さざ波立つ呪い


朝靄も落ち着く午前の海。
波うち際。
黒髪の少年は潮風に身を任せ、一人海岸を散策していた。

 ザザーン。

寄せては返す波。
まだ傷のいえぬ少年ではあるが、リハビリを兼ねた散歩にでるくらいには回復している。

 ザザーン。

己が育った里にはない海。
陽光を浴びて煌く水面(みなも)は穏やかで。
ついこの間まで、悪意ある第三者によって支配されていたとは想像もつかぬ……静かな情景。

背後の森には仲間とともに訓練を重ねた巨木がある。

クナイで目印をつけた無数の跡が残る三本の巨木。
そして、死闘を繰り広げた相手。
忍としての埋葬法には反するが、皆で考えた結果こしらえた二つの墓。

 らしくもないな。

珍しく感傷的になる自分の気持ちに苦笑して。少年は目を細める。
『こんにちは〜』

 ザザーン。

しっとりとした雰囲気漂う海岸に場違いな能天気声。
一人の時間を害された少年は不機嫌も顕に声の主を振り返った。

『珍しい服装だね?』
少年の目の前に立つのは、旅装束の青年。
薄茶色の髪に紺色の瞳。
俗に言えば美青年に入る部類の男で人懐こく笑う様は無害に見える。
『お兄さんは注連縄って言うんだ。波の国には今日来たばかりで道に迷っちゃって』
頭をかいて照れる青年。
自称注連縄。

少年は怪訝そうに注連縄を見上げるが、無視するのもどうかと思ったようだ。
「……この海岸をあちら側に抜ければ中央の大通りにでる」
外見の年齢からは随分と素っ気無い応対だが少年にしてはかなり親切に道を教える。
『ありがとう、助かるよ』
注連縄は礼を言うものの歩き出そうとせずに少年を観察し出した。
『その額宛、有名な木の葉の里のものだね?』
「……ああ」
『じゃあ、君って忍者だったりするんだ?』
好奇心旺盛な注連縄の輝く瞳は、何故か少年のチームメイトを連想させる。
面倒だとは思うが邪険にも出来ない。
少年は、「俺は木の葉の里の忍だ」と。簡単に身分を明かした。
『お兄さん、こう見えても情報通なんだよ? その家紋は名門うちはのでしょう?』
「!?」
咄嗟に注連縄と距離をとり、クナイを構える少年。
『うちは サスケ君だったよね? 違ってたらごめんね』
クナイの刃先が光る。
殺気立つ少年に注連縄は慌てたようで、トンチンカンに謝罪の言葉を口にした。
「……」

この注連縄。敵なのか、味方なのか。それとも……?

様々な疑念が少年の裡に沸きあがる。
『もしかして……極秘任務とかで名前を名乗るのは駄目、とか?』
こくり。
幼い仕草で首をかしげる注連縄に、少年は無言でクナイをホルダーに仕舞った。
「いや……ただ……」
目線を逸らし口を濁す少年。
『あの組織の残党は君達が成敗したんでしょう? ここは安全なんだよね?』
にこにこにこ。
注連縄は無邪気に微笑む。
「……あんたの言うとおり、俺はうちはの人間だ。名はサスケ」
渋々ながら少年、サスケは名を名乗った。

何故だかこの注連縄には逆らってはいけないような気がする。
雰囲気が似ているのだ。
彼等のチームの担当上忍と。

『すごい戦いだったんだね。サスケ君、怪我してる』
サスケの腕や足、首にまで巻かれた包帯。
見た目には痛々しい限りで、それが注連縄の関心を引いたようだ。
注連縄は心配そうに顔を曇らせる。
「たいした怪我じゃない」
ぶっきらぼうに答えれば、注連縄は感動した様子で拍手し出す始末。
『うわ〜! 本物なんだねぇ。忍らしい答え方!』
「……」
大袈裟に驚かれサスケは引き気味。
早くこの場を立ち去りたい衝動に駆られた。
『ね、ね? その怪我は敵の忍と戦って出来たの?』
サスケに詰め寄る注連縄。
なんだか瞳がマジだったりして有無を言わせぬ空気を纏っている。
サスケは戸惑い、困惑した。
「いや……ちょっと」
『ちょっと?』
注連縄の追求は止まらない。
「……仲間を庇って」
自分でも不思議と身体が動いた。

心のどこかであの少年を認めつつある自分がいる。

だからこそ庇ったのだろう。
お陰で少年との会話がぎこちなくなってしまったが、二人とも無事だったので結果オーライだ。

『ふーん?』
注連縄が曖昧に相槌を打つ。

 まったく。油断ならないねぇ、うちはの人間は。
 無意識にナルちゃんに惹かれてるなんて言語道断!
 悪い芽は早いうちに摘んどかないと。

『ま、お大事に。小さな忍者君』

 ポンポン。

注連縄は肩をたたく振りをして、サスケに幻術を仕掛けた。


数秒後。

「ぐあぁぁぁぁぁぁ〜」
幻術に精神を攻撃され砂に撃沈したサスケの躯が。
海岸に転がっていた。
『ちょろいよね、ルーキーとはいえまだ下忍だし』
ほくそ笑む注連縄はスキップしながら移動を開始。
向かう先は無論、タヅナの家である。

 ナルちゃんは変わった。

注連縄が感じる正直な感想。
悪い方向にではない。全面的にチームメイトを信用しているわけでもない。
ただ、ほんの少しだけ。頑なだった心が柔らかくなった。
あのサスケと、もう一人。春色の髪を持った少女の力で。

 あのサクラちゃんって少女は無害なんだけど。
 カカシ君とサスケ君はねぇ〜。

ナルトにばれたら只じゃすまないだろうが。
不用意にナルトを傷つける要素は、迅速に取り除かなくてはならない。

 カカシ君、少しは強くなったかな?

