中忍への道


 まったく。

正直な感想を漏らし、表面上は『うずまき ナルト』仕様で、金色の髪の子供は担当上忍の半眼を凝視した。

数時間も待ちぼうけを喰らった挙句現れた上忍。
待つのは慣れたし別に苦痛じゃない。同じ七班の面々も諦め顔だ。
波の国から帰って以来の下忍の任務。
久々に表のナルトを演じる俺は相変わらず。
「というわけで中忍試験へお前らを推薦したから」
つらつら自体のあらましを説明する『せんせい』

気体に満ちた眼差しを送りつつ、醒めゆく心。正直馬鹿馬鹿しいと感じる。
同時に意外でもあった。
同じ班の超ルーキー(しかもエリートだ)と天才的頭脳を持つ少女……だけなら受験も問題ないだろう。
けれど。
『ドベで狐憑依(つ)き』の自分も混じった状態で受験に踏み切るなんて。

正気を疑う。

「まじでっ!?」
顔では喜色満面を形作り。拳を振り上げはしゃぐ己に吐き気がこみ上げる。
勘の良い担当であり監視役の上忍の事だ。仮初のこの姿には十中八九気がついている。
火影の圧力でもあるのか、子供自身への直接的な接触は無いが。

九尾の片鱗を宿す子供を敢えて『中忍試験』へ送り出す。
どういう腹づもりなのか。
疑いたくなくとも、理由を探りたくなる。

 面倒事が一つか。

眩暈を起こしかける精神を奮い立たせ、下降するテンションを無理矢理上昇させる。

 表向きの俺なら絶対に息巻かなきゃならないしな。

「よーしっ! 一発で合格するってばよ!」
感極まって武者震い。演技は完璧。
「まったく……。その根拠の無い自信は何処から来るのよ」
少々呆れた調子の天才的頭脳を持つ少女。
長い桜色の髪を掻き揚げて俺を見る。

姉のように俺を見守る雰囲気を時折見せる彼女。
実行力は乏しいが、内なる彼女の強烈なキャラは面白い。面倒見も良いし思い切りも良い。
客観的な判断力がつけばシカマルとまではいかないけど、そこそこいい線はいく。と思いたい。

そんな彼女の名は『春野 サクラ』

「フン……せいぜい、足掻くんだな」
今までと少しだけ違う嘲笑を俺に送るルーキー。
木登り修行や、その後の戦いで少しだけ変わった俺とコイツの関係。
こいつ、普通に育てば結構強くなるかもしれない。
少なくともシノ位には優秀な忍になれるかも。

復讐に潰されてしまわなければ。

一見クールな熱血下忍『うちは サスケ』

「俺は火影になるんだっ! 中忍試験くらいチョロイチョロイ。ぜってー中忍になるってばよ」
ニシシと笑って言い切れば、せんせいに頭を撫でられた。
「ま、頑張んなさい」
応援したいんだかしたくないんだか。少し微妙。

どういう意味で頑張ればいいんだろうねぇ? せんせい。

ジジイ経由で伝わる第三の影。

音の里。
新しく起きた里で、噂に寄れば『三忍』の大蛇丸が統治しているという。
ジジイの弟子、『三忍』とは面識が無い。
俺が物心付いたときは三人ともが行方不明。
経歴は知っているが……注連縄にでも聞いておこう。

「カカシせんせぇ! 余計な心配はノーサンキューだってばよ!」
胸の中で考え、行動と口調は別。
俺は上忍へ食ってかかる。
「じゃ、そういうことで」
言うだけ言って上忍は姿を消した。
取り残される俺達三人。
「中忍試験……」
サクラちゃんはやや興奮した声音で呟いた。

