日常的対策とその結果



 ウザイ?

 思っていても表面上は『ドベ』な『忍者アカデミーのオチこぼれ』で。

 カッタルイ。

 なーんてため息つきたくとも、表向きはヘラヘラ笑いを張り付かせ。
 望むなら。

 ゼンブ。

 そう。

 ぜぇんぶ。

 騙してあげるよ?



アカデミーも本日は授業終了。
学校の終わりを告げる鐘。
少年はトレードマークのゴーグルを、珍しく首の元まで下げた状態で教室の窓から外を眺めていた。
日頃、五月蝿いくらいに騒ぐその姿からは連想も出来ぬほど大人しく。
気配さえ空気に溶け込みそうなほど希薄。
揺らぐ大気の流れに乗って消えてしまいそうなほど。
「……」
アカデミーで自習をして帰る子供は少ない。

曲がりなりにも忍の里。

例え親が『忍』家業を営んでいなくとも、親族誰かしらは忍として働いているもの。

『早熟』若しくは『天才』と称される子供達は、隠れて努力するものだ。

ここは忍の集う里。
忍なら『相手の裏』を読まなくてはならない。
自分から手の内を語る愚か者もおらず。

授業が終了すればアカデミーからは、子供の姿が極端に減る。
完全に居なくなるわけではないが。

「……」
微風が少年のクセのある髪を揺らした。
特徴的な蒼い瞳が細められ、幼い顔立ちの薄い唇は真一文字。
かの少年の視界の端を掠めるは、濃紺の蝶一匹。
少年の頭の上は鳥が一匹。
先ほどからグルグル上空に円を描くようグルグル回る。

「ナルトーッ?」

  ガラガラガラ。

人の良さそうな(実際人柄はすこぶる良い)中忍は勢いつけて教室のドアを開ける。
彼の記憶が間違いでなければ、『一番手のかかる生徒』はまだ教室で時間を潰しているはず。

 暇を持て余しているのならラーメンでも奢ってやろう。

心配性の兄貴分は意外に寂しがり屋な、生徒の姿を連想した。

「あ……れ?」
しかし教室はもぬけの殻。
人っ子一人見当たらない。

「気配がしていたんだが……???」

教室のドアを開けるまで。
ずっと彼の教え子の気配はこの教室から流れ出ていた。
が、彼がドアを開いたとたんに掻き消える。まるで煙のように。

「???」
人の良い先生は再度教室を見回す。

人影はない。

気配もない。
「……疲れてるのかな、俺」
目の間。鼻の付け根を指で摘み、少しばかりもんで。
職員室でこなさなければならない雑務を頭に描き、教師は教室を後にした。





火の国は木の葉の里。

言わずと知れた『忍』の隠れ里である。

五影の一人『火影』が住まう古びた家屋。
丁度三代目火影が顔を上げた瞬間、その人物は口許を少しだけ緩め笑った。

「やっと来たか」
少々お疲れ気味のご老体。
ため息とも諦めともつかない息を吐き出し、巻物を放り投げる。
巻物は放物線を描き目的の人物の小さな手のひらに納まった。
「……ふぅん」
小さな手のひらの上で燃える巻物。

「いい加減にその癖を直さんか、ナルト」

「直さない」

即答。
+極上笑顔。

三代目火影、内心顔を引きつらせながらも顔には出さない。
伊達に歳はとっていないようだ。狸である。

「二重生活って面倒臭いんだよね、じいちゃん知ってた?」

超、がつくほど棒読み。
少年は……『うずまき ナルト』は薄く哂う。

表情から身にまとう空気。

何もかもが『普段』の『うずまき ナルト』ではない。

明らかに異質な雰囲気を醸しだす、中性的な顔立ちが更に際立つ笑み。

「我慢せい。この数年の努力を無駄にするつもりか」

目目深に被っった笠の下から睨みあげれば、ナルトは「大怖い」と、わざとらしく怯えて見せた。

一筋縄ではいかないお子様である。
「存じておりますよ、三代目火影様。狐が実は『ドベ』ではなかった。そう知ったときの為の二重生活。俺を守る為ってねぇ?」
「理解しているならさっさと仕事へ向かわんか。簡単な任務であろう?」

