10月
「うーん」
執務室の椅子に座ったまま、ナルトは頻りと腹部を触っていた。考え込むように。
書類を処理する手を止めた俺は無言でナルトを見やる。
「……」
難しい顔をしたナルトは少し考え込んだ後、俺へ目線を向ける。
「いかがしました、六代目?」
俺はいつもの通りナルトへ尋ねた。公私混同はしない。
実は俺とナルトは秘密裏に付き合っている。
ただ日向家内部では公認の夫婦のようなものだ。
ヒアシ様を筆頭とする本家の方々に「ナルトとの結婚は何時だ?」と探りを入れられる日々を、俺は過ごしている。
だが、結婚はまだ早いだろう。
ナルトは念願の火影に就任したばかり。
俺もナルトの補佐役に就任して数ヶ月。
俺とナルトの将来を考え、周囲との外堀を埋め、ナルトとの仲を邪魔する輩を片付け、俺自身も修行に励み……。
忙しい毎日を俺は過ごしている。
つられるようにナルトの机の隣で作業する春野が俺に顔を向ける中、ナルトは小さく笑って爆弾を投下した。
「できちゃったv」
し……ん。
水を打ったように静まり返る室内。
俺は持っていた書類を落とした。
で、できた?
「へぇ? 思ったより早かったじゃない、ナルト」
若干19歳とは思えぬ春野のあっさりしたコメント。
「そう思う? でも、わたしには家族が居なかったから。子供が出来たのは素直に嬉しいって思ってる」
同じく若干19歳にして里の頂点を極めた火影の台詞。
ニコニコ無邪気に笑いあう二人に俺は文字通り固まる。
思ったより? つまりは……。
「ああ、勿論サクラちゃんはわたし達のコト知ってるってばよ?」
目が笑ってない笑顔を俺に向け、ナルトは疑問に答えた。
あの顔の時に一言でも反論しようものなら半殺し確実。
なまじ俺も腕が立つだけにナルトは容赦しない。
ナルトと張り合える忍など里には数えるほどしかいないしな。
ドベの演技をしていた頃のナルトが懐かしい……。
「「六代目!!」」
大層聞き覚えのある声二つ。
荒々しく開け放たれた扉と、喜びに満ちた笑顔を引っさげ執務室に乱入してきたのは。
「ヒナタ!ハナビも。知らせ届いたの?」
ヒナタ様にハナビ様だった。手に握り締めた紙切れを見たナルトが嬉しそうに、本来の笑顔を浮かべる。
「嬉しいな〜v ナルト義姉様って呼べるんだ」
無邪気に笑う日向家くの一ルーキーハナビ様に。
「じゃぁ……わたしと、ナ、ナルトちゃんって姉妹だね」
はにかみながら笑うヒナタ様。本当に嬉しそうだ。
二人の言葉に少しだけナルトの表情が翳った。無論狙い済まして。
夫婦同然の関係である俺には一目瞭然だった。
「うん……そうなったら嬉しいけど。まだネジとは結婚の約束してないし」
表情を曇らせたまま、ナルトはあっさり本日二度目の爆弾を投下した。
とたんに背後にドス黒いチャクラを発動させた日向家本家の御二人。
ギギギ等と音を立てそうな雰囲気で方向を俺に変え、静かに歩み寄る。
白眼発動したまま。
「ネジ兄さん。……どういうことなの?」
ヒ、ヒナタ様。キャラ変わって……ます。
「女から結婚の話をさせる等といった甲斐性なし。日向の人間には居ないはず、ですよね? ネジお兄様」
ハナビ様も……甲斐性なしまで言いますか? 良家の子女が!
俺は文字通り蛇に睨まれた蛙。生命の危機を感じてナルトへ目線を送る。
「ナルト」
声が恐怖に震えるのは仕方ない。
しかも! 宗家の人間に、脅される形でこれを言うのは俺の本意ではない!!
春野が愉快そうに俺を眺めている中、俺は浅い呼吸を繰り返しやっとの思いで言葉を発した。
「結婚してくれ」
頭を下げた俺に。今回の作戦を仕組んだくの一4人が声を殺して笑っていたと知ったのは結婚式の二次会。
奈良の親切とも言えるメモによってだった。
「でも幸せでしょう?」と生まれた幼子を胸に抱いたナルトに指摘され。
俺は相変わらず言葉に詰まる毎日を過ごしている。
当然、幸せは幸せ……だ。
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