激しい人


窓を蹴破りバックに炎を背負う勢いで登場したくの一。
「私は第ニ試験官! みたらし アンコ!! 次行くわよ、次ィ!!!!」

 ……はぁ…。

メンドクサイ。が口癖の仲間ではないが、思わず思ってしまう。
金色の髪の子供は大きな瞳を大きく見開いてアンコを見た。
『ナルちゃん、あの子ね? 大蛇丸の弟子だった子なんだよ。アンコは優秀なくの一なんだ〜。性格がちょっとアレだけど』
金色頭の子供。隣で囁く半スケスケボディーを持つ青年。
子供と同じ金色頭。美しい蒼い瞳を持つ美男子風の青年だ。
(注連縄……フォローになってない)
小さく金色ヒヨコは悪態をつく。

「空気読め……」
ボソリ呟く第一試験官イビキ。
アンコは微かに表情を強張らせたものの、すぐに試験官の顔つきに戻る。
意外に残った(アンコ的意見)二十六チームの面々はアンコに伴われて次なる試験会場へ移動した。


入口は頑丈に閉じられ、うっそうと生い茂る森から漂う死の気配。

「第四十四演習場か」

ポツリ呟く金色ヒヨコ。

「え? ナルト、何か言った」
耳元の桜色の髪を掻き揚げ少女が少年を振り返る。
「? なにも言ってないってば、サクラちゃん」
金色ヒヨコ……ナルトという名の少年が答えれば、サクラと呼ばれた少女は眉根を寄せた。
「じゃぁ、サスケ君?」
斜め前を歩く黒髪の少年へ声をかけるサクラ。
黒髪の少年サスケは「いや」と、少々無愛想に返事を返した。
常に冷静な少年にしては珍しく緊張しているらしい。手足が同時に動いている。

「ここが『第2試験』会場。第四十四演習場。別名『死』の森よ」
金網に囲まれた森を見上げる受験生達。一種異様な空気を持つ森に気圧される。
森をバックに説明をするアンコ。

 いつもの訓練場所につれてこられても。困るんだけどね。

ナルトは片手を腰に。残った手を額に当て森を見上げる。
表向きは難しい顔つきで森を見つめるが思っていることは正反対。

 何事もなければ。無事に通過だな。大方サバイバルだろ? この森で。

目を細めるナルト。無論些細なナルトの動作が誰かに気が付かれることはない。

「なんか、薄気味悪い所ね」
胸の前で手を組んだサクラが不安そうに前方の森を見つめる。
「フフ……」
アンコの怪しい微笑み。受験生達は一斉にアンコへ注目。
「ここが『死の森』と言われる所以。すぐ実感することになるわ」
何処か勝ち誇った微笑を湛えるアンコに、ナルトいち早く反応する。
「『ここが『死の森』と言われる所以。すぐ実感することになるわ』、なーんて脅してもぜんっぜんへーき!! 怖くないってばよ」
サクラとサスケの白い視線を浴びつつ、ナルトは腰をくねらせアンコを揶揄する。

『そりゃナルちゃんには怖くないよね』
隣で余計なツッコミを入れる注連縄は完全無視。

ナルトはアンコを指差した。
「そう、君は元気が良いのね」
満面の微笑で呟くアンコ。下忍ごときでは悟れないだろうが静かな殺気が滲み出る。
本気で相手にしてはいないだろうが、少しばかり釘を刺しておきたい。
そんな印象を受けるアンコの殺気だ。

 さて。後ろの怪しい髪長笠も気になるし。どうでるの?

すかさずアンコの袖から放たれるクナイ。
クナイは目を見張るナルトの頬をかすめ、背後の髪長笠の髪を一本切る。
トンッ、地面に突き刺さった。

 オイオイオイオイ。簡単に挑発に乗らないでよねぇ?
 動かなければ大丈夫だって分かるから動かないけど?