シッ、シッ。

動物を追い払う手の仕草で、火影はナルトに出発を促す。

「任務はね。この際だから一つ確認。俺ってこのままだと卒業して、下忍試験うけさせられるんだろーけどさ、マジ下忍に成れとかって言うつもり?」

「無論」

 ビィン。

火影の頬を掠めたクナイが、壁に突き刺さり微かに揺れた。

「殺す」
ガラス玉を髣髴とさせる美しい蒼色の瞳に篭る殺気。
普通の忍……上忍であっても怯むだろう殺気を受け流し、火影は嘆息した。
「わしが退いたなら考えよう。だから今は任務に向うのだ」

ふつり。

火影への返答代わりに姿を消すナルト。

「年頃は難しい……」
苦悩を隠せず眉間に皺を製造。
火影は机の奥に隠してある『思春期克服ガイド』を取り出し、養い子の心を慮ろうと『ジジイ馬鹿』ぶりを発揮するのであった。




闇夜にうつろうは影ばかり。

忍びの里とはいえ、夜は眠るのが常識。一部の者を除いて。
新月の夜。
ナルトは里の家々の屋根を軽やかに飛翔。
チャクラ効果で着地音はもとより、姿・気配すら完全に掻き消す。警護の任に当たる忍ですらナルトの存在を勘付けない。
「はぁ〜」
狐面の下。大袈裟にため息をついてみる。

眼下の警護忍は無反応。

「ドベ。ってゆうか、ヤバイよね。忍の資質的な問題として」
簡単に後ろを取られるし、殺されるし。警護の仕事をこなせないし。駄目駄目。
「う〜ん、二十点?」
ナルトの少し前を飛ぶ濃紺の蝶に話しかければ、蝶は僅かな燐粉を撒き散らした。
「ハイハイ。でも報告は明日。今日はもう寝る」

刹那。
ナルトの姿が消える。

チャクラの力を応用して神速の域まで極めたナルトオリジナルの疾走。
この走りを見破れるのは火影くらいなもの。ナルトは誰の目に付く事無く家にたどり着く。

少し返り血を浴びた髪が固まり、すえた鉄の匂いが鼻についた。
ナルトは暗部服を乱暴に脱ぎ捨て風呂場へ直行。汚れ諸々を洗い流す。


 仕方がない。

 ってゆーか、生き抜く為には必要な力でしょ。


少し熱めのシャワーを頭から浴びてため息一つ。
九尾の狐をその身に宿し、なおかつ封印し続ける。
まったくもって、尋常ではないチャクラの量。そして性質。己が立場をわきまえた上での覚悟。


 だいたいさ。
 四歳で上忍レベルだったんだよ、俺ってさ。


お気に入りの石鹸で身体を洗う。
兄貴分の中忍の差し入れ。
買い物に行くのも面倒なので有難く頂戴。早速使わせてもらっている。


五歳で暗部。
六歳からは特殊任務ばかりをこなし腕を磨いた。
体力ばかりは年齢が上がらなければ付かないもの。それ以外は全て磨いた。


白い泡に包まれた身体を洗うスポンジ。
泡を掬い取って額につけてみる。
特に意味はないけれど考え事をするときには、不必要と思われる動作をとってしまう。
隙のないナルトの小さな小さな癖。


 だけどさ。『ドベ』がどーやって卒業試験に合格するわけ!?
 しかも下忍だぁ?
 下忍って……確か『スリーマンセル』ってゆって、三人一組で組むんだよな。


考えをめぐらし身体を洗う。


 『表』の顔用に、『好きな女の子を作れ』って指示があった。
 ってことは、春野と俺と誰かで組まされるのか。
 ……スリーマンセル。


先が思いやられて涙が出そうだ。


 表と裏。使い分けるの難しいんだよ、じじい。


悪態一つ。
そんな平凡と非現実が交じり合う、ナルトの日常的対策とその結果。

実に本末転倒。……?


とりあえずうちのナルコはこんな感じ。ブラウザバックプリーズ。