ああ無常

 ジジイの指示通り、俺達は『下忍候補』になった。

アカデミーの卒業式。

 いつもの『ドベ』を演じつつ……その後のハプニングは正直抹消したい。
 シノの視線が怖かったことと、シカマルからも似たような目線を受け取ったことだけを示しておく。

 兎に角。
 『スリーマンセル』の発表をイルカ先生がして。

 俺。
 春野。
 黒いの。(←?)

 の、三名でスリーマンセルと組むことになった。
 チームを組む上で戦力のバランスを考慮した結果だそうだ。

 ……は? 黒いの? 確か、うちはの末裔で復讐マニアだ。
 興味もないし俺には関係ないからな。



そのまま三人で担当上忍との顔合わせ。
アカデミーの教室で待つこと四十分経過。

 担当上忍はまだ現れない。
 席に座ったまま沈黙する黒いの。
 春野も大人しく待っているが、ソワソワして落ち着かない。

 他の下忍達はみーんな出ていってるし当然か。
 俺も落ち着かない調子で右往左往。
 時折廊下とか覗いたりして、いかにも『ドキドキしています』風を装う。

 はぁ……つまんないなぁ。
 下忍になればあっちの仕事は減るだろうし。





光を浴びて光る金色の髪。
蒼い瞳を皿のように丸くして。
少年はじっとしていられない。
挙動不審に半開きにした扉から、廊下を観察したりして忙しない。

「ナルト! じっとしときなさいよ」
少し呆れて春色の髪の少女は少年を窘めた。
「でもさ、でもさ、サクラちゃん。いくらなんでも遅すぎるってば」
カチカチ時を刻む時計を一瞥。
大袈裟に両手を振り回し、ナルトはサクラに反論した。
「……そりゃ、遅いけど」
無言で目を閉じた黒髪の少年を気にしてか、サクラの言葉に覇気がない。
サクラは熱い視線を無言で押し通す少年へ送る。
「ああああ〜! イライラするってばよ」
ナルトは頭をかきむしり悶える。

無言を貫く少年は目を開き、「フン……」と、鼻で笑って一言。

「なにが可笑しい! サスケェ!!」

 ビシィィイ。

効果音がつきそうな勢いで黒髪の少年を指差すナルト。

 ……どーでもいいけど、疲れんだよね。
 黒いの相手にする時はテンション上げなきゃいけないし。

黒髪のクール少年、サスケを指差し睨みつける。
その態度とはまったく逆を頭で考え、ナルトは全身を使って気配を探った。

 上忍の気配ゼロ。……まだ待たせるか。
 いい加減殺気も漏れちゃうよ。

「人を指差さないの! ナルトも大人しく待ってればいいでしょ」
サクラに怒鳴られてはナルトとて引き下がるしかない。
悔しそうにサスケを睨めば、嘲りの篭った視線で返される。
「こーなったら、こうする!」
ナルトは黒板の下から黒板消しを取り出す。
「? ……どうするの?」
怒りが削がれたサクラは、不思議そうにナルトが持つ黒板消しを見た。

サクラに『ニシシ』と悪戯小僧の笑顔を見せ、ナルトは教室の扉の上、黒板消しを挟んで扉を閉めた。

「ちょっと、止めなさいよ」
「上忍くらいなら避けられるってばよ」
困惑した(内なるサクラ発動中)サクラに、もう一度『ニシシ』と笑えば完璧。

ナルトの仕掛けた簡単な罠。

 どう反応してくれるか、お手並み拝見。

ナルトは手のひらに付いたチョークの粉を払いつつ、興味津々に扉を見守る。
サクラも口では注意したものの、待ちぼうけを喰らっている状態に不満はある。
黒板消しを外そうとはしない。
サスケは我関せず。
ナルトの行動にまったく興味がないらしく、座ったまま動く気配もない。

扉の向こうに移る長身の影。
ナルトとサクラ。固唾をのんで成り行きを見る。
ゆっくりと扉が開いて、廊下にいた人物が教室に入ってきた。

 ボス。

黒板消し落下。

「ひっかかったてばよ〜」
機嫌ではしゃぐナルト。
「ご、ごめんなさい。わたし止めたんですけど」
一応謝罪するサクラ。
「……」
興味のないサスケ。

その男は黙って黒板消しを元の位置に戻し、三人の子供を順に見渡した。

 ……斜めにかけた額当て。灰がかった銀髪。
 口を覆う特殊なマスク。身のこなし。放つ気配。
 この男がビンゴブックで名を馳せた『写輪眼のカカシ』
 九尾の監視役としてはお誂(あつら)えか。

