12月


「もぉ〜い〜くつね〜る〜と〜」
何処か楽しげに新年の支度をしてるのは、十三年前。
瀕死の重傷をおいつつ生き残った不肖の父親。
名前は注連縄と書いて『しめちゃん』と呼ぶ。

我が父親ながら馬鹿だ。

「クリスマスは?」
あたしは新年の準備を始めた父親へ冷たく突っ込んだ。

子供の行事って言えば正月前にクリスマスでしょ。
サクラもイノもヒナタも張り切ってた。
イブの夜をロマンティックに過ごすだとか、過ごさないとか。

「奥さん亡き今、お父さんあの雰囲気に耐えられなくなっちゃってさ〜」
寂しそうに項垂れる注連縄。これだけ見てたら確かに寂しい父子家庭。
だ け ど! 
この不肖父がクリスマス禁止令を毎年出すもんだから……あたしに対する風当たりが冷たいのよ。
たそがれんなら一人でやれ。

「お母さんねぇ?」
あたしには母親の記憶が無い。
なんでも優秀なくの一でカカア天下だった事は知ってる。
愛妻家だった不肖父にとっては彼女の不在が心の大きな痛手になってるの? 
娘が言うのもなんだけどよく分からない。この父親の思考回路は。

「天国に居るお母様、心配してるんじゃないの? お父様が何時までたってもウジウジしてて娘のささやかな願いも叶えてくれないんだもん。怒ってるかも」
極力さり気ない風を装い、あたしは父親の背中へ呟いた。

毎年、アカデミー時代の頃から。
友達にクリスマスを許可して貰ってと頼まれるあたしの身にもなりなさいよ。
正攻法でいっても相手は稀代の三枚舌。
舌戦では太刀打ちできないし、三代目の爺様に頼んでも無理なのは去年で実証済み。
押して駄目なら引いてみろ、だよね。

「え?」
予想外のあたしの台詞に父親の動きが一瞬止まる。
それにクリスマスなんて禁止したって無意味なのよ。
見た目だけは綺麗なこの馬鹿親に取り入ろうとするアホは沢山居る。
イブなんか、手っ取り早く娘に取り入ろうとする輩に追い掛け回されてこっちは大迷惑。

だったら? クリスマスに乗じて成敗しとくの悪くないじゃない?
サンタさんから悪い子へのプレゼントとして、ね。

「モミの木に飾りつけとかして家族平和にクリスマスを祝う。お父様が辛そうだったから云えなかったけど、小さい頃憧れてたんだよね」
しゅんとした調子であたしは俯く。
本当は嘘だけどね。
いい加減周囲のアホが五月蝿くなってきたから黙らせないと。

中忍試験とかでこの馬鹿親が騒いだせいで、サスケより目立っちゃったじゃない。あたし。
お陰で変な覗きとか多発してこっちはメーワクだっての!

「今は違うの。サンタに扮してプレゼントを配って回りたいな〜。日頃お世話になってる先生や、友達に」
にっこり笑顔で付け加え、任務依頼書の火影了承サイン。サイン欄だけを差し出してあたしは強請った。
愛くるしく笑う娘に陥落した不肖の父親が嬉々としてサインしてくれたのは云うまでも無い。

こうしてあたしは楽しいクリスマスイブを過ごすべく準備を始めたのだった。
……筈だったのに。


「なんで着いてくんのよっ〜! この馬鹿親〜」
ターゲットの五人目までは無事に成敗したのに。六人目に向う途中でに捕まった。
「ナルちゃんv 一人で遊ぼうってもそうはいかないヨ♪ サンタさんの配達ならお父さんに任せておきなさい。楽しいクリスマスをあげないとねぇ〜」
って。アンタ! 目が笑ってないよ

ちっ。

依頼書を出した時点で気付いて調べたんだ。
こういう処は親娘そっくりで嫌になる。

「好きにすれば」
諦めてあたしは元々誘われていた下忍の合同クリスマス会へ合流する事にした。
「じゃv ナルちゃんも楽しんできてね〜」
なーんて呑気に手を振っていた父親が、どんな『プレゼント』をするかなんて。予想できすぎて怖い。
サクラとイノとヒナタには『来年のクリスマスは絶望的だ』と正直に伝えよう。
そして素直に謝ろう。
子供は親を選べないのだ。
あたしは諦めてため息をついたのだった。



 12月のお相手? は父上。
 当時設定で父親 = 注連縄さん(四代目)となっております。
 親子ネタは結構好きです(笑)
 このナルコはスレているというより、少し強い位かな?
 数年ぶりに見返してみるとやっぱり微妙……(苦笑)
 ブラウザバックプリーズ