おいでませ!癒しの温泉


湯煙に顔をほころばせる金髪美少女。
眼鏡の曇りに顔を顰めた黒髪少年。(+ノッポ)
額に当たる熱気に気力を奪われ気味の黒髪少年。(+目つき悪い&長髪)

木の葉の里、中心部よりやや外れた位置に存在する『木の葉温泉地』
浴衣姿の子供達は、のんびり大通りを歩く。

「つ、疲れた……」
今にも眠ってしまいそうな長髪の少年は、フラフラ蛇行して歩く。
言わずもがな、シカマルである。
「最近付き合い悪い! ってゆう罰ゲーム」
と、シカマルの腕を掴み、倒れないように配慮しつつナルト。
「ナルトがシカマルを熱湯につけて茹でたからだ」

先ほど。

凶悪な小悪魔に襲撃され、熱湯漬け五時間を体感させられたシカマルを指して、シノが一言。

「体温調節もチャクラで出来るって。ジジイが言ってたから」
自分で実験しないところは流石ナルト。
悪びれもせず、にこにこ笑っている。
「毎日ダラダラしてそうだから、修行のお手伝い。役に立ったよね? シカマル」
ともすれば眠ってしまいそうなシカマルの身体を揺らし、答えを強要するナルト。
「あ? あー……」
健気シカマル。睡魔と闘いつつも律儀に答えた。

実は密かにナルトと一緒の任務をしたくて、火影に鍛えてもらってるなんて極秘。
シノにばれたら妨害は必死。

シカマルだってヤルときゃヤルのだ。

「宿へ着いた」
どこか遠くから聞こえるシノの声。
緩んだ隙に牙を向く睡魔に逆らう事無く、シカマルの意識は闇の中へ深く沈んでいった。

すっかりのぼせ上がったシカマルを布団に寝かしつけ、シノとナルトは身支度を整える。
中忍以上が身につける巻物ポーチ付きベスト(特別仕様の黒色)・ウエストポーチ・手裏剣ホルスター。
そして額宛。

「今日は変化なしでってアイディアだったね」
口寄せ用の巻物を確認。
ナルトは横で手裏剣を磨くシノに尋ねた。
「子供の姿は油断を誘う」
黙々と手裏剣を磨くシノが小さな声で答える。
「ま、俺もシノも面を落とすヘマはしないし。しても記憶を弄ればOK」
鼻歌交じりに非人道的な台詞を混ぜ、ナルトは小太刀を懐から取り出した。

天鳴(あまなり)家伝来の二振りの神刀と妖刀。

本来どちらかしか扱えぬ、光と闇の象徴たる小太刀。

神刀を『照日(てるひ)』
妖刀を『禍風(まがつかぜ)』

ナルト自身がその血脈を伝える『天鳴』だからこそ振るえる『照日』
封印された九尾のチャクラを持ってして扱える『禍風』
浄化と呪い。

殺傷能力の低そうな小太刀だが、それを二刀流のように扱うことで威力を発揮する。
小太刀本来の能力に寄与する部分もあるが、ナルトが操ってこそ真価を発揮するのだ。

「今日は久々にストレス解消〜! 楽しもうね、シノ」
小太刀の切れ具合を確かめ、懐にしまいつつナルトははしゃぐ。

アカデミー卒業まであと半年と迫ったこの時期。

目に見えて減った任務に、ナルトは苛立っていた。
ナルトの嬉しそうな笑顔に目を細め、シノは何時ものように頭をそっと撫でる。
触り心地の良い髪に指を絡め、少しだけ髪形を崩す。それから三回。

 だいじょうぶ。

心で伝え頭を軽く叩いて終了。
シノの示す親愛の情。

「温泉街を隠れ蓑に○国と×国の忍が密会。両国の雇った忍を成敗。両国で交わす密約情報を入手せよ」
既に燃やした任務内容を口パクでシノへ告げる。
確認の意味を含めて。
シノが黙って人差し指を上げれば準備完了。

月の灯りも霞む温泉街の夜。
宿の三階部分。
開け放たれた窓から二つの影が飛び出した。





向かうは湯煙漂う温泉朱橋。
温泉地の東西を繋ぐ朱塗りの橋。
中心大通りの『大橋』から遠く、この橋を利用するのは地元の温泉関連の職についている者くらいだ。

橋の下で息を殺すこと二時間。
宿の板前風の冴えない中年と、仲居見習いらしき十代後半の乙女が。

それぞれ東西方向から現れた。

「こんばんは」
まず乙女が口を開いた。
「こんばんは、今日はどうだい?」
愛想良く中年が乙女に答える。
「ええ、団体さんが入って大賑わい。猫の手も借りたいほど大忙しでした」
紅葉色の頬を紅潮させ、乙女は目を細めた。
「そりゃ結構。お客様あっての温泉地だからね」
禿げ上がった己の頭を撫で、中年は目尻の皺を深める。
「ふふふ。本当ですね」
鈴の転がるような乙女の笑い声。
一見すると他愛もない日常会話。

