運命? 必然?

 ニタァア。

血走った眼を左右に走らせ、大蛇丸は壮絶な笑みを浮かべる。

「運命を感じるわv ナルト」
「そうか」
ナルトは無表情で大蛇丸に相槌を打つ。

大蛇丸の背後に控えるカブトは、心持ちげんなりした様子で回していた。
防水加工したビデオカメラを。

喋りながら息つく間もなく剣とクナイで戦う大蛇丸とナルト。
そんな二人を呆然と眺めるのは、綱手とシズネだ。
自来也は予想通りの展開に乾いた笑みを浮かべている。

「……なんだい? アレは」
文字通り目を丸くする綱手の顔に苦笑い。自来也は頭を掻く。

「大蛇丸の奴、ナルトに目をつけておってな。しつこく音に誘っているらしいのォ。
尤もナルトの心を動かせるのは世界でただ一人。許婚のあの娘が望まぬ限りは、ナルトは木の葉を守り、火影の椅子を目指す」
小さな声で自来也が説明。綱手は小さく唸りながら顎に手を当てた。

「大蛇丸の眼中にわたしは居ないわけか。腕はどうでもいいのか? 大蛇丸の奴」

腕を治せと。
見返りはあると。

綱手に甘言を寄せておきながら、返答の期日の場にやって来たらこれだ。

ナルトを一目見るなり擦り寄る大蛇丸と、追い払うナルト。
ならば力尽くでも……等という雰囲気が大蛇丸サイドに流れ。

結果。ナルトと大蛇丸が戦っている。

「欲しいものの優先順位の違いだろうな」
自来也は率直な考えを口にして肩を竦めた。
「そんなものなのですか?」
シズネも呆れ果てた顔でナルトと大蛇丸を見る。

腕が使えない大蛇丸の圧倒的不利はシズネの眼から見ても明らか。
だがしかし。
あの蛇のような執念深さは恐ろしい。

ナルトも本気を出していない。
大蛇丸の命に興味がないが、綱手が言うもう一つの誘い主が大蛇丸なので。
綱手の返事を聞くまでは撃退するに撃退できない、という事情がある。

よって、どちらも決定打を与えられないまま。先ほどから刃を交えている。

「綺麗で残酷な物を大蛇丸は好む。あの趣味は昔から変わらん」
腕組みして少し遠い目をした自来也がシズネに言った。
「はぁ……そうなんですか……」
自分とは縁遠い趣味だ。シズネは考えながら相槌をうつ。

「で、どうする? ナルトは指示を待っておるぞ?」
戦いながら余裕でこちらの様子を窺っているナルト。
ナルトを顎先で示し、自来也が黙りこくっている綱手を突いた。

「……」
綱手は複雑な顔をしたまま口を結んでいる。

迷いがないといったら嘘になる。
最愛の弟と恋人。
一目見れるものなら会いたい。
反面、火影になって二人の想いを受け継ぎたい。
相反する考えの狭間で綱手は揺れる。

 何より……わたしは血を克服していない。

暗い顔をした綱手の様子にナルトは小さく息を吐き出した。

「余所見しないで欲しいわ」
弾んだ声の大蛇丸が口から出した剣を振るう。
剣先を余裕で避けてナルトは何度か瞬きした。

「悪いが、音にも最強の忍にも最強の術にも興味がない。サスケをくれてやると言った筈だが?」
初対面の時にも告げた言葉を口に出せば、大蛇丸は不服そうに眉根を寄せる。

「だから要らないって言ったじゃない」
頑固さならナルトと良い勝負か。大蛇丸もあの時と同じ返答をした。

「それに綱手を火影に? 無理よ。綱手はねぇ、最愛の男を失った悲しみから血に対して恐怖を抱いているの。血を見ると震えがとまらなくなるのよ……忍としては致命的だわ」
自来也の姿を一瞥して大蛇丸が言い切る。

「血が怖いのか? あの女は」
誰にも聞こえない程度の小さなナルトの呟き。

それから徐に大蛇丸が繰り出した剣を自らの胸で受け止めた。
胸板を貫通する鈍色の剣先。
血が滴る大蛇丸の刀と、周囲に立ち込める血の匂い。

「アンタが決意しないのなら、予告通り俺は果てる」
大蛇丸の腹に蹴りを入れて。
大蛇丸だけを剣から引き離し、血塗れのナルトは綱手を見る。

ナルトの奇行にシズネは茫然自失。
カブトはビデオ片手に大蛇丸を抱き起こし、自来也は額に手を当て。
綱手はその場に崩れ落ちた。

「……」
目を見開いて身体を震わせる。

己に執着が薄いナルトが容易く己の宣言を証明しようとしている。
分っているのに静止の言葉が喉から出ない。
綱手は震えながら薄っすら開いた唇から声にならない悲鳴を漏らす。

「エロ仙人。里に帰ったら伝えてやってくれ。約束を守れなくて悪かった。俺の事を忘れろとは言わない。思うが侭に生きろ。それから……誰よりも愛していると」

誰も彼もが固まったように動けない中。

なんとも呑気に死に逝く当人が自来也に伝言を頼んでいる。
一種異様な光景だ。
胸から零れる血をそのままに真顔で言い切るナルト。

「伝えるが……わしがその前に殺されそうだのォ」
顔を引き攣らせて自来也が応じた。
「そうかもな」
穏やかに。
安らいだ表情で徐にナルトは微笑み、その場に倒れる。

そんな好機を逃さぬのがカブト。
ナルトの身体を回収しようと動くが、我に返ったシズネとナルトを挟んで睨み合う。

震える綱手を他所にカブトと戦うシズネだが分が悪い。
僅差でシズネの動きを封じ優位に立つカブト。
大蛇丸の期待に満ちた眼差しを背中に感じながら、ナルトに手を伸ばした。

「火影の為に……命を落とすなんて愚かだよ……ナルト君」
なんとはなしに零したカブトの本音。
これで綱手に火がついた。

自分の手にクナイを突き刺し震えを止める。
目にもとまらぬ速さでカブトをぶっ飛ばし、ナルトの胸から剣を抜き放った。

本来なら九尾が癒しているはずの傷口。なのに傷は治らず血を滴らせている。


 死ぬな……。
 お前如きヒヨッ子が、最愛の女に愛してるなんて。
 言付けるには百年早いんだよ。

 だから……死ぬな。


綱手の治療の後は伝説の三忍が三つ巴。
いい歳したおっさんばあさんが、ナルトを巡ってひと悶着。
ナルトが意識を取り戻した時には全ての決着がついていた。


「……結果良し?」
首を捻るナルトに綱手は嘆息しながら、己の首飾りをナルトに託す。
二度と軽々しく命を捨てないと誓わせて。
証の首飾りはナルトの胸元で少し嬉しそうに光った。


  彼女の為ならの詳しい内容です。
  相変わらず貧乏くじを引くのがカブト、弟子運がない自来也。
  どっちが不運なんでしょうね(笑)ブラウザバックプリーズ