忍び寄るのは……

中忍試験第ニの試験。
命がけのサバイバル。
通称『死の森』で繰り広げられる巻物争奪戦

「とああああ〜」
分身して川へ飛び込む金色ヒヨコ。
水に潜り泳ぐ魚を水面へ跳ね上げる。
川辺に佇む黒髪の少年は無言で指に挟んだクナイを投げた。
木の幹に突き刺さる魚三匹。
「もっと暴れろ。保存用にも取っておきたい……三匹じゃ足りん!」
ずぶ濡れになったままの金色ヒヨコへ注文をつける黒髪少年。
「あと三回だウスラトンカチ」
更なる注文に、「これってばスッゲーしんでーんだぞ! てーか代われ!!」両腕で水面(みなも)をばしゃばしゃ叩き暴れる金色頭。
「サスケくーん。火の用意できたわよ! 業火球お願ーい」
生い茂る木の間から姿を見せるのは桃色の髪の少女。
「……とりあえず三匹でいいか」
態度を翻す黒髪少年・サスケ。
「ちょっとまて! コラ!」
サスケを指差し目を丸くして怒る金色頭。
「? どうしたの? ナルト?」
桃色の髪の少女は金色頭の子供の名を呼んだ。
金色頭・ナルトは口を『へ』の字に曲げたまま黙り込む。
サスケは我関せずと言った態で川辺から遠ざかる。

 ったく。ガキのお守りは専門外なんだよ!

ナルトが重く濡れた頭を左右に振り、髪についた水分を飛ばした。
大蛇丸・音忍襲撃から四日目。
即ち第2の試験が開始されてから四日目。

難を逃れた(?)第七班の面々はこんな感じでサバイバルを続行中であった。


サスケが起こした火を囲み作戦を練る。
主に真剣に考えているのはサスケと先ほどの桃色の髪の少女サクラ。
ナルトは魚を見つめ食欲ばかりが先行しているように……見えるだろう。

 第一の試験開始前に接触を図ってきた忍。
 確か名前は薬師 カブト。気配を消してるつもりか? あれで。
 魚を焼くこの煙で何組が俺らの存在に気がついたかな……厄介だ。
 だけどサクラちゃんとサスケを空腹にしておくのもマズイ。
 俺と違って体力無いからな。

香ばしい魚の焼ける匂い。
表向きはニマニマ魚の焼ける様子を眺めるナルトだが、サスケやサクラ以上に周囲を警戒していた。

 取りあえずカカシ先生クラスのカブトなら『今の俺』でも勝てる。
 おびき出すか。

飲み水を汲みに立ち去ったサスケの居ない隙。
どちらかといえばナルトの意見にキチンと耳を傾けてくれるサクラを巻き込み。
カブトをおびき寄せる。

「この巻物を開いてみるってばよ」
巧みに計算されたナルトの演技で、サクラとの会話を望む方向へ運ぶ。
案の定サクラはルール違反だとナルトに怒るが。
「で、でも……。このままじゃヤバいんでしょ」
サクラに殴られた頭を抱え駄目押し一言。
ナルトの言葉に揺れるサクラ。
無言のままナルトが巻物に手をかければサクラは黙ってうなずいてくれた。

 その『優しさ』が悪用されないといいな。

なんだかんだいって『ドベのナルト』を仲間として認めるサクラ。
倒れたサスケと己を助ける為に形振り構わず戦ったサクラ。
どんなことにも一生懸命取り組むサクラ。

 嫌いじゃないよ?

