6月


はたはた流れ落ちる雨に黄色い傘をさして。
わざと子供らしく鼻歌なんか歌ってみちゃおうかな? 雨は好き。
アタシの姿を隠してくれる。
それに?

「かぁし?」

見知った気配にくすくす笑えば、音もなくアタシの真正面に立つ暗部(男)。
傘も持たないで雨に濡れっぱなしの銀色の髪は濡れ濡れ。
全身濡れ鼠。
当然のようにしゃがみ込んでアタシと目線を合わせた。

「お散歩楽しそうだネ。でも残念。今日はかぁしとお留守番」
爺ちゃまがいない時のアタシの守り役。
名前はかぁし。
外見に似合わず忍の暗部として活躍するアタシの相棒でもある。
「行こう?」
アタシの答えを待たず、かぁしはアタシを抱えて飛んだ。

向かう先は火影屋敷。アタシの部屋。
誰も来ないように結界を張ってかぁしにタオルを貸す。

それからいつもと同じで、かぁしと他愛もない話をした。

かぁし曰くの「じょーそー教育の一環」らしいけど、爺ちゃまから謂わせると「紫の上育成計画」らしい。
他の人とは喋れないから、かぁしが話してくれるのは嬉しい。
難しいお話なら爺ちゃまだけでお腹一杯。
だから、かぁしと喋る『普通』な『会話』が楽しい。

素直に言うと大変なことになりそうだから、かぁしには教えないけど。

将来とか数年後に入学予定のアカデミーの生活とか。一人暮らしとか。
多分、オンナノコの一人暮らしから話が横道逸れて。
同居人の話や、結婚するとしたらどんな人? みたいな話になった。

「例えばね? 三高」
アタシは努めてすまし顔でかぁしを見た。
かぁしは緩慢な動作でタオルを頭に被る。

「上忍以上は必須。それから顔良し・性格良し・金持ち。とかかなぁ」
少し前に爺ちゃまの屋敷でくの一が言っていたのを真似てみる。
ガシガシかぁしはタオルで髪の水を拭き取りつつアタシの顔を盗み見る。
本気? なんてその目が物語っていて。
アタシはかぁしの額に口付けた。
「それからずっとアタシの傍に居てくれる人かな」
深い意味もなく付け足し。だってくの一のお姉さんはそう言っていたんだもの。
同じように少しだけ大人ぶってみたかった。
勿論会話だけ。

繰り返すけど、素直なアタシの意見を述べようものなら、大変な事になりそうだから。
かぁしには教えない。

「りょ〜かい。善処しましょうv」
酷く楽しそうにかぁしはアタシを抱き締めて。嬉しそうに頬ずりした。

すりすりすりすり。

かぁしの腕の中。
暴走しやすいかぁしをからかったのは。ちょっと考え無しだったかもしれない。
アタシはチラリと考えた。

後悔先に立たず?



そして時が経ち。

「なぁ〜るぅ〜とぉ〜」
あの時よりは重低音を響かせカカシはアタシ目掛けて両腕を広げる。
変わらないのは梅雨空のお天気。
あの時のように重たい灰色。雨もパラパラ降ってきた。

うわ。
カカシってばアタシを胸にかき抱いてとかしたいの? したいの? 目が本気かもしれない。
片目しか出してないけど剣呑なんだよね。
あの瞳の奥の怪しい輝きが。

「なんだってば? カカシ先生v」
今のアタシは表のナルト。頬を引きつらせながらアタシは笑顔を返す。

「受け取ってねv 愛情の証を」
カカシの手に握られている納税証明書と履歴書。
それから曇天の曇り空以上に不機嫌で。嫌そうな顔でカカシの背後に立つアスマと紅。

? ナニ?

「経歴・顔良し・性格良し・金持ちを証明しようv 三高!!」
真顔でアタシに迫るカカシが面白くて。
ずっと覚えていてくれたのが不覚にも嬉しかったなんて言わないけれど。
さしあたっては。

(かぁし? こんな所で告白したら恨むってばv)
とびきりの笑顔で『かぁし』を牽制しておいた。


 6月のお相手はカカシ先生。
 当サイトで、一番のカカシ先生厚遇SSだった気がします(爆笑)
 数年ぶりに見返してみるとやっぱり微妙……(苦笑)
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