厄介なモノ

世の中厄介だらけだと。

常々ナルトは考えている。

里にいるのは抜けても行く当てが無いから。
だけだったりして、自称婚約者が聞いたなら卒倒しそうな。
ソレ位希薄で薄いなんてレベルで片付けられない里への忠誠心。

 憎いとか。そんなレベルなんて頭に無いしな。
 火影の老いぼれ殺しても一銭の得にもならないじゃないか。
 追われるだけだし。

 名前が他里に知れ渡るだけ。
 名前を売り出したい『ただの目立ちたがり屋』なら良いのだろうが。

 俺、そもそも生きるっていう行為にすら興味がねーしなぁ。

矢張り、自称婚約者が聞いたなら怒髪天を突く勢いでキレただろうが。
生憎ナルトの頭の中を覗く術を彼女は開発していないので今のところ平穏だ。

久しぶりの何も無い日。
忍術アカデミーへ通うようになったら、平日の任務は入らなくなる。

夜が主になるので最近は練習を兼ねて夜の任務比重を多くしてもらっているナルトだ。

人が引いたレールを歩く方が楽だと悟っているナルトにとって。
あれこれ考えて口を出してくる三代目火影と、自分のサポート役兼パシリのイビキ。
それに人生そのものに強く干渉してくる自称婚約者。
の、三人がガヤガヤ騒いで勝手に人生設計してくれるので。
別に将来考える必要も無く。

ぼんやりしていられる。

「ナルトッv 洗濯物出来たよ〜」
鍵のかかってないボロアパート。
実は結界が三重に張り巡らされているソコを堂々と昼真っからやって来て。
細々世話を焼くのは世界広しと唯一一人。
「よぉ、イノ」
嬉しそうに持参した袋から、ナルトの洗濯物を取り出し。
箪笥に仕舞うイノ。
その背中にナルトは返事を返した。
「来年からはナルトが任務でアカデミーでしょ?表立って会えなくなっちゃうね」
箪笥に衣類を押し込みイノがそのままの姿勢で喋る。
「んあ? 今でも表立ってなんて会ってねーだろ」
イノは大抵変化の術を使い別人になって、このボロアパートまでやって来る。
結界を通り抜けた瞬間に変化は解かれいつものイノの姿になるのだ。
ナルトは訝し気にイノへ応じる。
「そーだーけど。情緒ってヤツがない。ナルトってさぁ、リアリストだよね」

プクー。

フグのように両頬を膨らませイノはナルトを睨みつけた。
「リアリスト? 俺は見る予定のない夢は見ない主義なんだよ」
面倒臭そうにイノへ言い、ナルトは手にした巻物へ目線を落とす。
「え!? じゃ、じゃあ、わたしとの約束は?」
驚いた顔のイノがナルトににじり寄る。
額をつき合わさんばかりの位置で、じーっとナルトの瞳を無理矢理覗きこんだ。
「山中の婿になって、将来火影になって。わたしを火影婦人にするの。時間が経って隠居したら山中花店を継いで、わたしと一緒にお花屋さんをするって約束!!」
えらく具体的な約束。

普通だったら約束などさせずに黙って見守るのが内助の功。
忍の妻になるのならあまり差し出がましくない方が良い。
そんな木の葉の風潮を見事に打ち砕いて、イノは自分の目指す夢をナルトに約束させた。

「ああ、あの厄介なヤツか」

 イノの家の婿になるのは良いとして。
 火影になんてなったら日々雑務に追われて任務どころじゃないだろ。
 ストレス溜まって胃に穴でも開いたらどうすんだよ。

 ただでさえ俺、最近始めた『ドベ』のナルトの演技でダウン寸前なのにな・・・。

気のないナルトの返事に思わずイノは抱きつく振りして、相手の首を絞めていた。
「ナァールゥートォー」
巻き舌でナルトの名を呼ぶイノの顔は恐い。
ナルトがこの世で一番恐れるのは、どっかにイッちゃってる時のイノの顔だ。
いつも笑顔だけを浮かべさせてやりたいのに、感情的欠陥を抱える自分では。
イノを怒らせてばかり。

 普通に笑っていて欲しい。
 そう思っても俺、上手く言えた試しもないな。
 というより? なんでイノは怒っているんだ?

案外天然ボケの部分も持ち合わせているイノの旦那様は。
キョトンとした顔でイノの怒った顔をぼんやり眺める。
「どれが厄介なの?」
小さく唇を突き出してイノは拗ねた顔。
不貞腐れたイノの様子にやっと己の失言を悟るナルト。

 俺ももう少し人間観察を的確にしないと駄目か。
 アカデミーには様々な奴等がいるだろう。
 そういう奴等を相手に俺は『ドベ』を演じきらなければならないからな。
 長期任務だからこそ気が抜けない。

 日向やうちは、それに? イノの幼馴染の奈良もアカデミー入学予定者だったな。
 あいつ等に悟られないよう。
 油断は禁物だ。

少しばかり思考を数ヵ月後に開始される長期任務へ飛ばし。
それから目の前で膨れる将来の伴侶の顔へ目線を戻す。
「火影なんざ俺は興味ねーし、厄介な地位だと思ってる」
極力感情を殺して言う。
イノの瞳が落胆の色に染まった。

ナルトは生きる行為にすら興味を持たない。
自分の存在価値に興味はないし、別にどう死んで消えようがまったくの無関心。
いつか、まるで空気のように消え失せてしまいそうな錯覚さえ覚える希薄な雰囲気。
イノは全て見てきたからこそ、危惧していた。

里への恨みとかで抜けるんじゃない。
己の生に興味がないから里抜けをする。
もしあの憎いライバル・イタチにナルトが唆されてしまったりしたら!?

だからイノは。
小さな約束と自身の存在を盾にナルトを里へ縛り付けていた。

 まるで天女を天に返したくなくて、羽衣を隠してる男がわたしよね。
 天女はナルト。

「だけどお前が横に立ってるなら、愉しい厄介ごとになるかもな?」
ナルトの言葉に落胆して、マイナス思考に陥ったイノへもう一言。
悪戯っぽい微笑を作りナルトはイノを抱き締め返す。
「ドクドクいってるだろ?」
「うん」
「イノといると心音が早くなって。それから落ち着く」
「うん」
「俺の還るべき場所は常にココだ。木の葉じゃない」
「……うん」
「だから」
ナルトは一旦言葉を区切る。
イノは陥落寸前で涙を零すまいと必死に堪えていた。
「イノは常に俺の厄介でいろ。俺の唯一の厄介なモノ。それはイノだけだ」
感極まったイノに再度首を絞められ、木の葉最強の忍が危うく窒息死しそうになるまで後数十秒。


カ、カッコ良いナルトを目指してみました(汗)カッコ良いのかな??そんなこんなで、案外この二人はラブラブ(半分死語)なんです〜vていう話。ブラウザバックプリーズ