無理もない。
数回の任務しかこなしていない俺達が行き成り推薦を受けたのだ。
戸惑う気持ちと評価に対する興奮が綯い交ぜになっているのだろう。

「中忍」
宙を見つめ決意の表情を固めるサスケ。

常に付きまとうサスケの復讐者としての振る舞い。
もう少し肩の力を抜いた方がよっぽど強くなれるって事を、こいつは知らない。
つくづく器用で不器用な男だ。

「っしゃー! 早速修行だってばよ〜!!」
徐に叫んで走り出す俺。目的地は無論演習場。
今回の集合場所に一番近い演習場方向目掛けて駆け出した。

初めの頃なら。黙って俺の背中を見送った二人も。

「ちょっと、ナルト!? 待ちなさいよ」
チャクラを足元に集め走り出すサクラちゃん。
「チッ、先走るな。ドベ」
サスケも慌てて俺とサクラちゃんの後を追いかける。

小さな、小さな変化。
生死の境を潜り抜けた(これはカカシが使えなかったせいもある)絆・同じ忍として互いを認め合う気持ち。
複雑に絡み合う感情だけど。
二人は俺を『ドベだけど仲間のナルト』と認知した。

だからこそ俺を追いかけてくる。

「へへへ〜」
ニンマリ笑う俺。
少しだけ本心の感情も混じった俺の笑顔。
「ナルト、あんたはすぐ体力的な修行をするけどね?試験って事は知識も必要なのよ?
無駄に訓練場で身体を動かすのは効率が悪いわ」
真顔のまま俺を諭すサクラちゃん。

考え無しの俺を心配して……サスケの反応を窺っている。
恋する女は強いな。はは……。
俺をダシにしてサスケに好印象を与えたいみたいだけどサスケはかなり鈍いぞ。
少し前だったら俺も呆れたけど今なら分かる。
サクラちゃんなりに凄く必死でサスケにアタックしてるんだ。
サクラちゃんの努力と根性を馬鹿には出来ない。

「わ、わかってるってばよ。サクラちゃん」
心持青ざめて俺が答える。
「サクラに教えてもらったところで覚えていられるのか?お前は」
目を泳がせる俺にサスケは遠慮もなく突っ込む。
呆れ半分・嫌味半分で。ほんの少しの心配も混じっている。

不思議と嫌な気分にはならない。

サスケはこういう愛想のない奴だと分かっているから仕方ないと思えるのだ。
「ムカッ! サスケに一々言われたくねーよ! 俺だってヤルときゃヤルんだ!」
鼻息も荒く言い切れば、サクラちゃんとサスケはため息をつく。

こんな風に心配されるのも……悪くない。

快晴の下。俺達三人は息が切れるほどに走り、演習場へ到着した。
池と砂地、それから川のある演習場だ。
「はぁ……。はぁ……。移動に全力疾走しないでよね」
荒く息をついたサクラちゃんは俺を睨みつける。
これでも『ナルト』仕様の走りだから、結構遅いんだよ? 内心苦笑しながらも、
「ご、ごめんってば。サクラちゃん」
と。サクラちゃんに取り入るように俺は愛想笑いを浮かべる。
「ナルトにしては早かったぜ」
息を切らせず飄々とした態度のサスケは感想を漏らす。

はいはい。あり難い御託をありがとな。

俺は眉間に皺を寄せサスケを睨むが、サクラちゃんの顔つきが変わったので文句は言わなかった。
「こんなところで追いかけっこしてんじゃん」
降って沸く声。
「!? お前は」
俺は驚いた顔でそいつを指差した。

歌舞伎役者のような縁取り。肩に担いだ布に包んだ物体。
砂隠れの里の下忍。声の主は池の前に立っている。

「確かカンクロウ。砂隠れの忍……」
サクラちゃんは冷静に声の主を言い当てる。
そう、池の前に立っていたのは『カンクロウ』だった。
「邪魔だよ」
目も開けられない突風が俺達を襲う。
腕で目をガードして風をやり過ごす。
収まった風に目を開けると目の前には少女が一人。巨大扇子を手にする彼女は・・・。
「テマリ」
カンクロウが傍らに立つ少女へ言った。三姉弟の長女『テマリ』。
高慢とも思える態度で俺達を威圧する。
最後に男と姿を見せたのが瓢箪を背負った少年。『我愛羅』

