示されし意思

第ニの試験終了。
続け様に第三の試験予備選が行われる。


「……」
「どうしたの? シノ君」
やや顔色が冴えない丸眼鏡の少年に一人の少女が心配そうに声をかける。
口許までを覆う襟の高い上着の少年・シノは無言で手を左右に振った。


「ハァ……」
「あれ? シカマルどーしたの?」
マフラーをしたポッチャリ系の少年は傍らの仲間を見る。
長い髪を頭の高い位置で結わった少年・シカマルはぐったりしていた。

 やばすぎる。

シノ・シカマル両名共に共通する感情。
二人の目線の先に立っているのは『意外性NO.1』のうずまき ナルト。
同じ班のサスケに野次を飛ばしている。
飛ばしているのだが。

 お前ら負けたらシメる。

第ニの試験で状況が多少変化したようで。
ナルトは当然のように二人へ要求してきた次第だ。
シノ・シカマルはナルトと共にチームを組む同僚である。

『ドベ』を装う訳ありナルト。
ナルトとは古い付き合いを持つシノ。
最近ナルトの本性を知るも、珍しく(!?)根性を見せ実力をつけたシカマル。
実力的にナルト→シノ→シカマルなのでナルトの要求は実質の命令であって。

 拒否権はない。

謎のチャクラ吸収忍を撃退したサスケ。
何か不具合でもあるのか担当上忍が彼を引きずるようにして奥へ引っ込んだ。

スクリーンに表示されるシノの名前。

「……」
実力を隠しつつ且下忍レベルの戦い方で勝利を収める。
シノは無言で考えをめぐらせつつゆっくり階段を下りた。
相手の音忍は二階部分から下へ音もなく降り立つ。
「フン、どこの雑魚だ」
自信たっぷりに音忍が言った。
「……」

 シカマルから連絡を受けている。
 こいつらは『うちは』を狙いナルトの手を煩わせた三忍組みの一人。
 ナルトの目の前で醜態は晒せない。

嘆息してシノは命知らずの間抜け面を眺めた。
「ここで戦うならお前は再起不能になる。棄権しろ」
取りあえず説得を試みる律儀なシノである。
少々の自信をちらつかせ、暗に自分は強いとアピールしてみせたのだ。
相手は頭が悪そうな忍なので効果は期待できないが。
「てめーなんぞは片腕だけで十分だ」
嘲り哂う音忍の答えが全てを決定付けたのはいうまでもない。
シカマルは天を仰ぎ、ナルトは目を細め笑う。

数分もしないうちに決着は着いた。

「勝者・油女 シノ」
かなり手加減し、かなり弱く見えるように細工し戦った。
シノの程度を推し量れた者は居ない模様。
シカマルは胸をなでおろしナルトは悪戯っぽく唇の端を持ち上げる。

「なんだ! なんだ! シノの奴あんなに強かったっけ」
言いながらナルトはシノへ小さくウインク。
シノの眉が少々和らぐように緩んだ。

 あんなに抑えた戦い方も出来るんだ。シノって本当、器用だね。

背後に感じる担任の気配。
せめて自分が戦い終わるまでは消えていて欲しかったが、あの呪いをどうにかしたようだ。
担任の指先から血の匂いがする。
落ち着きをみせる担任のチャクラの断片を感じナルトは判断した。
「まったく! まったく! どいつもこいつも変な奴ばかりだってばよ!」
口先を尖らせたナルト。
「お前が言うなよ」
「あははー! 言えてる」
すかさずユニゾンで返ってくる仲間の言葉。
唇の先を尖らせつつナルトは次の試合の通知を待った。

宿命ライバル対決。
サクラといの。派手さはないが、親友だからこそ互いに一歩も譲らず手も抜かず。
ガチンコ勝負を続ける二人。

 ああいう闘い方を出来るくの一がいる里。か……。それなりにジジイもやるね。
 後身の育成という点においては賞賛に値するよ。

ナルトが盗み見た三代目火影。
視線に気がついた三代目は口に咥えたパイプを潜らせた。
少々得意げに。

フラフラになりながら最後の一撃を放つサクラ・いの。

「両者続行不可能・・・。ダブルノックダウンにより」
顔色の悪い特別上忍が告げる予選通過者無しの宣言。
「サクラちゃん!」
心配してナルトはサクラに近寄りつつ、同時に安堵していた。