今も正に『ナルトの我が侭』に付き合ってくれようとしているサクラ。

「やめた方がいい……」
巻物を開こうとしたナルトの手を押さえる青年が一人。
青年の気配に気がつかなかったサクラもナルトも驚いて固まる。

 ココでは始めましてだよね。

ビックリした顔つきのままナルトは思った。





「こういうジャングルや広い森の中での戦闘に於いて。最も利口な戦い方って知ってるかい?」
川辺を去って木の枝々を飛翔し移動する四人の影。
中でも一番の長身。
丸眼鏡の青年・カブトは講釈を始める。

 知ってるよ。『カブト』さん。最終日に切羽詰った下忍が取る行動は。
 あとはコレクターだろ? コレクターは各々がそれなりに強い。
 下忍クラスで言えばな。一番油断できない場所へ突入するってコトだ。

 そしてようやく。

 アンタの正体も分かったよ。大蛇丸のチャクラがアンタの服に染み付いている。
 経歴はジジイに問い合わせて(連絡用の口寄せ動物使用)確認した。
 桔梗峠近くで発見された孤児。
 木の葉の里に引き取られて現在に至る、ね。出来すぎ。

誰にも気がつかれずに、ナルトはクツクツと喉奥で笑う。

「アンタも怖いんだろ?」
一通りカブトの説明を聞いたサスケが複雑そうな顔で笑う。
「……そうだよ」
カブトがニコリと笑い返す。

 わざとはぐれたフリをしてサスケの実力確認か? 大蛇丸の手の者としては優秀だな。
 まずはお手並み拝見といきますか。

ゴールである塔が見える位置数キロ手前。
立ち止まった四人を出迎える巨大百足。
気配に気がついたナルトがクナイを投げ放つ。
「ナルトくん……」
カブトが表情を引き締めしゃがんだナルトを見下ろした。
「ん?」
「ここからは不注意な行動や不用意な物音は避けたい。密林を……身を隠しながらゆっくり行くよ?」
ごくりと唾を飲み込み、真剣な顔でカブトの言葉に耳を傾けるナルト。

 そう。殺気立つ気持ちは抑えたいワケ。
 サスケや俺・サクラちゃんを生かした事から推察しても、大蛇丸の狙いは俺達の『命』じゃないようだ。

「うん!」
素直にコクリとうなずき考えるのはカブトの思惑。
ナルトは辺り一体へかけられた幻術の波動を察知したが無視。
幻術を仕掛けた奴から巻物を奪えばいいとしても。
カブトが何を考えどう動くか。こちらが優先だ。

カブトを先頭にひたすら歩く。
視界に入る程近づいた筈の塔へは一向に辿り着けずに時間だけが流れすぎる。
「もうダメ……」
四人の中で一番体力のないサクラが根を上げる。
ヘトヘトに疲れきった様子で立ち止まった。
「どうやらボクたちは既に」
ナルトが仕留めた百足を指差し、カブトが冷静に状況判断を始める。

 フリしたって俺にはバレてるよ? カブトさん?

ナルトは影分身を作り上げ分身を地上へ。
自身は四日前の青年上忍へ変化。
地面の中へ素早く隠れ地表の振動で状況を把握する。

幻術を操る雨隠れの里の忍。

幻術と組み合わせた巧妙な攻撃に翻弄される四人。

「朧分身ね……」
土中。
茂みの中に突き出た呼吸用の筒から息を吐き出す青年(ナルト・本体変化)暫し思案したが首を左右に振りコキコキ鳴らす。
四人も忍らしく戦うが、減少するチャクラとサスケに掛けられた呪いの影響は大きい。

「助けますかね」
青年(ナルト・本体変化)は結論を下した。
瞬身の術を使用し雨隠れ三人の背後から火遁の術を。
「火遁鳳仙火の術」
サスケが唱えるものの比ではない。
何百と弾け飛ぶ火塊。
朧分身を全てなぎ払いついでに周囲の木々も少々燃やす。
「まったく〜。人の昼寝の邪魔は……」

