秘密の花園(!?)へ潜入


忍術アカデミーが休校日の今日。
人より少し運の足りない天才少年『奈良 シカマル』は、一枚のメモを頼りにある人物の家を探していた。

「ここら辺か?」
里中心部から貯水槽方面へ。
家の特徴を描いたメモを片手に、シカマルは欠伸をかみ殺す。

シカマルの休日はシンプルだ。
忍術書で勉強に励むか、簡単な筋トレ。
昼間で寝て過ごすこともあるし、一日テレビを見て終了なんてのもある。
完全インドア派。
忍の子供としてはごく普通か、その下くらいの休日を送っていた。

つい二週間ほど前までは。

三代目火影の罠と自分のうずき心に負けたシカマル少年。
踏み込まずとも良い、泥沼へ見事片足突っ込んで。
表向きは『ドベ』と名高い『うずまき ナルト』とその友達(?)。
彼等の秘密を知る立場と相成りました。

現在、比較的閑静な住宅街を歩く破目に陥る。

天鳴(あまなり)
シンプルな表札。
小ぢんまりとした印象を強く受ける、平屋建て一軒屋。
土地の面積に対して庭面積が幅を利かせている少し不思議な感じのする家。
シカマルは番地と表札を確かめ、家の門を潜った。
家の玄関までの道と、庭へ続く道二つがある。

「……」
左右に開く玄関を眺め、シカマルはそちらに移動しようと足を踏み出す。
金色の残像が緑の中から毛先だけを覗かせる。
シカマル、不思議に思って方向転換。
庭の方へ歩いていった。

色とりどりの緑。

咲き乱れる季節の花。

まさに小さな花園に、かの少女はじっと佇んでいる。
しゃがみこみ、足元に咲き開いた小さな白い花を見つめて。
肩までかかるくらいの金糸は、見た目にも美しくサラサラ風に揺れ。
長袖のシャツから除く白い肌。
病的な白さではなく、陶磁器を彷彿とさせる滑らかな白い色。
金色に縁取られる美しい蒼い瞳は優しさを湛え。
スッと一筋書きのような鼻筋は整いすぎていて、口許へ下るラインも人とは到底思えず。

おおよそ、『うずまき ナルト』とは縁遠い人物が花を愛でていた。

「あれ? シカマル」
呆然と立ち尽くすシカマルの気配を怪しんで、少女は立ち上がるとシカマルに向き直った。
自分の意志とは裏腹に、シカマルは己の頬が紅潮するのを感じていた。
「……ナルト?」
酷く掠れた声で少女に問えば、少女は小首を傾げて愛らしく笑う。
「そんな驚くことないだろ」
服の上から身につけたエプロン。
ベージュ色のエプロンのポケットからミニスコップがはみ出している。
ナルトは小さく舌を出した。

 嗚呼。神様! 外見と中身ギャップありすぎ、コイツ。

シカマルは無神論者だが、この時ばかりは天を仰ぎたい気持ちに襲われる。

「意外? 俺の趣味ってガーデニングなんだ」
可愛い顔して一人称は『俺』。
ナルトは得意げに庭の草木を指し示した。
「ふーん」
シカマルは極力気のない素振りで、返事を返す。
実際植物は詳しくない。よく見れば咲き開いた花々に群がるのは……。

 シノの飼っている蟲じゃねーの?

寿命が縮む思いをするシカマル。
知らず知らずにため息が漏れる。
「話はジジイから聞いてる。シカマルらしくないね、他人に興味を持つなんてさ」
シカマルに言いながらナルトの見上げる先。
家から庭へ通じる軒下の小さな廊下に、仏頂面のシノの姿。

 お前だからに決まってんだろ!
 人の好意にはとことん鈍くなれる……無理ねーか。

今まで浴びてきた憎しみの念を考えれば。

「意外か?」
苦笑しシカマルがナルトへ言葉を返した。
「入れ」
短くシノが告げ、シカマルを手招きする。
あまり歓迎はされていないようだ。
「じゃ、玄関から回って」
ナルトは歳相応の女の子らしく笑顔をシカマルに向け、玄関へ抜ける小道を歩く。
シカマルは大人しくなるとの後について歩いた。
「トラップとか少しあるから、今度は真っ直ぐ玄関へ行ってね。ちなみにシカマルは何個見破れた?」
「門の真上、小道の分かれ道二箇所、玄関付近、庭に入った直後の植木鉢……くらいか」
ナルトの問いに、シカマルは指折り数えて確認しつつ答えた。
「ふふ。まだあるから気をつけなよ?」
ナルトが玄関の扉を開く。
扉についた鈴が、チリンと涼しげに鳴った。
「お邪魔します」
目の前に立つシノに取り敢えず頭を下げる。
シカマルの挨拶にシノは無言でうなずいた。

とことん静かな少年である。

履物を脱ぎ、居間へ通される。
西向きの大きな窓から庭が一望できる、光に満ちた畳部屋。大きさ十二畳弱。
中央にテーブルと椅子。
部屋の片隅に座布団が積み重なっていて、逆の隅にはテレビとビデオ。
食器棚などもバランスよく配置された質素な空間。
「俺が作ったハーブティーなんだ。苦かったら、蜂蜜入れて」
ナルトに指定された席に着けば、目の前の置かれる透明ガラスのカップと蜂蜜の入った小さな容器。
音もなく差し出され、シカマルは肩に力が入ってしまう。