 中忍にはなって欲しい。
 サクラは着実にサクラなりの忍道を探し始めている。
 応援したいと思う。
 でも今回ばかりは危険だ。
 大蛇丸。何を考え仕掛けるのか分からない強敵。
 忍として戦わなくてはいけない相手だからこそ。

 サクラちゃんには蚊帳の外に居て欲しい。

「いろいろあったけど……。この中忍試験に出してよかったと。心からそう思っているよ」
いのの担当上忍アスマに応じて答えるカカシ。
しんみりする子供達。

次に開始された砂のテマリとガイ班のテンテンの試合。
圧倒的相性の悪さによりテンテンの敗北。
飛び出したゲジマユを止めるガイ。

引き続き行われる第六回戦。

「おれね……」
ハァ〜。めんどくせー。めんどくせーけど、まぁ、な。
まったくヤル気のない調子で下へ降りるシカマル。
ナルトの視線を頭のてっぺんに感じ口を真一文字に結ぶ。

 わーってるって。実力隠して戦えってね。

「フー。ようやく影真似の術成功」
「!!」
素早く戦略を練ったシカマルの頭脳は音のくの一の動きを封じる。
最後の仕上げにシカマルは手裏剣を取り出した。
同じ動きをするくの一も手裏剣を取り出す。
「馬鹿が! お前とアタシはまったく同じ動きするんだよ! ……」
くの一が慌ててシカマルを罵倒する。

 それを計算に入れてんだよ、シカマルは。音忍の割にたいしたことがない。
 シノと戦った奴といい、このくの一といい。……囮か?
 これくらいの実力しかない忍達。
 大蛇丸が真剣に里へ何かを仕掛けるには明らかに実力不足だ。

ナルトは試合を観戦するフリをして考えを巡らせる。
眼下ではシカマルがくの一へ手裏剣を放った。
「へへへ……。いっちょあがり」
ブリッジした状態でシカマルはニヤリ。
くの一は頂頭部を強打し撃沈。
唇の端を持ち上げ耳のピアスを数秒弄る。
シノが憮然とした顔でシカマルだけに殺気を放つ。

それくらいではナルトを譲らん。と。

「忍ならな……」
淡々と今回の策について語る。

 っしゃー! キマった! 地味に戦っておけばそれなりに見えるだろ。
 シノばかりにアピールさせてたまるか。

公の試合をちゃっかり利用するシカマル。相対するシノも仏頂面。
シカマルの魂胆を見抜いたようだ。
ただ一人理解していないのがナルト本人で、二人の勝利を喜んでいる。

「勝者! 奈良 シカマル」
宣言が下り第六回戦は終了した。
続けざま掲示板に表示される対戦者名。

「来たァ! 来たァ! よっしゃー!! おまたせしましたァ。やっと俺の出番だってばよ」

 俺ねぇ。……キバと赤丸か。五行封印されててチャクラも不安定だし。
 手加減して悟られないように戦うには。どうするかな?

「ウラー!!」
両腕を天へ掲げ気合を入れるナルト。取る行動とはまったく別の思考内容。
シノは気遣わしげにキバを見る。
シカマルも気の毒そうにキバを見た。

 同じ時期にアカデミーで学んだキバ。
 悪い奴じゃない、できれば中忍試験に通って欲しい。

共通する少年たちの考えだ。
しかしキバはナルトに勝つことが出来ない。

 いや。例え十年先に再び戦ったとしても。
 ナルトに勝てる確率は限りなくゼロに近い。

対峙するナルトとキバ(プラス赤丸)。

赤丸の存在を笑い、試験官にいちゃもんをつけた後。
ナルトは影分身で本体を会場から遠ざけた。
高速で繰り出されたナルトの術に気がついたのは火影一人。
笠を目深に被りナルトの離脱を見なかったことにした。

