力の価値  後編

不気味なプレゼントを残し立ち去った謎の忍大蛇丸。

金色の髪の子供は煮えくり返る腸を宥め辛うじて繰り出す忍術は影分身。
大急ぎで大蛇丸なる忍が消えた方角へ走る。
「チッ」
木の幹内を這うようにして移動する大蛇丸を懸命に追う。
こんな風に切羽詰った感情を覚えるのは本当に久しい。
ナルトは舌打ちした。

残した影分身と『何らかの呪い』を刻まれたサスケ。
一人ぼっちのサクラ。
心配は心配だが五行封印によりチャクラが大きく乱された今。
両方をサポートするまでには至らない。
後数分もすれば体力も回復する。

 ……俺としたことが。いよいよ頭も錆付いたようだ。音の里。
 あの情報を聞いた時点で怪しむべきだった。
 己の力を過信してた訳じゃないが、完全に俺のミス。
 状況判断を誤った俺の誤りだ。

「!?」
夕闇迫る死の森。疾走するナルトともう一つの気配。
第ニの試験官、アンコだ。
ナルトは素早く地面近くに降り立ち気配を周囲に同化。
呼吸すら微弱にコントロールし周囲の様子を窺う。
「私の役目よね、大蛇丸」
「無理よ」
木の幹に浮かび上がる大蛇丸の身体。

 キモイ……。

正直な感想とため息。あんな人外……己も人外だがそれ以上の忍に負けたかと思うと腹が立つ。
実際サクラとサスケがいなくても良くて五分五分の戦いしか出来なかっただろうが。

そして始まるアンコと大蛇丸の戦い。

 いや。戦いと言うより、あのアンコの顔は。
 死を決意した忍の顔。
 元弟子にしてはやたらに殺気たっぷりじゃないか。曰くつきか?

「へっ! 捕まえた。大蛇丸アンタの左手借りるわよ」
木の幹に大蛇丸を貼り付けアンコは印を結ぶ。
「そう……アナタも私もここで死ぬのよ」

 違う。ソレは影分身だ。

「フフ……自殺でもするつもり?」
思わず身を乗り出しそうになるが、大蛇丸の言葉にナルトは尚も潜伏を決め込む。
始まる会話にナルトは耳を澄ました。
「嫉妬してるの? ねぇ……!? お前を使い捨てにした事まだ根に持ってるんだ……アハ…」
不可思議な印を組んだ姿勢で大蛇丸がアンコを揶揄する。
アンコは首筋を押さえ苦悶の表情でうずくまった。
「お前と違って優秀そうな子でね。なんせうちは一族の血を引く少年だから。
容姿も美しいし。私の世継ぎになれる器ね……」
草忍の顔を脱ぎ捨てた本来の顔。
大蛇丸の眦が吊り上る。

 器? サスケを器に? ……三忍の一人、大蛇丸。
 禁術・術のエキスパートで危険な研究ばかりをしていたって話しだ。
 四代目を決める際に立候補し、それを退けられている。

 恨みを持ったようで四代目決定の後に抜け忍となる。
 現在はビンゴブックSクラスに位置。

大蛇丸に関するデータを頭の引き出しから取り出し思案。
やがてアンコの意識が途絶え出した。

「そこに居るんでしょう?」

 なーんだ。ばれてんだ?

「……」
変化の術を使いナルトは青年姿へ。乱れるチャクラを押さえ木の枝まで飛翔。
「くれぐれもこの試験中断しないでね」
くつろいだ姿で大蛇丸は告げる。
青年(ナルト)は片方の頬をヒクリと痙攣させ無言のまま大蛇丸を見た。
「大事なことなのよ?」
大蛇丸は余裕たっぷりの様子で念押しする。
「大事? 草忍を潰し成りすましてまで成した事が、か? それとも音の里を売り出す絶好の機会だとでも?」
全身を駆け抜けるピリピリした緊張感。
青年(ナルト)は動揺に蓋をして疑問を口にした。
「両方アタリでハズレよ」
腕組みをした大蛇丸が鼻で笑う。
「ジジイ狙うほどアンタも暇じゃないか。里の興亡にも興味がない。
……器を手にするためにまどろっこしく試験を利用したのか?」
青年(ナルト)が顎に手をあて考え込む。
「フフ……さあ? 木の葉の里と違ってウチの里は少数だしね。君のような優秀な人材も居ないのよ」
曖昧に答え肩を竦める大蛇丸。
「君は強すぎるし危険だわ。諸刃の剣のように。下手に手を出せば私が被害を被るもの。
少しスマートにコトを運びたいと思ってもバチは当たらないでしょう?」
「スマート……ね。アンタみたい忍でも忍道がある、否定はしない。だが俺の利害と重なるなら容赦はしない。俺はもっと強くなる」

