8月


「サンキュ、ヒナタ」
あたしが振り返れば何故かヒナタは真っ赤に照れて俯いた。
「ううん……いいの。ナルトちゃんの役に立てれば」
「ヒナタのお陰でバッチリv これで押せ押せだってばv」
成功を確信した微笑をあたしが向ければ、ヒナタも顔を赤くしたまま笑う。
これがつい四日前の事。



本当は二人だけでって、秘密の約束だったのに。



「どーしてこーなるってばよっ!!!」
赤丸を抱えたあたしは、パラソルの下で爆睡するキバに怒鳴った。
何故か二人だけで行くはずだった夏の海。
アカデミーも夏休みだから誰とも会わない場所を選んだのに?

「……悪い」
あたしの怒りにビビッて寝たふりをしていたキバは起き上がる。
頬を膨らませたままあたしはキバの隣に腰掛けた。
赤丸はあたしとキバを交互に見上げて「クゥ〜ン」と鳴く。

目の前の波打ち際。
何故かくの一友達のサクラ・いのコンビがサスケを巡って争ってて。
チョウジは波間に浮き輪で浮いてて。
シノは怪しげに蟲捕り。
シカマルは呑気に本を広げ一人詰め将棋。

……人がこない『曰くつき』の海辺に。どーして皆が来てる訳?
キバの返答次第によっては。

絶対シメる。てゆーか禁術つかいまくって幻想世界にご招待だってばよっ。

「あー、俺だって嬉しかったんだよ。お前と海に行くの。付き合が長いシノにバレてそれからは芋蔓式だ」
ガシガシ乱暴に髪をかき乱して、キバはそっぽを向く。
フードつきの上着から見えるキバの耳や首筋が真っ赤に染まっていた。
「キバ、嬉しかったの?」
あたしは気分が浮上してキバに抱き付く。赤丸を間に挟んだまま。
キバもあたしも上着は着てるけど下は水着。
益々顔を赤くしてキバはうろたえる。

ふふふ。なーんか幸せかも。

偶然キバにバレてしまったあたしの本性。
だけどこうして黙っててくれて。それで受け入れてくれて。

「悪いかよ」
そんな風に照れてついつい意地を張るキバの態度が嬉しい。
あたしが強くても、器でも。気にせずに接してくれるキバの態度が嬉しい。

赤丸は身を捩ってあたしとキバの間から脱出し砂浜へと駆け出して行った。

あれ……気を遣わせちゃったかな? ごめんね、赤丸。

「今度は内緒にしてね、キバ」
キバの首に腕を回しあたしは小さく囁く。お互いに額を付け合い瞳を覗き込む。
「おう」
あたしに囁き返してキバから貰う口付け。
誰かの悲鳴が聞こえた気もするけど、対抗するように赤丸がキャンキャン吼えていた。

誰かが見ていても見ていなくても。
二人でいれば楽しいよね? キバ。

ヒナタに手伝ってもらった甲斐もあって、あたしが着てきたビキニは大好評。
キバは顔を真っ赤に染めて「似合う」って褒めてくれた。
他の皆の反応はそれぞれだったけど、あたしとしては大満足だ。

キバに褒めて欲しかったから。

あたしの方が忍としての実力が高い。それは仕方ない。変えられない。
でも、あたしの心はまだ『オンナノコ』
恋の相手が同い年の、しかも、まだ強くない忍者だったとしても。
褒めて欲しい。可愛いって言って欲しい。スキって言って欲しい。

水着披露の後、キバは見せ付けるようにあたしの胸に顔うずめて昼寝した。
ニコニコしっ放しのあたしと眠るキバ。
そしたら急に雰囲気が悪くなって、何故かキバとサスケ達が喧嘩になった。
勿論あたしはこっそり術を使ってキバを助けたけどね?

「楽しいかも」
あたしがにっこり微笑めば。さっきまで番犬を勤めてくれた赤丸も嬉しそうに尾を振ってくれる。
あたしの膝では喧嘩で疲れたキバが夕寝の真っ最中。波の音だけが静かに響く。

他の皆? あんまり五月蝿かったから砂浜で寝てもらってるってば。

「本当、嬉しかったってば」
あたしは、眠るキバの耳元に小さく囁いた。



 8月のお相手はキバ。
 ナルコがある意味「押せ押せ」状態(笑)
 書いていて楽しかった記憶があります。
 数年ぶりに見返してみるとやっぱり微妙……(苦笑)
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