「注連縄! 役に立つつもりがあるなら出て来い」
『ナルちゃんvvv ついにお兄さんの愛を受け入れて……』
「御託はいいんだよ?」
目は全く笑っていないナルトの微笑。
金髪碧眼一見好青年風スケスケ人間(?)はこれみよがしに拗ね出す。
『非道いよナルちゃーん! お兄さんはこんなにナルちゃんの……』
「時間がない。注連縄、戦って来い。俺だと思わせとけ。
今の俺はチャクラが乱れすぎて細かいコントロールが効かない。キバを酷く傷つける。だけどお前を実体化するだけのチャクラなら出せる。
だから、行け」
青年の言葉を途中で止め無理矢理ナルトは言葉を紡ぐ。
『……いいけどさぁ、ナルちゃんお兄さんのコトなんだと思ってんの?』
「え? 忍具? または悪霊?」
『……』
とたんに青年・注連縄の瞳が潤みだし今にも涙が零れ落ちそうになる。
「じゃ、還る?」
ナルトも譲らず、懐から神聖な浄化の気を発する小太刀を取り出す。
注連縄は両腕を広げ降参ポーズ。
「交渉完了。じゃ頑張ってな?」
忌々しいが注連縄の実力はかなりのものだろう。
戦ったことはないが直感的にナルトは確信している。
景気づけのように上目遣いで注連縄に労いの言葉。
『ナルトらしく戦う、ね。お兄さん頑張っちゃうよ〜vvvv』
ナルトのチャクラを受け実体化する注連縄。変わり身の早さは相変わらず。
ナルトの可愛らしい上目遣いに撃沈され意気揚々と会場へ戻っていった。


 マジ……か!?

シノ・シカマル両名がキバと戦うナルトに呆然唖然。
ナルトとは微妙に流れの違うチャクラ。立ち振る舞い。
そして妙にテンションの高い喋り方。

二人の頭をよぎるのは某ストーカー幽霊の姿。
もしやとは思うが、導き出した答えは正しいのかもしれない。

変化の術分身の術を効果的に利用し、キバの混乱を誘う。
赤丸封じも完璧にこなし、激昂するキバを逆に落ち着かせる始末。
悪戯小僧ならではの発想とドベからの脱却を垣間見せる絶妙な成長振り。
試合を見せる側に印象を与えるべく計算しつくされた行動・言動。

「うずまきナルト連弾!」
影分身に蹴り上げられたキバの身体。
地面に叩き落して決める技。にしても。

 勝手にネーミングしていいのか? 後でナルトにシメられるぞ……。
 マジで。『ドベのナルト』らしいネーミングセンスだが本人に知られたときは大騒動だろ。

シカマルは頬が痙攣するのを感じた。

 ……ナルトをつれて避難でもするか。

悪びれない注連縄と殺気立つナルトが容易く連想できたシノ。
ナルトを独占できる良いチャンスでもあるので策を練る。
注連縄の運命はどうでもよいが二人の暮らす天鳴(あまなり)の家が壊れてしまうのは忍びない。
ナルトとの思い出の詰まった家だから。


更に爆走注連縄。
日向宿命の宗家分家対決に口を挟み。
宗家のネジに対し『ぜってー負けねー』宣言。

 ナルちゃんにはもー少し『熱血』して欲しいもんね〜♪
 ネジ君と戦って少しは気がついて欲しいよねぇ。

最後の本戦くじも狙い済まして引き当てて。
恐るべき注連縄。
注連縄のナルトへ示されたる意思。
ナルトが受け取るかどうかはともかく。一つの選択肢が発生する。

シノ・シカマル・注連縄と合流しナルトがマジ切れするまで後数時間。



いくらドベを装っていてもネジには興味なさそうなうちのナルコ。なので代打で注連縄さん。ブラウザバックプリーズ