10月
尤も忌まわしい日と。尤もオメデタイ日が重なる今月。
頭痛いよね〜。
ていうか?
あたしが遠まわしに後ろ指差される楽しい一日。
これさえ過ぎれば十月ってのも悪くない。
「しけた面だな」
下忍の任務が終わって、傾く太陽の光に季節を感じて。
ああ、もうすぐ十月だな。なんて考えてたら熊に出会った。
歌にあったよね? ある日森の中熊さんに出会った〜って。
まぁここは里中だけど。
「熊が喋った」
思ったことをそのまんま言葉にして、ため息。
「……オイ」
呆れた口調でタバコを揉み消し、熊は苦笑しながらあたしの頭を撫でる。
大きな手。
あのウザくてムカつく変態教師の手とは違う、ガサガサの大きな手。
誰かを殺すことも、励ますことも、癒すことも出来る不思議な男の手だ。
大切なものを失っても生きている、男の手だ。
無造作に撫でられてあたしはぼんやり空を見上げた。
悲しみが里を包み始める。
今の時期は何時もそう。里の誰もが二度と手に戻らない『落し物』を探して歩く。
手から滑り落ちた水は元には戻らないのに。
十三年も悼んで悲しんで立ち止まって。そんな暇あったらもーすこし建設的になったらどうなの?
なんて、思っても口には出来ない。
言ったら確実に殺される。
あたしだって我が身は可愛い。
理不尽な立場を生まれながらに与えられているのに、それを強いた里の為なんかに死ねない。
うーん。じっちゃんでも脅して任務入れて貰おうかな。
ここまで考えて不意に目線が高くなる。
「おい、聞いてたか?」
「へ?」
両脇に差し込まれた腕があたしを軽々持ち上げてた。
相手から殺気を感じない日常は皆無だ。
だからあたしは殺気に敏感だ。
最近分かったんだけど、相手からの殺気が無ければ、あたしは反応が鈍くなる。
殺気を受け取らない状態なんか、まぁ、滅多にお目にかからないんだけど……。
「任務だ、に ん む」
区切って発音してくれてどうもご丁寧に。
気持ちを込めて見やれば、上忍の中で一番察しの良い熊は大きく息を吐き出した。
「お前の誕生日に俺と任務」
唇の動きだけであたしに告げて、ごく自然な動作であたしの上着に巻物を押し込む。
「カカシと紅とかは? アンコにイビキにハヤテにゲンマに諸々は?」
あたしも唇の動きだけで問いかけた。
あいつらほーんと煩いんだよね、人の周りでギャーギャー騒ぐし。
マジ上忍!? なんてあたしも一時期思った。
でも? 頭のネジが数箇所飛んでなきゃ。上忍なんてハード(殺伐)すぎてこなせないのかも。
性格破綻者の多い上忍達(周辺含む)を見てあたしは実感したのだった。
「いや……火影様が俺とお前だけだと」
ふぅん。つまりあたしと二人きりで任務を賭けて水面下で色々あったんだ?
熊に悟られぬよう体内のチャクラの流れを探れば、熊のチャクラは所々乱れていた。
バトル、したんだ……馬鹿馬鹿し。
でも一番コレがまともなのも事実。
引く時は引いてくれるし。
傍にいて安全だから。
カカシ達と違って。
「アンタとの任務なら悪くない」
ヒントをあげるよ。
だから早く。
醒めた表情で相手を挑発するように。あたしは笑顔を浮かべたまま別れの言葉を囁いた。
「!?」
驚いた熊があたしを地へ落としかけ。
それを利用してあたしは瞬身の術を使い、そこから逃げ出したのだった。
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