「お前らの第一印象は……嫌いだ」
サクッと放たれるカカシのキツイ一言を聞き流し、ナルトは小さく舌打ちした。
一瞬のナルトの行為を気が付く者はいない。

黙りこむ子供三人を、カカシはテラスへ連れ出した。



テラスにて。


「名前は はたけ カカシ。趣味は……まぁ、色々だ……」
新たな先生の無気力な自己紹介。

カカシの自己紹介に、サクラとナルトがムッとした顔つきになる。

「じゃ、順に自己紹介よろしく」
言われて真っ先に手を上げるのはナルト。

「俺はうずまき ナルト! ……」

 予め決められた夢。
 孤独な子供を演じきるためのラーメン狂。
 元気の塊。それが今の俺。

ナルトの自己紹介を黙って聞くカカシ。
なーんにも考えていないようで、子供達の癖を見抜こうと詳細まで観察している。
チクチクする視線をウザイと感じつつ、無事にナルトを演じきって自己紹介終了。

次に口を開くサクラの自己紹介に聞き入る。

「……嫌いなものはナルトです」
子供は時として無遠慮である。
「ひどいってば〜! サクラちゃん」
言い切ったサクラの一言に、ナルトは情けない顔つきになった。
サクラにそっぽを向かれ、ガックリ肩を落とす。

「俺は……」
最後にサスケ。
感情を表に出さないエリート。
淡々と自己紹介をするサスケに、ナルトとサクラも耳を傾ける。
時間にすれば五分もかからなかっただろう。

七班の顔合わせは終わった。

下忍試験の実態を説明して消えた上忍。

呆然となる子供二人。(ナルト&サクラ)
ポーカーフェイスを崩さない子供一人。(サスケ)

「……騙された」
力なく呟くナルトに、珍しくサクラがうなずいた。
「しかも朝ごはん抜きでって、そう言ってたってばよ」
ナルトは魂の抜けきった顔をする。

カカシの姿はないが気配はした。
直ぐに帰ってしまっては『ドベ』のナルトらしくない。

「あ……あれ?」
サクラが違和感を感じて振り返る。
と、サスケはテラスを後にして帰宅しようと動き出したところだった。
「まって、サスケ君。途中まで一緒に帰ろっ」
サクラは踵を返し走り去ってしまう。
「あー、待ってってばよ。サクラちゃん」
サクラを追いかけ、ナルトはドタドタ足音つきで走り去る。
本当に途中までサクラを追いかけるも、追い払われて一人で帰宅。

 ジジイめ。図ったな。

いつもの『ナルト』の行動通り。
冷蔵庫から牛乳を取り出しコップで一気飲み。
歯軋りしたい気分でシンクにコップを叩き込む。

 四代目の弟子にしてエリート忍者。暗部経験もある。

ナルトは暗記してある記憶を辿り、下唇を噛み締めた。

『ドベ』のナルトの気配は、分身で出したもう一人のナルトに任せてある。
本人は気配を消してひたすら思考の奥深くに沈む。

 黒いの(サスケ)の能力を考えたら、あの男が教師になるのは妥当か。
 同じ『写輪眼』の持ち主だ。
 四代目つながりで俺の監視も引き受けたみたいだな。

感じる上忍の気配。
ナルトは喉の奥でククッと哂い、表情を引き締めた。

 さあて。
 要らんお世話を焼いてくれたジジイには、お礼でもしとかなくちゃね。

ナルトは分身を残して姿を消した。




数分後の火影邸で。
三代目火影宛に、『世の無常について』と題された哲学の本が贈られてきたことと。
三代目火影が。
難しい顔をして、『思春期克服ガイド パート2』を読み漁る姿が目撃されたのは偶然だったのかもしれない。

 無常って意味、知ってるの?

 人の世も、人も儚いよね? すぐに壊れちゃうし……?
 ある日突然誰かが消えちゃったりして。ああ無常……なーんてねぇ?


怒りに満ちた誰かの一筆入り哲学本。
火影の本棚にきちんと収納されている、らしい。


一応本編に沿って作っておりますが無理ありすぎ(涙)ブラウザバックプリーズ