自身の背中に感じるアンコの気配。ナルトは内心微苦笑した。

「アンタみたいな子供が真っ先に死ぬのよねぇ。フフ……」
ナルトの肩を掴みアンコが耳元で囁く。

 ご明察。俺みたいなタイプは真っ先に死ぬよ。
 だけど今回は丁度良い。
 カカシ先生の監視もないし、『うずまき ナルト』が成長するには好都合。

頬から滲み出た血をアンコに舐められながら考える。

『いいなぁ〜。アンコちゃん……ナルちゃんの頬を舐められて』
くすん。しゃがみ込み、恨めしそうにアンコを見上げる注連縄。
いい加減姿を消して欲しいものだ。
ナルトが消したいが、人目が多いのでそうもいかない。
ナルトは感情の篭らない瞳で注連縄を睨みつけた。

 このくの一。くの一の気配のほかに何らかの呪(まじな)いの気配がする。呪印か?

顔を引きつらせながら、ナルトは冷静に考えをめぐらせる。
事前調査で受験する下忍達のデータは頭に叩き込んである。
大方の下忍達はこの二次試験で『落ちる』筈だ。
この森の性質を知るナルトだからこそ予測できる。
が、胸をよぎる嫌な予感は高まる一方。

 ……ちっ。頭の神経の先をチリチリ焼かれるこの感じ。
 俺の第六感がこの試験を危険だと告げている。

「クナイ、お返ししますわ」
笠を被った髪の長い草忍。舌で巻き取ったクナイをアンコへ差し出す。
「わざわざありがと」
ナルトを拘束したまま草忍へクナイを突きつけるアンコ。
二人の遣り取りにナルトは目を飛び出さんばかりに驚愕。した表情を作る。

 !? この気配。

反応するのは腹の化け狐。ドクドク波打ち興奮と歓喜をナルトへ伝えた。
「悪かったわね」
クナイの遣り取りの後、アンコが草忍へ謝罪の言葉を口にした。
「どうやら今回は血の気の多い奴が集まったみたいね。フフ、楽しみだわ」
ニヤ。含みを持たせたアンコの笑み。

 ……アンタが一番血の気が多いよ。

切られた頬をなでナルト嘆息。
アンコの血の気の多さに圧倒され、サクラは顔色を青くしサスケも表に出さないが驚きを隠せないでいる。

 そりゃね。この里にまともな忍がいないのか〜?? とか思うよな。

サスケの微かに顰められた顔を眺め、ナルトはしみじみ思った。


第ニの試験概要。それにともなう同意書。天と地の巻物。
(巻物をかけた争奪戦か。シノとシカマル、俺達に近づくなよ)
目の端をよぎる第八班と第十班の二人に目線だけで合図。
ナルトの意図を察した二人も唇の端を持ち上げた。

 お互いの潰しあいはしない。
シノの操る蝶がナルトの周囲を飛ぶ。

 めんどくせーな。一々関るかよ、お前等には。
気だるげにしゃがみ込み頭を掻くシカマル。

(中忍になりたくなければこのあたりでギブアップしとけ?)
シノ・シカマルだけに分かる様、薄く笑ってやれば二人は首を横に振る。
(物好きな奴等)
ナルトは軽く肩を竦めた。

『中忍はフォーマンセル(四人一組小隊)の隊長もするからね。的確な判断力と戦闘能力。
極限時における状況判断諸々を見るんだよ』
同意書を提出する間の実質休憩時間。

ぼんやり他の忍を見ている(表向きは)ナルトの横に注連縄が声をかける。
注連縄の姿は相変わらず誰にも悟られていない。
元が幽霊だと言うことと、注連縄が怪しい術を使って気配を完全に絶っているせいだ。