しかし、ナルトは無言で橋上を指し『十五人』と口の動きだけでシノに人数を伝える。

シノは無言で肩の上に止まった蛾を空へ解き放った。

「ところで明日のお休みは、どうしますか?」
ふと思いついたように乙女が尋ねた。
「日々コレ修行ってね。包丁を研ぐ予定さ」
おどけた調子の中年の声。
「熱心ですね〜。わたしも見習わなくちゃ……?」
乙女の顔が強張った。
中年の男も笑顔を打ち捨て、険しい顔つきで周囲を見回す。

「ぐはぁ」
橋の袂へ誰かが落ちていった。
明かりも少ないこの場所では、姿を確かめるのは難しい。
だが、中年男性と乙女は落ちた人物が誰か瞬時に理解した。
「さようなら」
黒装束の子供。
狐面を被っているものの、声は高く身長も低い。
橋の下から飛び出した子供に二人は目を見張る。

「!?」
乙女が身構える間もなく、白刃煌く。
白い乙女の首筋が真横に裂かれ血が迸る。

 斬られた。

そう実感する間もなく乙女は絶命した。
グラリと傾ぐ乙女の体が見る間に燃え尽き灰となる。
中年男性は咄嗟にクナイを手に取るが、如何せん対応が遅すぎた。

「残念」
乙女を切った黒装束の子供は消え、背後からその気配がする。
己の胸から見える銀色の刃先。
痛みを感じるより先に、体が燃える。
中年男の感じた最後の感触は、皮肉にも自分の肉体が燃える匂いだった。
二人が発火したのを合図に、忍装束の忍が橋へ詰め寄る。

総勢十ニ名。

橋下へ落とした囮と、たった今始末した二人を除いた人数。
「ちっ。回収を急げ」 隊のリーダーらしき男が声を張り上げる。
二人の忍が橋を離れ、残りは子供目がけ飛び掛った。

子供が印を結ぶ。

振りをした。

子供だましのフェイントだが、案外引っかかる上忍は多い。
外見が子供な分だけ、肉弾戦は控えるだろうと油断するからだ。
チャクラを足に纏った状態で、子供は橋を抜ける。
両手に構えた小太刀が共鳴反応を起こし耳障りに鳴った。

まるで舞を見るようだ。

子供の動きは隙がない。
一人を仕留めた返す刃で、もう次の一人を殺している。
相手の攻撃を受け流し反撃。無駄の無い力配りで、刃を振るう力も動作も鈍らない。

「ばいばい?」
最後の一人を仕留める直後、子供は淡々と終わりを告げた。
十個の炎が燃え上がる橋の上、長身の子供が歩み寄る。
手にした巻物を見せれば、小太刀を持った子供は仮面を脱いだ。
「奇襲をかければ、ね」
血に塗れた上着を無造作に脱ぎ捨て、ナルトは口角を持ち上げる。
人の燃える炎に照らされた桃色の唇が、弧を描く。

 美しい。

満足した様子で微笑むナルトを、シノは黙って見つめる。
上着をナルトと同じように脱ぎ捨て、それからベストに回収した巻物を収めた。
ナルトは戦いの高揚が抜けきらず、少しばかり頬を赤く染め、瞳が珍しく潤んでいる。
依頼された任務を望むように達成できた証拠だ。

シノだけが知る、ナルトの脆い美しさ。
ナルトは暫く炎を見つめたが、踵を返す。
チャクラを使って飛翔。
端近くの木に降り立ち、そこから宿へ向け戻る。
シノもナルトに習い姿を消した。

薄暗い橋の上。
人のあった証拠さえ残さない朱塗りの橋。
最後に、血塗れの上着二つが発火し燃えた。





「シカマルって、やっぱり頭良いよね」

三人が泊まる宿の屋根。
シノとお月見をしつつナルトがしみじみ呟いた。
「子供の姿で奇襲。驚いた忍は情報を記した巻物だけでも回収しようと焦る。俺が囮で切り込んで、シノは巻物回収をする忍を始末。短時間で片がつくし、巻物を探す手間が省けるしさ」
任務の概要を聞いたシカマルが簡略に立てた作戦。

ハッタリに近い作戦かと思いきや、ナルトとシノの戦力を十二分に考慮したものだった。

多少の粗はあるけれど、ナルトの将棋相手である『頭脳』の持ち主としては上出来。
「俺の切り込み位で焦るなんて」
ナルトは嘲笑う。

が、襲われた方はたまらなかっただろう。
気配は読めない、姿を捉えられない。
気がつけば斬られて死んでいく己。
未だかつてない強敵の出現(しかも子供)に驚愕を覚えるのは必死。
少しばかりの動揺くらいはするだろう。

「癒し」
シノは腕にナルトを収め一人ご満悦。
「シノって温泉好きなの?」
目線を下げればナルトはキョトンとした顔つきで、シノを見上げてる。
「癒し」
今度はナルトの耳元で再度囁き、シノはその頬に唇を寄せた。
「?」
まったく意味がわからず首を傾げるナルト。
それでもシノの胸に頭を預け、真下に広がる温泉街のネオンを眺める。

シノの腕の中、ナルトが。
(温泉も肌がすべすべするし。疲れも取れるし癒しだよね〜v)
なーんて考えていたなんてことは、今回伏せておこう。


仕事帰りに二人きりのお月見を堪能するシノ。
意外に策士である。

今晩の出刃亀はお月様だけ。
温泉は癒し?


私が癒されたい(切実!)温泉〜!!!ブラウザバックプリーズ。