アカデミーでのスリリングな一日


シカマルの授業態度は大人しい。
特別訓練(火影相手)明けの一日は特に。

机に伏して爆睡。
彼が眠りこけるのは今に始まったことではないので、教師陣も諦め気味だ。
到底授業を聞いているように感じない割に、成績は下がらない。

シカマルの謎はアカデミー七不思議の一つに数えられる。
今日も、今日とて元気なのは……。

「ナ〜ル〜トォォォォ〜」
地を這うような声音の優しき中忍教師。
鼻に詰めたティッシュが痛々しい。
「へへーんだっ。だらしがないってばよ、イルカせんせぇ〜」
アカデミー随一の問題児。
『うずまき ナルト』は、得意満面の笑みで担任を見た。
窓から差し込む光に、ナルトの金髪ツインテールが揺れて光を反射する。

「ちょっとナルト! いい加減その変化、解きなさいよ」

 くわっ。

目を見開いて怒る桜色の長髪の少女。
春野 サクラは拳を振り上げようとするが、視界に入る一匹狼の姿に動作をとめる。
先ほどからナルトがしている『お色気の術』

変化した美女に興味がないクールな一匹狼 うちは サスケは窓から外を眺めている。

 きゃーっ。
 無造作に外を眺めるサスケ君の横顔!! ステキv

『しゃーんなろっ』状態の内なるサクラ。
ナルトはイルカとサクラの感情を読み取り変化をといた。
間髪いれず降ってくるイルカの鉄拳。
「痛いってばよ!」
涙目を作り上げ、さも恨めしそうにイルカを睨みつける。
「何度言ったら分かるんだ。授業妨害はやめろ」
額に青筋を浮かべナルトの頬を抓り出すイルカ。
たどたどしい動作でナルトが抵抗すれば、イルカの瞳に浮かぶのは親愛の情。
授業中だというのにじゃれあう二人は歳の離れた兄弟のようで。

傍観するシノは面白くなく、一瞬だけ殺気を放った。
気が付いたナルトはシノにだけ見えるようにウインク一つ。

だが直ぐに『ドベ』の少年に戻り、サクラに自己アピールを始め制裁鉄拳を喰らっていた。
見事に吹き飛ぶナルトの体。

「授業の続きをお願いします」
乱れた呼吸を整え、サクラが席に着きイルカに言った。
因みにナルトは黒板とは間逆の掲示板に激突して意識を飛ばしている。

「……では忍術書の二十一ページ」
イルカは一瞬だけナルトを気遣う視線を向けるが、咳払いをし、授業を再開した。
紙を捲る静かな音と、騒がしかった子供達が一斉に静かになる。
真っ赤に腫れあがった額を擦り、ナルトも不貞腐れつつ席に戻った。
計算しつくされたナルトの演技に疑問を抱くものはいない。

シカマルは本当に寝ていて、この騒ぎでも起きることはなかった。

「いいか? このページの状況を見て、どう対応すべきか。今から配る用紙にまとめるんだ。時間は二十分」
イルカは解答用紙を配りつつ声を張り上げる。
シカマルの肩が数ミリ動いて反応するが、起きる気配はない。
隣の席の山中 いのがシカマルの身体を乱暴に揺すっていた。
「では始め」
忍の卵達は必死に問題を考え始める。

そんな中でもナルトは大袈裟な動作で頭をかきむしり、難しい顔つきで忍術書とにらめっこ。
時折唸ったりして、やはりサクラに睨まれている。

いつもの日常。
変わらない毎日。

問題を解くことを放棄したナルトは、肢体の力を抜いた状態で椅子に座りぼんやり天井を見上げる。
口を尖らせたまま。当然、回答用の紙は白紙。
かろうじて名前だけが記されている。

 いかにも『つまんねーってばよ』状態。

気配を察したシカマルは筆を走らせる手を一瞬だけ止め、少し思案してから再度回答を書き始めた。
シノは淡々とした態度を保ったまま、眼鏡のアーチ部分を少しだけ持ち上げる。

イルカは生徒の間を回り、問題を解く進行状況を見守る。
ナルトのそばに立ったときは、なにか小声で耳打ちし、ナルトを問題と向き合わせた。
ナルトも渋々机に向き直り、眉間に皺を寄せたまま問題に向き合う。

静かな静かな日常。

その日常に潜むのは、無邪気さという毒の棘。





イルカの努力の賜物。

昼前の授業もひと段落し、アカデミーは昼休み&休憩時間に突入する。
ナルトはサクラを昼食に誘うが、お約束どおり失敗。
サクラはいのと共に、教室から出て行ったサスケの後を追っていった。
ヒナタがはにかみながらナルトを見詰めるも、ドベナルト。

彼女の視線に気が付くわけがなく、弁当袋を片手に教室の外へ飛び出していく。

シノは一人で静かに昼食を取りたいが、意外にキバとは旧知の仲で。
二人で昼食を取るのが慣例となっている。
専らキバが一方的に喋り、シノがそれを聞くというのが見慣れた構図と成ったが。

シカマルは他の教室から友達がやってきて、それなりに騒いで昼食を食べる。
ナルトとシノの正体を知る前からだったので、今更変えるのは不自然。
判断の上で何時も通りの昼食風景を展開する。