久方ぶりに会う弟子は。どれくらいの男に成長しただろうか。
足取りも軽く、注連縄は道を急ぐのであった。





 殺気!?

マスクをつけた銀髪の男は、背筋を走る悪寒に身を引き締めた。
ちなみに男が居るのは畳の部屋。
しかれた布団の上で身体を休めている。
「……」
チャクラの使いすぎで念のための休養を取っている最中。
流石に教え子達も男の休養を邪魔しには来ない。

 気のせいか? それにしては……。

 とても嫌な予感&生命の危機を感じるのは何故だろう。

徐に襲われる眠気。身体の疲労はあるが眠い訳ではない。
だが意識が底へ沈みゆく感覚。数分もしないうちにカカシは眠りの国の住人となった。

『カーカーシ君』
「……」

これは夢で、現実ではない。

必死に自分に言い聞かせ、カカシは目の前の師をまじまじと見詰めた。
『驚いたよ。あの後、必死に頑張って僕の遺志を継いでくれたんだね』
木の葉の里。火影岩上のテラス。
向かい合うかつての師と弟子。
風に揺れる注連縄の髪がやけにリアルなのはカカシの思い過ごしではないだろう。
『上忍になって、教え子を持って。すごく立派になった。カカシ君の先生としては嬉しい限りだよ』

にこにこにこにこ。

師匠・注連縄の笑顔の奥に隠しようのない怒りが混じっているのは何故?
混乱する感情を押し隠し、カカシは無言のまま師の言葉を待った。

『でもね?』
教え子そっくりの紺碧の瞳がカカシを見据える。
『僕の宝物に邪なチャクラを送らないでくれる? それに、もー少しだけ生活態度を改めてあげて欲しいんだよねぇ』

遅刻癖とイチャパラ読み放題と? 怪しさ爆裂のマスクとか?

注連縄は指折り数え、カカシへの注意点を口に述べる。
下手に逆らうのは危険な感じがするのでカカシはひたすら沈黙を守る。
『僕としてはカカシ君がどれだけ強くなったかも。知りたいし』
ごく自然な動作でクナイを取り出し、注連縄は右手の親指表皮を切った。
少量流れ出す血液と組まれる印は……。
「四代目……!?」
カカシは半眼の瞳を限界まで見開いて、不敵に哂う師匠を見上げた。
膨大なチャクラによって召喚可能となる巨大蝦蟇。
四代目が頻繁に召喚していた口寄せ動物でカカシも存在は知っている。
『バンッ』
蝦蟇の頭の上。
胡坐をかいて座り込む注連縄が標的へ鉄砲を撃つ仕草をし、蝦蟇へ指示を出した。
とたんに空高く飛翔する蝦蟇から放たれる巨大な水の塊。

「……ちっ」

冗談じゃない。
写輪眼をもってしても、あの巨大水泡をコピーなど出来ない。
水泡の軌跡を予測しても範囲が広すぎるので逃げるのが精一杯。

 ドガーンッ。

大量の水が地面に激突する衝撃と、飛び散る木の葉の里の一部。
『流石だね、カカシ君v』
遠慮も容赦もなくカカシを追い立てる注連縄。
強烈な悪意が込められているのは明白だった。





数分後。

「大丈夫かしら? カカシ先生」
心配顔のサクラ。
頬に手を当てたまま、青ざめたカカシの顔を見つめる。
「カカシせんせぇ……何があったんだってばよ?」
サクラと並んで魘されるカカシを見守るナルトも不思議そうだ。
小首をかしげ悶える担当上忍を眺める。

深い眠りについたカカシは何故か大層魘されていた。
声を聴きつけたサクラとナルトがカカシの様子を見に来たのだ。

「疲れが溜まっているのよ。休ませてあげたら?」
部屋の入口に立っていたのはツナミ。
心配顔の子供二人の様子を見かねたツナミが看病をかってでる。
サクラとナルトは互いに顔を見合わせ、ツナミを見上げた。
「目を覚ましたら知らせてあげるわ」
ツナミが微笑めば二人はその好意に甘えるしかない。
カカシをツナミに任せ、やはり行方不明のサスケを探しに行ったのだった。


黄色い悪魔が微笑めば。

波の国に漣が立ち 呪われるのは優秀な忍が二名程。

無論記憶は封印され 残る後味だけが最悪である。


『ふふふふ〜っ。害虫駆除終了〜vvv』
ナルトの守護霊様(?)はどうやら強いらしい……。



私が書くと注連縄さん超二重人格すぎ(涙)いや、でも。こんな風にナルコは愛されてます。知らぬは本人ばかり。ブラウザバックプリーズ