「ここは残念ながら我々の貸切だ」
三姉弟の世話役……担当上忍と思しき人物が口を開いた。
顔半分を布で隠した不思議な帽子状の額当て?をしている。

確かこいつの名はバキ。砂隠れの上忍だ。

「貸切?」
俺は不思議そうな顔でバキを見上げる。

ジジイが教えてくれたような気もしなくは無い。
あまり重要じゃないだろうと聞き流した気がする。

「最後の調整もかねた訓練でな。悪いが他の訓練場を使って……」
「それともここで死ぬか」
バキの説明を遮る我愛羅の声。
喉奥で哂う我愛羅の表情は血に飢えた獣そのもの。
底知れない暗さを秘めた眼光がサスケを捉える。
「「……」」
視線に気がつかないサスケじゃない。
無言で我愛羅を睨みつける。
「我愛羅!」
静かに我愛羅を叱責するバキが二人の睨み合いを止めた。
テマリは無関心で、カンクロウは心持ち残念そうな顔をした。

仲が悪いのか? この三姉弟。

「どのみち俺に潰されるんだ。早ければ早いほうが良い。特に残りの二人はな」
サクラちゃんと俺を視界の端にとめた我愛羅の一言。
「確かに。弱そーじゃん」
同意するカンクロウ。値踏みする視線を送ってきたテマリも俺達を鼻で笑う。

ムカ。んだと、この三下。

久方ぶりの感情。それは『怒り』俺はムッとして口を真一文字に結ぶ。
チャクラが余計に漏れ出さないよう細心の注意を払い、殺気立つ。
「コホン! このまま帰るんだ」
焦るのはバキ上忍。殺気立つ俺達と、挑発的な三姉弟。
交互に顔を見渡し、バキは俺達を促した。
有無を言わさぬ口調で。
「……帰るぞ」
熱くなりかけたが、冷静さを失わないサスケが踵を返した。
サクラちゃんも納得がいかない顔ながらサスケに従う。
俺は無言のまま仁王立ち。
「ドベ! 行くぞ」
業を煮やしたサスケに半ば引きずられるように訓練場を後にする。
最後まで俺は奴等を睨み続けた。

冗談じゃないぞ。確かにサスケもサクラちゃんもまだまだ未熟だ。
話しにならない。だからって見下して良い訳ないだろ。
面白くない。

結局俺はカカシ人形に思いの丈をぶつけ、憂さを晴らしたのだった。





密室。

呆れ顔の少年。(目つき悪い+両耳ピアス)

透けた身体を持つ一見美青年。(金髪+碧眼)

満足そうな顔のご老体。(笠+髭)

『うんうんvv ナルちゃんも仲間への友愛が沸いて来たね〜』
ご満悦の青年。
うっとりとした表情で水晶を覗き込む。
「……メンドクセーな。ばれたらどうすんだよ」
頭を掻く少年。顔色は冴えない。
ご老体は目を細め笑う。
「大丈夫じゃ。いざとなったらわしが相手になる。
このカラクリに気がつけるほどナルを暇にはさせておかん」
言いながら引き出しから取り出す任務の巻物が数個。
『ナルちゃんだってね。少しは心を許せる人物を育てるべきだよ。将来的にね?
あの忌々しい“うちは”はともかくお嬢さんの方は有望でしょ』
今回の仕掛け人、青年は勝利の笑み。
「生き抜く上で捨て去ってきた感情か。昔のアイツには必要なかったかも知れねーけど、これからは必要かもな」
少年が不承不承、青年の意見に同意を示した。
『砂隠れの人達にはダシになって貰ったけどね。思ったより効果が高くてお兄さんラッキー♪』
悪戯っ子の表情で目を輝かせる青年。
「ふむ。今回のシナリオは大成功じゃな」
締めくくりにご老体が呟き、手にした巻物を燃やした。

蛇足だが。
巻物には『中忍への道パートT』と表記されていたことをここに記しておく。

七班の子供達大好きですvサスケ君もサクラちゃんも。なので無理矢理話を作ってみました。珍しくナルコ視点でしかもナルコの性格(考え)が丸い。ブラウザバックプリーズ