値する


 どいつもこいつも。嫌な顔をする。
 砂の末弟。日向の分家。そして……。

波乱に満ちた中忍選抜試験。
第三の試験を前に与えられた猶予期間の一ヶ月。
本戦出場を決めた金色髪のヒヨコが一匹。
担任に紹介されたムッツリ家庭教師と共に。
「温泉……」
そう。
木の葉温泉街へとやって来ていた。
皆の手前同班の少女に担当上忍の行方を聞いたのが運のつき。
演じるキャラのまま修行を頼めば何故か。
何故か担当上忍が招いたのは三代目の孫の家庭教師で。

チャクラのコントロール云々などと尤もらしく説教されて。

 いや。五行封印のせいでチャクラは乱れてるけど。
 俺がなんでコイツと?

頭痛を覚える金色ヒヨコ。表向きは無邪気な子供を装いつつ内心苛々。
どうやってこの家庭教師を追い払おうかと思案の真っ最中。

 できれば家に帰ってのんびりしたいし。シノやシカマルとも連絡取りたいし。
 任務も入ってるし。
 五行封印は第三者に解いて貰わなきゃならないから、ジジイにでも頼まないといけないし……。
 いっそコイツ、のすかな?

自分を見張る家庭教師をのそうかどうしようか。

迷った末に子供が出した結論は。
「あー!!」
温泉(しかも女湯)を覗き見している怪しいおっさんを指差すことであった。
半分お湯に浸かった姿勢のまま発見した突破口。
吉と出るか凶と出るか。
「ハレンチはこの私が許しませんぞー!!」
男へ飛びかかる家庭教師に、子供は内心ガッツポーズ。
家庭教師をのすべく印を組もうとしたが……。

家庭教師は『覗き見男の蛙』にのされてノックダウン。

「騒ぐなっての。……ったく、バレたらどーすんだっての!」
額当ての油の文字。操る口寄せ動物は蛙。
少しとうのたった顔立ち。長い白髪。
「……」
子供は無言で湯から出た。
「お?」
明らかに気配のすげ変わった子供。
放つ殺気は半端じゃなく。
男は興味津津に子供を見下ろした。

子供がため息混じりに「注連縄」と。一言呟いた。

『ナルちゃーんvvv やっとお兄さんの愛を……』
登場するはスケスケ人間。金髪碧眼一見好青年風。
身体は透けているわ浮遊しているわで、怪しさ第炸裂であるが。
「……馬鹿?」
既に御馴染みとなりつつある親子(?)漫才。
子供は顎先で男を示し、スケスケ人間・注連縄を見た。
注連縄は覗き見男を見て喜色満面。

上機嫌で、
『あー、先生だ。懐かしいなぁ〜』
と一言。子供は妙に納得した顔で男を見据えた。

「三忍の一人自来也。三代目火影の弟子にして四代目火影の師でもある。怪しい十八禁小説イチャパラシリーズの著者」
指摘する子供に、覗き見男・自来也は目を細め注連縄と子供を見た。
「するとお前はうずまき ナルトという訳か。大きくなったもんだのう」
「はぁ!?」
感慨深そうな自来也のコメントに些か気の抜けた返事を返すナルト。

自来也はナルトを知っているがナルトは初対面。
妙に馴れ馴れしい態度の自来也に引き気味だ。

『駄目ですよ、先生。先生といえど僕のナルちゃんに手を出したら……容赦しないですからね』

 にこー。

金色ヒヨコ・ナルトの背後でドス黒いチャクラを放つ大人気ない注連縄。
死して尚己のスタンスを変えない強情な弟子に呆れ半分感動半分。
自来也は頭をかいた。
「するか。わしはネタ探しの旅の途中でのう。お前等こそどうしてここへ?」
「成り行きで。取りあえず俺は任務もありますので失礼します。注連縄はどうする?」
簡潔に答えるナルトに自来也苦笑。
ナルトは警戒色の強い顔で自来也との世間話を遠巻きに拒否する。
『先生。ついでだからナルちゃんの五行封印解きます。チャクラ貸してください』
「断る」
『なんでナルちゃんが断るのさぁぁぁ〜!』
注連縄悶絶。クネクネ身体を左右に揺らし悲しみを表現した。
ナルトは本気で帰りたい模様で自来也に一礼して踵を返す。