 アンタなんか簡単に越えてやるよ。

唇の端だけ持ち上げ笑う。

大蛇丸は興味深そうにしげしげ青年(ナルト)を観察した。
「素質があるのは否定しないけど? 随分大きくでたもんだわ……」
呻き声をあげるアンコを一瞥した大蛇丸は関心した調子で呟く。
「『力の価値は血筋とは無縁』なんだろ?」
青年(ナルト)の口から零れる一言に、真に驚愕した大蛇丸。
「!?」
大きく目を見開き青年(ナルト)を凝視。
「……まさか? 君は……」
「中忍試験は続行する。上忍である俺が保障しよう」
残してきた影分身がサクラの危機を告げている。
どうやら大蛇丸のもう一つの『プレゼント』らしい。

 油断ならない奴だな。相変わらず。

大蛇丸の問いたげな眼差しをかわしナルトは姿を消した。

「天鳴(あまなり)の生き残りだと言うの? あの子……」
呆然とした面持ちで大蛇丸は何度も瞬きを繰り返す。
どこか遠くで獣が咆哮する声が響き渡る薄闇夜。
大蛇丸は口を真一文字に引き結び、苦しげなアンコへ言った。
「もし私の愉しみを奪うようなことがあれば。木の葉の里は終わりだと思いなさい」
すぐさま姿を消した大蛇丸。
「……大蛇丸はともかく……あの上忍を名乗る男は一体……」
アンコの問いかけに答えるものは無い。
ヒタヒタ歩み寄る夜の帳ばかりが余計に不気味さを煽る森の中。
尤も危険な第ニ試験が真に幕をあげた。


傷だらけのオカッパ頭。絶望的な顔つきで唇を噛み締める桃色の髪の少女。
「!!」

 おいおいおいおい。
 ゲキマユとなんで一緒なんだよ!! ってソコに驚いてる場合じゃないってな。

少し開けた森の広場で向かい合う音の忍(三人)と木の葉の里の忍(二人は眠ったままで二人はボロボロ)。
木の上から状況を眺める青年が一人。
髪をバンダナの中へ押し込め、淡い水色の瞳。形の良い鼻筋や金色の柳眉。
やや薄めの唇。整った容姿を持つこの青年はナルトの変化した姿である。

ちなみに地面に寝転がっている『ナルト』は影分身だ。

「私よりいい艶してんじゃない……コレ。忍のくせに色気づきやがって」
柄の悪い音のくの一が桃色の髪の少女・サクラの髪を掴み上げる。

(……シカマル、無駄に出て行くんじゃねーぞ)
木の茂みに鎮座する猪鹿蝶トリオ。目線を逸らしたシカマルの眼を捕らえナルトが指示を出す。
シカマルは戸惑い気味に眉を八の字に曲げた。
(山中がビビってる。ポッチャリも乗り気じゃない状態で出て行ってみろ。お前らがヤバイ)
緊迫した空気の中、サクラは決断した。
「何を言っているの?」
クナイを握り締めサクラらしくなくニヤリと笑う。
次の瞬間サクラが振り上げた腕は己の髪向けられた。
サクラ自身の手によって切り落とされた自慢の髪。
場に居合わせた木の葉の誰もが驚く。

変わり身の術で音の攻撃をかわしつつ、移動を繰り返すサクラ。
捨て身とも思える彼女がとった戦法は……。
上空から攻撃をかわさずに音の忍へ縋りつく。
片腕をクナイで刺しもう片方の手首に噛み付いた。

