え、尾尻を丸めてフルフル震えている。
尋常でない二つの影と放つ殺気に怯えているのだ。
「くぅ〜ん」
「は? 触らぬ神に祟りなし? ナニ見たんだよ、赤丸」
見たのではなく直感で生命の危機を感じた子犬。
訝しる少年を他所に一目散に家へ向かって駆け出した。


結果:君子危うきに近寄らず。(勝敗カウントつかず)





最終ラウンド


ゴツゴツした岩ばかりが目立つ殺風景な景観。
連なる山の一つ。山頂にて汗を流し鍛錬に励む人物が二人。
「サスケ、もう一度だ」
半眼・銀髪・怪しいマスク。二十代と思(おぼ)しき男は少年へ告げた。
「チッ」
黒髪・黒目。切れ長の瞳に凛々しい印象を受ける少年。
小さく舌打ちするも、男に促されるままに構えを取る。
岩を吹き抜ける風がまるで人の声のように響く。
少年は右手に意識を集中しチャクラを……。

 刹那。

一段と激しさを増す風にぶつかり合う金属音。
どう考えても人為的な力が働いている竜巻。
続いて繰り出される水遁・土遁の術。

「敵襲か?」
驚く少年。
「いや。違う……だろう」
まるでその場にいる二人を無視してぶつかり合う二つの黒い影。
観察した男が結論を下した。
次元が違いすぎる戦いに気圧され気味であるが。
「じゃぁ、こんな所でなにやってるんだ。アレは」
被害が及ばないと理解した少年は落ち着きを取り戻す。
やや呆れた口調で呟き交差する二つの影を見た。男は曖昧に笑う。

『ちょと君達? じゃ〜まv』
視界に広がる金色。

「「!!!!!!!!」」
波の国での悪夢(さざ波立つ呪い参照)が蘇る二人。
金縛りにかかってもいないのに立ち竦む二人の忍に襲い掛かる金色の髪の悪魔。
二人の意識はそこでブラックアウトした。


 勝者:金色の髪の悪魔。(しかも人外)


捕捉被害。
二人の様子を岩陰から窺っていた砂忍。
数時間後に、覚えの無い全身筋肉痛に悩まされることとなる。
(記憶抹消の為、どのような制裁を受けたか調査不能)





やっとの思いで紙切れを取り戻した美少女。
流石に里中を追い掛け回したお蔭で大分疲れたようだ。
グッタリと椅子に座り込む。
「で? ナニを取り返したかったんだよ」
怪訝そうに目つきの悪い少年が美少女へ問いかけた。
「住民票の保護者変更届」
くしゃくしゃに丸まった紙を広げ、美少女は少年へ紙を見せる。
「ジジイの印まで丁寧に押してきてる。大方、屋敷に忍び込んだんだろ」
「マジかよ!? このまま提出すればおっさんが保護者?」
届出としては正規のものとなる紙に、少年絶句。
「ったく。何考えてるんだ。注連縄の奴」
忌々しげに呟き美少女は紙を燃やした。


 あやつは思いつき人間じゃったから、何も考えてはおらんよ。

とは。
騒動を巻き起こした青年を知るご老体のコメント。

 鬼ごっこは楽し?


寧ろ思いつき人間なのは私なんですけどね。ブラウザバックプリーズ