 身のこなしとか、色々。やっぱり違うよな〜。

的外れに感心して、目の前の赤いハーブティーを口に含む。
酸っぱい味に、無言で蜂蜜を注げばナルトとシノに笑われた。

「まー、おいおい分かるだろうけど。一応ね。
俺は天鳴 ナル。今年で十一歳。
ナルトってゆうのはあだ名みたいなものだから、シカマルも俺のことは『ナルト』で呼んでくれて構わない。
五歳で暗部。
六歳でシノとコンビを組んで特殊任務三昧。
七歳の頃から『うずまき ナルト』を演じ始めて今に至る」
ナルトの言葉を一語一句漏らさず暗記。
シカマルは次にシノを見た。

「油女 シノ。表向きはナルの相棒。五歳から六歳まで火影様のもとで鍛錬。
六歳からナルと組んで特殊任務三昧。七歳頃から別枠で暗部の任務もこなしている」
黒眼鏡のお蔭で表情は読めないが、シノなりにシカマルを仲間として認めているようだ。
口数の少ない彼からは想像も付かないほど、長く喋っている。
「了解」
シカマルは簡潔に答え甘くなったハーブティーを飲んだ。
「次に。『うずまき ナルト』自身は俺とは別人ってことで情報操作がなされているから、そのつもりで。シカマルがバラすヘマはしないと思うけど」
言外に『バラらしたら始末』と表情に出してナルトが付け足す。
「お前ら暗部? それとも上忍?」
内心冷や汗ものだが顔には出さず、シカマルはナルトとシノを見た。
「暗部も知らない特別部隊の一員。火影直属で暗部とは別動部隊」
ナルトが答えた。
「へぇ……」
相槌を打ち、シカマルは自分が深入りした『こと』の大きさに少しだけ驚いた。

 火影の苦肉の策ってトコか。ナルトを守る為の。
 それにコイツ自身のストレスは相当なもんだろうからな。

里を発展させた『三代目』の計画性・先見性。

 ナルトの扱いにしても、将来の里を構想して先手を打った形だろう。

シカマルは火影の考えに舌を巻く。

「無理矢理押しかけて悪かったな。ナルトが出来るって言うから、つい」
シカマルはテーブル上の将棋セットを顎で示した。
「ああ、シカマルって将棋好きだっけ?」
不思議そうにナルトが将棋セットを見て呟いた。

アカデミーでナルトは尾尻を掴ませない。
普段は完璧な『ドベ』を演じ、シカマルですら騙されそうになる時もある。

よってアカデミーでナルトと会話をするのは不可能。

ナルトの正体を知ったからといって、彼女に近づけるわけじゃない。

シノの密かな妨害にもめげず、シカマルは行動を開始したのだ。

「趣味みたいなもんだけどな」
シカマルは軽く肩をすくめる。
「ふーん」
興味がない素振りでも、ナルトは携帯用の将棋板を広げ箱から駒を取り出した。

 結構ヤル気だな、ナルト。
 お互い、力を推し量るには丁度いいぜ。

ナルトの挑発的な目線。
シカマルはニヤリと笑う。

「「勝負!」」

二人の子供の元気な声が居間に響く。
シノは無言で襟を下げ、お茶を啜った。





結局、二人の天才の力は互いに拮抗し将棋は中々良い勝負。

意外に頭の回るシカマルにナルトは感心し、シノは少々動揺した。

七回も勝負すれば日はすっかり傾いて。夕焼け小焼けの茜色。
「……シカマルもさぁ。俺関係で嫌な場面とか見るだろうけど、無視しなよ?」
将将棋板と駒を片付けるナルト。
醒めた表情を浮かべる少女の横顔。
唐突な話題転換にシカマルは首をひねる。
「九尾の器は憎悪の対象」
シカマルの疑問に答え、シノがポツリと漏らす。

 里を襲った元凶を憎むことで、失ったモノを求め足掻く人間の性か。
 器は器でしかないが、嫌悪せずにはいられない。
 心に負った傷が深すぎるってトコロか……。

「こんな里でも、一応故郷だし。滅ぼすにしてもリスクが多すぎる」
サラリと危ないことを言ってのけ、ナルトは遠くを見つめた。
「弱い奴に限って大義名分を振りかざす。そーゆー偽善は相手にすると面倒。真に受けるだけ馬鹿馬鹿しい」
席から立ち上がりナルトは将棋セットを棚に片付けた。
「確かにアホみたいだな」
シカマルは同意した。

 木の葉に忠誠心はあるも、どこか斜に構えた部分を持つ自分。
 モノの見方がナルトと近いのかもしれない。

「俺が生き抜くために必要だった力が、里を護る力になってる。暗部並みに働く俺に護られ、ドベな俺を虐げる。……皮肉だね」
言いながら艶やかに微笑む少女。
顔は笑うが瞳は底冷えする夜風のように鋭く、冷たい。
夕日を浴びて佇む、強く儚い彼女を象徴する雰囲気。
シカマルはそっとシノの顔色を窺う。

シノは、見たこともないくらい穏やか(眉の辺りが)な雰囲気でナルトを見守っている。
目の前の秘密の花園。
作り上げた少女は微妙なバランスを裡に秘め、二重生活を送る。
花園を護る蟲達と共に。

 あの油女(シノ)が執着するのも無理ないか。

人生の大半を諦めで過ごした無垢な少女。
囚われたのは猛毒の蟲と、最強の頭脳。

 それなりに、面白いんじゃねぇ?

まだぎこちないながら、三人の子供はようやく歩き始める。
それが誰かのシナリオどおりだとしても、いつかは必ず覆す。

無意識に同じことを考える三人であった。


捏造もここまでくれば立派でしょうか?ブラウザバックプリーズ。