 ニコニコニコニコ。

某ストーカー幽霊に非常によく似た(ナルトは否定するだろうが)笑顔とクナイ片手に、青年(ナルト・本体変化)は呆然とする雨隠れを脅しに掛かった。

「って!! なんでアンタがここにいるんだってばよっ!」
ナルト(影分身)が目を丸くし青年(ナルト・本体変化)を指差し絶叫。
「……え? 君達は試験を受けてる下忍達だったね……あれ? まだ試験って終わってないの?」
格好良い登場とは裏腹に天然ボケを炸裂させる青年(ナルト・本体変化)。
頭を掻き掻きナルト(影分身)へ尋ね返す。
「まだ終わってないってばよ」
ジト目で青年(ナルト・本体変化)をナルト(影分身)は睨み上げる。
「……彼は?」
警戒も顕にカブトが青年(ナルト・本体変化)を見る。
「音の忍に襲われた時乱入してきた上忍さんです。任務帰りで試験の事を知らなかったって」
サクラは呆れた表情でカブトへ答えた。
「四日前に帰ってなかったのかしら?」
「さあな。この里にロクな上忍がいないというのはよく分かった」
サクラの疑問にサスケが棘のある嫌味で返す。
「勝負ありってことだね」
一方的に言い、青年(ナルト・本体変化)が印を組めば意識を失い倒れ込む雨の忍。
「ズルくねー?」
持ち前の好奇心でナルト(影分身)は青年(ナルト・本体変化)に詰め寄る。
「え? ホラ、僕が手伝ったのバレると君達も失格だし。僕自身も謹慎だから。
証拠隠滅するにかぎるってだけの話」
悪びれもせずに雨の忍の懐を漁り巻物を奪う青年(ナルト・本体変化)
「これは口止め料」
青年(ナルト・本体変化)が差し出す巻物を、代表してサスケが渋々受け取る。
「ちっ……」
舌打ちしサスケは忌々しそうにそっぽを向いた。
本当は呪いの影響で相当辛いだろうに、何処までも可愛げのないサスケの様子に青年(ナルト・本体変化)は苦笑。

 サクラちゃんと俺の手前。強がってるな……カブトのコトも警戒してるようだし。
 黙って消えてやりますか。

「そこの君も黙っておいた方がいいよ? 君が喋れば道連れ失格だからね、同じ班の仲間」
(大蛇丸の指示が無いのにリタイアなんて無理だよね? 君は)
青年(ナルト・本体変化)は喋る言葉とは別に唇だけでカブトへ告げる。
カブトは眼鏡を掛けなおす振りをして、眉間に皺を寄せた。

 知らぬぞんぜぬを貫くなんて忍の鏡だよ、アンタ。

「君は聡明そうだ。僕の言葉の意味を理解できるよね?」
(大丈夫、君の正体を明かしたりはしないよ。こっちにも都合があるんでね)

「……分かりました」
あくまでも『うだつのあがらない下忍』を演じつつカブトが了承した。

「良かった。もうすぐゴールだし、頑張って!」
ポムポムとナルト(影分身)の頭を撫でる青年(ナルト・本体変化)にナルト(影分身)がむくれる。
「てか、真っ直ぐ家帰れ!」
激励の言葉に逆上し、ナルト(影分身)は怒鳴り帰す始末。
「失礼でしょう!」
すかさずサクラの鉄拳制裁を喰らい吹き飛ばされるのはご愛嬌。
「じゃ〜ね〜。頼もしい後輩君達」
下忍達を暖かい眼差しで見つめ、それから青年(ナルト・本体変化)は姿を消した。
飛翔するフリをして気配を殺す。
次に吹き飛ばされたナルト(影分身)と入れ替わった。

「!?」
カブトは傍から見ても分かるくらいに動揺する。

 そうじゃなくちゃな。アンタに分かるように『ゆっくり』入れ替わったんだから。

「どうかしましたか?」
不思議そうにサクラがカブトへ声をかける。
「いや、なんでもないよ。先を急ごう」
頭(かぶり)を振ってカブトが歩き出す。

 尻尾は出さなかったな。けどサスケと俺のデータを取っていた。
 ……はぁ、忍び寄ってくんのは危ない奴ばっかだな。
 大蛇丸といい、こいつといい。サスケの奴。
 実は危ない系にモテるのか? カカシ先生とも結構波長が合ってるよな〜、サスケ。

カブトの背を眺めナルトは総括した。


余計な疑いを掛けられたサスケ。
ゴール地点へたどり着くまで奇妙な悪寒に襲われ続けたというのは全くの偶然で……ある?



この辺りは書いていて微妙。無理矢理かな〜・汗。ナルコカブトと対面す&サスケに疑惑を抱くでした。ブラウザバックプリーズ