「面白そうだから貸してやろう」

 ガハハハハ。

豪快に笑った自来也を本気で抹殺したいと思ったナルトだった。



流石に自来也に勝てないと悟ったナルト。
不承不承ながら注連縄に五行封印を解いてもらった。

気絶した家庭教師・エビスを宿へ送り届け二人足す幽霊は近くの茶屋へ。

風通しの良いオープンテラスのある小洒落た茶屋である。
「で? その式の荒い封印は大方大蛇丸あたりだろう?」
ごつい自来也の指先が綺麗な細工のティーカップに伸びる。
男と少年の奇妙な二人連れがオープンテラスで優雅にお茶。
不釣合いな光景。
思いつつナルトは無言でうなずいた。
「サスケ……うちはの末裔の様子がおかしい。特別上忍みたらしと同じ呪いの気配がするんだ。アレは一体?」
必要な情報は引き出せる。
そう踏んでナルトはズバリ核心を突く。

サスケは集中治療室送りで様子を探れなかった。
大蛇丸のスパイ・カブトと担当上忍がその場で戦ったこともあり警備が厳重になってしまったのだ。
大蛇丸の手の内を知らなければ。
実力差から考え間違いなく殺されるのはこちら。
ナルトとしても少々焦っていた。

「呪印だのう。あの印は対象者のチャクラを無限に引き出し暴走させる。対象者の感情の起伏に合わせて効果を見せるのォ」
顎を擦り自来也が答える。
ナルトはティーカップの縁を指で弾いた。
「大蛇丸の手の内で踊らされるって訳か。……大蛇丸は四代目が就任した時期に姿を消している。本気で里を潰そうと思っていると、アンタは思うか?」
いうなれば自来也と大蛇丸は同期だ。
同じ班で大蛇丸と共に戦った自来也。
彼なら少しは……。ナルトはカマをかけてみる。
「さてな」
年の功。自来也は首をかしげとぼけた。
『ナルちゃん? 里が心配なの?』
静観していた注連縄が始めて口を挟む。
ナルト意図した質問に己の疑念をぶつけた。
「いや。滅んでも俺は困らない。ただ俺の生活基盤がある以上、守らなきゃならない場所ではある」
淡々と答えるナルト。
ナルト自身が抱える里への複雑な心中はともかく。

「……子供らしくないのォ」

しみじみ自来也が言い注連縄もため息。

『そうなんですよ、先生。こんなに可愛いのにちーっとも子供らしくなくて』
「お前が育て方間違えたんじゃないか?」
『えー!? 僕がですか? 愛情たっぷりですよ、常に』
「しかし実際は大層醒めたガキになっとる。駄目だのォ」

 大体お前達に子育て論なんて論じる権利あるのか?

ナルトの疑問を他所に師弟の会話は続く。

『苦労しましたから、ナルちゃん。少し斜に構えたところはありますけど。大変良い子に育ちましたよ』
「そうか……。色々あっただろうしな。わしも里にいなかったしなァ」
『ナルちゃん自身が早熟だったこともあるんですけど。やっぱり僕の見込んだ子です。将来的に木の葉を背負えるに足りる器になりますよv』
「三代目のじじいも後継者問題で頭を悩ますことはないな」
『そえれを言うなら先生も火影候補でしたよね?』
「ガハハハハ。わしには向かん。気楽に本でもしたためている方が楽しくてのォ」

 こ、こいつら……。人をダシにして気楽に語らいやがって。

現実問題として大蛇丸に狙われている木の葉の里。
里の状況をさておき呑気に話しこむ伝説の忍と元最高実力者。

 駄目だ。こいつらのペースに乗ってたら俺がオカシクなる。馬鹿が感染る!