もしも。
もしも、誰かがシノとシカマルとお昼を食べたなら。

二人のお弁当の内容がまったく同じ。
だという『矛盾』に、気が付いただろうに。
ナルトは器用だ。

趣味がガーデニングとあって、マメでもある(興味を覚えた対象にのみ発揮されるナルトのスキルだ)。
そんな彼女のもう一つの趣味は料理。

直接的なきっかけはシノが齎したらしいが、詳しい経緯なんて……正直シカマルは尋ねたくない。
ただでさえシノには一歩も二歩も先を越されている。
墓穴は掘りたくない。
彼女の美味しい弁当を食べれて幸運。

朝、何気なくすれ違うナルトから手渡されるお弁当を有難く頂戴するだけ。

ナルトに『シカマル』を認知してもらえたようで、少しばかりの優越感もある。

シノの殺気はたまに浴びるが。

一方。
ナルトは何故かイルカの弁当を食べる。
「お前な〜。いい加減、カップラーメンばかりは止めるんだぞ」
無言で弁当をかき込むナルト。
そんな小動物を髣髴とさせる生徒の姿にイルカは苦笑する。
髪の毛を乱すように掻き混ぜれば、ナルトは口に物を入れたまま反論した。
「はーへふはっ、ふふぇえっばぁほ」
「……食べ終わってから言え」
イルカは肩を落とし、ナルトから奪ったカップラーメンを啜った。
お湯は職員室のお茶用のを流用。
ナルトは何か言いたそうにイルカを見るが、無言で弁当を食べ始める。

忍術アカデミーの裏手の土手。
生徒も先生も訪れることのない、ナルトとイルカだけの特等席。


ナルトは食材を買えない。

ナルトがカップラーメン若しくは、ラーメン。
あるいは牛乳しか口にしない(表面上)理由はたった一つ。

まともな食材を『うずまき ナルト』が購入することが困難、であるから。
あまり咬まずにご飯を飲み込むナルトに、イルカは自分の気持ちが落ち込んでいくのがわかる。

三代目の庇護の下、無邪気(?)に育ったナルト。
周囲に認めてもらいたい一心で悪戯を繰り返す孤児の一人。
あの事件で孤児は増えた。
実際イルカも孤児だった。

里の大人達は……特に火影はそんな子供のために尽力を尽くしてくれた。
一つの例外を除いて。

里の掟の一つ。

十数年前に出来たそれは、ナルトを苦しめる元凶。
事件を知る大人達はナルトを憎悪の対象とし、徹底的に排除した。
事実を知らない子供は大人程ではないが、親の言いつけでナルトとの接触を拒む子供もいる。
イルカ自身も躊躇いが無い訳じゃない。
親の敵と、里の犠牲になった子供。
天秤にかけられないが揺らぐ心はどうしようもなく。

イルカの焦燥感を煽る。
熱血教師の苦悩する様に、ナルトは内心ため息をついた。

 騙している。
 罪悪感はない。

 目の前の教師は理想と現実の間で迷っている。
 ならば狐憑きになど構わなければいいものを。
 くさいものに蓋をできない大人。

 狙っておかずを喉に詰まらせれば、慌てて背中を擦ってくれる不思議な大人。

当初。

 演じきるには手間のかかる『ドベ』を持て余していた時。
 手を差し伸べてくれた、この大人のお蔭で随分と負担が減った。
 シノに話したら不機嫌な顔をされたけど。
 悪戯をすれば怒ってくれて、火影に報告に行くし。律儀だし。

イルカと自分を遠巻きに監視するアカデミー教員。
数名の気配と漂う殺気に微苦笑浮かべ、ナルトは弁当を食べるフリを続ける。
たまに石を投げられたり、ぶつかるフリして転ばされたりするけど。
それはご愛嬌。

 いっそ始末すれば静かになるが、今は未だ時期じゃない。
 里全体を敵に回すには早すぎる。

正直腹正しいが、三代目の考えた二重生活は功を奏しているといえよう。
里の安全と、ナルトの精神バランス。

二つの問題をきちんと解決している。

「ごちそーさまだってばよ」
両手を合わせて昼食終了。
ナルトがイルカに頭を下げると、その頭上を小石が高速で飛んでいく。
イルカは頬を引きつらせるが、『ドベ』なナルトは気が付かない。
「イルカせんせぇー? どーしたってば?」
甘えた声音で問えば、イルカはぎこちなく笑いお茶の缶をナルトに渡した。
「もう教室に戻ってろ」
イルカは言いながら腕時計をナルトに見せた。
「おう!」

お茶まで貰ってラッキー。
顔に感情をモロに出してナルトは上機嫌で校舎に帰っていく。




「……ふふ。スリリングだねぇ」

校舎への帰り道。

転んだ振りして飛んできたクナイを避けて。
ナルトは地面を這う小さな蟻に呟いた。
蟻は明らかな意図を持って、左側の触覚を持ち上げる。

ナルトは唇に指を押し当て「黙っててね」と。

蟻に釘を刺すのだった。


私の中ではナルコの毎日ってこんなかーんじ(うわ、危ない)ブラウザバックプリーズ。