見つめるいのの瞳に涙が浮かぶ。

(おい! 悪いが乱入するぜ)
シカマルはポッチャリした体系の子供がつけたマフラーを握った。
草陰から飛び出す三人。二転三転する戦闘。
チャクラの不安定さとサスケについた呪いを考慮し、木の上から傍観し続けるナルト。
仲間に対して酷い仕打ちとも取られかねない。
しかし生き残り試験を突破するには冷静な頭が必要なのだ。
このままナルトが飛び出そうものなら。

確実に。

音は全員皆殺しにしてしまう。

大蛇丸へのあてつけと警告を含めて。
音の真意を測る前に目の前の音の忍を消す訳には行かない。
ナルトの実力を悟られてもいけない。

肉薄する戦い。危機に陥った木の葉を救ったのはサスケ。
明らかに今までとは異なる状態で、サスケの頬から腕先にかけて禍々しい文様が浮かび上がっている。

サスケは自らを『復讐者』と定義し、圧倒的な力で音の忍をのしていく。

「もうやめて……」
暴走しかけたサスケを止めたのはサクラの涙。
緩む空気。
「……甘いよ!」
音の里のくの一がクナイを投げる。
すかさずクナイで弾き返す音がする。
「血の気が多いのは構わないよ? ただ勝負はついている。大蛇丸はそこまでしろと指示をしたのかな?」
柔らかい雰囲気を身に纏った青年(ナルト)の登場。
誰もが一瞬身構えるが青年(ナルト)がつける額当ては木の葉マーク。
見たことは無いが美青年でいのが目を丸くしてる。
「ルール違反は見過ごせない。今の僕は機嫌が悪いんだ」
笑顔に殺気を織り交ぜて青年(ナルト)が脅す。
身に纏う雰囲気が注連縄に近くも無いが指摘する人間は幸いにもいない。

静かなる圧倒感。
青年が再度ニコリと微笑めば、音の忍達は身体を硬くする。

音の里の忍のリーダーらしき蓑を背にした少年が巻物を地面へ置いた。

「これは手打ち料……。ここは引かせてください」
青年(ナルト)の警告を受け入れた形で音の忍達は姿を消した。

「あのー……」
首をかしげ青年(ナルト)を見上げるサクラ。
「ええっと。実は通りすがりなんだよね、僕。任務で帰ってきたばかりで試験のコトすっかり忘れていて。訓練ついでに森に来たんだけど……アハハハハ」
照れたように頭の後ろに手をあて青年(ナルト)が苦笑する。
「間抜けね……」
呆れた顔で青年を見るいの。
「でも助かったじゃない」
チョウジがのほほんとした調子で突っ込む。
「あー。本当は手助けしちゃいけないんだよね。だから今は名乗らないでおくし、このまま消えるよ。
君達も内緒にしておいた方が良いよ、失格になるから」
青年(ナルト)が告げる『失格』の言葉に誰もが唾を飲み込んだ。
さり気に釘を刺し、堂々と姿をくらます青年(ナルト)。
煙に包まれた観のある下忍達。

「ぎゃぁぁぁぁぁ」
そしてナルト(影分身と入れ替わった本体)が目を覚ます。

「すごい天然だな。お前は……」
(後で事情を説明しろよ?)
眠っていたナルトの後頭部を叩き、起こしたシカマルがナルトを見下ろした。

「は?」
(ああ。ジジイにも報告しなきゃならないしな。シカマルも折角特別上忍になったんだ。
少しは役に立たないとな)
頭にたんこぶこさえたナルトは間抜け面を晒す。

「つーか、見ててむかついてくるな」
(了解。善処する)
冷たく言うシカマル。始まるナルトの天然ボケに和む下忍達。


 そう。力の価値なんて曖昧なモン、信じているようじゃ駄目なんだよ。


サクラの短い髪に驚き。リーの存在に驚き。
忙しなく動き回りクルクル表情を変えつつナルトはほくそえんだ。


こうして試験は過ぎていく〜。書いてて個人的には楽しいですけど。どうなんでしょうね。ブラウザバックプリーズ