7月


お囃子の音に紛れて夕暮れ時に蝉が鳴く。
「物悲しい顔をしてる」
ナルトさんは少しだけ悪戯っぽく目を輝かせてわたしを見た。
「ゴホッ……そうですか?」
尋ねればナルトさんは黙って笑い、わたしの手をとって歩き出した。

カランカラン。

下駄のたてる音と近づく人声。
少し緊張しているのか高潮したナルトさんの頬は。夕焼けに照らされて薔薇色に見えた。
一寸気取りすぎですかね。
自分の考えに苦笑していると不躾な視線とかち合う。

「あ、アスマ先生とカカシ先生……。それにキバ・シカマル・シノ・チョウジ・サスケ……???」
見事に勢揃いしたアカデミー時代の同期。(しかも全て男ばかり)に、ナルトさんは小首を傾げた。

はははは。
差し詰めわたしへの牽制というか。
忠告なんでしょう。

苦笑いするわたしと驚くナルトさんは好対照。

「どうしてハヤテと一緒なの?」
一見穏やかに。わたしにだけ殺気をちらつかせて。
カカシさんはナルトさんに尋ねた。
「ハヤテ先生と一緒に行きたかったから。邪魔したら殺すからねv」
前半部分は大きな声で。後半部分は小さな声で。
器用に声音を使い分けナルトさんははっきりと言い切った。
見せ付けるようにわたしの腕に己の腕を絡め。
幾分得意げにわたしを見上げる。
この機会を逃すほどわたしも愚か者ではありません。
ナルトさんにしっかりと微笑みかけた。

360度どこから見ても、わたしとナルトさんは、夏祭りを楽しむ『恋人』に見えるでしょう。
その証拠に、ナルトさんの友人方は渋い顔をし、わたし達から目線を僅かに逸らせました。
認めたくないのでしょう。
ナルトさんが選んだ相手を。

悠然とした足取りで立ち去るわたし達。
わたしの背中にだけ殺気が降り注がれたのは……いわずもがな。ですね。



「ふふふ。帰りは気をつけてね」
屋台が並ぶ大きな通りから少しはなれた薄暗い林の中。
二人して木の枝に腰掛けていると、ナルトさんが思い出したようにクスクス笑った。

「心配……ゴホッ……してくれるんですか?」
少しは自惚れても構わないんでしょうか? わたしはなるべく自然に聞こえるように声を出す。
ナルトさんは自分の考えを普段口にはしません。
まるで今宵の空に浮かぶ月のように、美しく、触れがたい空気をナルトさんは常に纏っています。

「心配はしないけど。不安かな?」
考え考えナルトさんは言葉を選んで説明をはじめる。
遠くに聞こえるお囃子と人の声をバックミュージックに。
「ハヤテ先生なら逃げるくらい簡単でしょ? 心配はしないってば。だけどきちんと帰れたかな? 不安な気持ちになると思う」
ナルトさんは胸を押さえて不安を表現する。

迷子になった子供のようなナルトさんの顔。
こんなナルトさんの顔を見れるのはわたしだけですね。

少しだけ優越感に浸ったりしますが、忍なら。裏の裏を読みましょうか。

「では。ナルトさんの不安を解消する提案を……ゴホッ…したいのですが」
「?」
「ナルトさんを、今晩わたしの家に招待します。是非遊びに来てください。強いナルトさんが一緒なら危険度も下がります」
意表をつくわたしの誘いに、ナルトさんは一気に顔を赤くした。
耳まで真っ赤です。

普段はクールな性格ですが、わたしの前では素直に感情を見せてくれます。

矢張り自惚れてもいいんでしょうね? これは。

「……ハヤテ先生のボディーガード?」
「ゴホッ……ええ。駄目ですか?」
ナルトさんに微笑みかければ、ナルトさんは顔を真っ赤にしつつも黙ってうなずいた。
勝負あったり。ですね。

わたしの勝利の笑みに、外野達は今晩ばかりはおとなしく引き下がるでしょう。

夏祭りは楽しいですね。



 く、黒い? ハヤテ先生……。
 当時、キャラが良く分からなかった一人であります。ハヤテ先生。
 数年ぶりに見返してみるとやっぱり微妙……(苦笑)
 ブラウザバックプリーズ