ナルトはテーブルに置かれた伝票を掴み席を立とうとした。
「まぁ。まて」
自来也が意味ありげにニヤリと笑う。
「そろそろ。九尾のチャクラコントロールを教えようと思ってな」
ナルトは伝票を掴んだままで固まる。
注連縄が珍しく真顔でうなずけば、ナルトも大人しく席へ腰を落ち着けた。
『お兄さんの封印は八卦。四象封印×2なんだけど。その四象封印から漏れ出した九尾のチャクラをナルちゃんへ還元できるように組んである』
「ああ」
己の出自を知った時に確認済みだ。
ナルトは短く相槌を打つ。
「誰にも得意・不得意がある。お前にはお前の戦闘スタイルがある。今までは高等禁術や暗殺術ばかりだったろうが。今度はパワーだ」
自来也が唇の端を持ち上げる。
「感情の上昇でしか扱えない九尾のチャクラ。それでは宝の持ち腐れ。膨大なチャクラを必要とする『口寄せ』にはもってこいの力だ」
ポンと煙を立てて出現する巻物。
広げて見せて自来也はナルトの返答を待つ。
「……口寄せ」
大蛇丸が死の森でやってみせた蛇の口寄せ。
ナルトは思い出して口の中だけで小さく呟く。
口寄せは時空間忍術の一つ。
呼び出す対象となる動物との相性も大切だ。

目の前の巻物は蝦蟇を呼び出すもの。
注連縄の名前もある。
右手の親指を噛み切り無言でナルトは巻物へ名を記した。
本名である天鳴(あまなり) ナル。と。





切り立った崖の上。
立つのは美少女一人。
肩までの金色の髪と、湖面を髣髴とさせる蒼き瞳。整った鼻筋に柳眉。
桃色の唇も愛らしく。ナルトの本来の少女姿である。
美少女の背後に立つのは二人(?)の男。
無論自来也と注連縄であるが。

吹き上げる風に身体を任せながら少女の行動を待つ。

「しっかし乱暴だのォ。自らを生命の危機に落とし九尾のチャクラを引き出すなど」
『ナルちゃんなら大丈夫』

 勝手に言ってろ。

 自来也に言われて正直ハッとした。
 忍のスタイルに囚われすぎて自身の戦い方を考えもしなかった。

 こうあるべき。固定観念に縛られ謂わば型通りの『忍』になった己。
 難しく考えすぎていたのかもしれない。

少女は躊躇う事無く崖底目掛け身を躍らせた。




薄暗い水路。膝まで浸かるほどの水。

俺のナカだ。

確信を持った少女は獣の咆哮響き渡る奥深くへ歩き出す。
巨大な門『封印』が施された広場の手前。
少女が立ち止まる。

 オオオオォォォォォ

少女を威嚇するかのように格子越しに繰り出される爪。
微動だにせず立ち尽くす少女。初めて対峙する九尾。
これほどのものとは想像の域を超えていた。

肌を刺す禍々しいチャクラ。圧倒的威圧感を持って少女を威嚇する気配。
存在そのものが恐怖と畏怖の対象。
大蛇丸の比ではない。

「何の用ォォでココに来たァァ」

身も凍るような九尾の声音。
高鳴る心臓を無理矢理押さえ込め努めて冷静にナルトは言い放った。
久しく使っていなかった本来の言葉遣いで。

「アホギツネ。わたしの身体に泊めてやってるんだから、家賃くらい払いなさい」

格子越しに交差する九尾の真っ赤な瞳。
少女の蒼き瞳。

「……グワハハハハハ。どのみちお前が死ねばわしも死ぬというかァ。わしを脅すとは大した度胸だァ!」

鉄格子越しに水を伝って流れ出す九尾のチャクラ。

「ここまで来た褒美だ。くれてやるぅ」



覚醒する意識。
落下し続ける自己の身体。
少女は顔を上げ右手親指を噛み切り印を組んだ。

順序は『亥 戌 酉 申 未』。先ほど教わった通りに。

「口寄せの術!」
一際盛大に巻き上がる煙。
煙の中から姿を見せたのは……。


「血は争えんのォ」
『ナルちゃんvvほら、先生! 僕と同じですよ、ナルちゃんvv 親分呼び出すなんてセンス良いな〜』

本来のナルト仲間内では余りにも有名な話である。

余談として。
主導権争いとなった蝦蟇vs美少女の戦いの余波で崖一部が消失した事実と。
何故か記憶喪失となった家庭教師が温泉宿に保護されていた事実が報告書に記録されている。



自来也さん大好きです。自分に正直なところが(笑)師弟会話書いてて楽しかった。(私が)ブラウザバックプリーズ