(アンコ、だったな? あの『大蛇丸』の弟子だったくの一。不思議と影がある。
注連縄は理由を知っているか?)
ナルトは唇だけを動かす。
『……それは本人から聞くのが筋だよ? 彼女は立派な木の葉の里の忍。それだけは絶対に確かな事実だから』
お茶らけ注連縄にしては真摯な言葉。
(了解。いずれは分かることだ。今は中忍試験に集中しないとな)
注連縄の真面目な態度にナルトも追求を止める。
『死の森には凶暴な獣や虫なんかが居るから、サクラちゃん大丈夫かな』
(サクラちゃんは女の子だし俺が守る。サスケは自力で何とかするだろ? エリートって本番に弱かったりするから未知数だけど)
首を捻る注連縄にナルトは落ち着いた調子で答えた。
『ナルちゃんもそうだった?』
注連縄が好奇心に目を輝かせナルトを見下ろす。
両手を胸の辺りで組んでぶりっ子ポーズまで決めている。
(少しはね。過信しすぎた力は時として毒となる)
ナルトの目線の先は草の忍。先ほどの笠を被った髪の長い草忍達だ。
『どうかしたの?』
(嫌な予感がする。面倒ごとが起こりそうな予感がするんだ。杞憂に終われば良いけどね)

首筋の産毛が総毛立つような悪寒。
隠そうとしても隠し切れない血の匂い。
多くの命を切り捨ててきた忍の匂い。
腹の化物が呼応して興奮するほどの邪気の持ち主。

一介の下忍が持てる雰囲気ではない。
探ろうにも相手のほうが一枚上手のようだ。
あの特別上忍のくの一ですら気がつかなかった。
気がつかせなかった気配。

『ドベ』を装っている以上は深く探ることは不可能。

『色々な里の忍が居る。他里の術も見れるし、面白いと思うよ』
またしてもナルトの思考を中断する注連縄。
狙っては居ないと思うがタイミングが良すぎる。
(若しくは実際に試してみるチャンスだな)
少々腹が立つので意趣返しに悪態を一つ。
『いや〜!! ナルちゃんは犯罪者になっちゃいけないんだよ!』
(……これは命がけの試験じゃないのか?)
『そーだけどさぁ。無用な殺生は罰が当たるから駄目!』
めっ! 親が幼子にするように、注連縄は人差し指を立ててナルトの眼前に突き出す。
(矛盾した奴。俺が怪我したら相手を呪うくせに)
『そりゃーねぇ。お兄さんのナルちゃんを傷つける野郎は問答無用で成敗』

ふふふふ〜♪

怪しくほくそ笑む注連縄の表情は、時代劇に出てくる悪代官のようで。

 マジになって相手してやるほど調子こきやがって。まったく。疲れる奴。

精神的に少々疲れてしまったナルトである。
『何が正しくて間違っているのかは。ナルちゃん自身で確かめると良いよ?
お兄さんは意見は言うけどあくまで意見だから。じゃ、頑張ってねvv』
額を掠める冷たい注連縄の手。
(注連縄?)
ナルトは、注連縄に優しく髪を梳かれやや機嫌が降下。
不機嫌も顕に注連縄を睨みつけようとするが姿は……無い。

 妙な前フリだけして消えるな。

額に青筋を浮かべナルトは乾いた笑みを浮かべた。
「ああ、最後にアドバイスを一言。死ぬな!」
アンコの簡潔な一言。
場が一気に引き締まる。

 そう。死んでしまったらそれでお終い。
 俺には果たすべき約束があり、守るべき場所がある。
 簡単に死ねるほど人生諦めていない……とは思う。

 まだ死ねない。この世にありすぎる執着を断ち切ることなど出来ない。
 筈で。
 醒めている自身の感情と比べても。

 ほーんと。激しい女だな。

凛々しい。という形容が似合うアンコに半分呆れ半分賛辞を送り。
サクラとサスケ。
二人と一緒に巻物を取りに歩き出したナルト。


 そういうナルちゃんも激しい気性の持ち主だよね〜vvv


発言し。
どこかの馬鹿が地雷を踏んだとか、踏まないとか。

ともあれ第ニの試験開始。



自分的には書いていて楽しいんですけどここら辺りは原作に沿いまくり。賛否が分かれそうですね。バラウザバックプリーズ