世界はアイツ中心で(彼女の言い分)

微妙にトーンの違う二つの金色が風に揺れる。

ふぁ、と輝く金色の髪の持ち主が欠伸を漏らした。

磨きに磨いた至高の白玉を思わせる白い肌。
左右の頬に走る三本の痣。
髪と同じく金色に輝く睫毛に縁取られた双玉の蒼。
中性的な顔立ちであるが、幼いながらも凛々しい顔つきと服装から少年と思われる。

傍らの少女。
控え目な色の薄金色の髪と薄水色の瞳。
ラフなTシャツに膝丈までのズボン。
肩までギリギリ届かない長さの髪を風に靡かせる。
邪魔な前髪をピンで留めて、何処となく女の子らしさを演出中。の少女。

二人の子供は草原に突き出た岩の上。
肩を寄せ合って座っていた。

「んだよ、不満か?」
欠伸を噛み殺し少年は真っ直ぐ前を見つめたまま、隣の少女へ尋ねる。
美丈夫な顔立ちとは裏腹に言葉遣いは悪い。
「ううん。ただ……」
下唇を突き出して不満顔。
少女は両足をブラブラ動かした。

否定の言葉を吐きつつ苛々した調子で髪を振り払ったり、弄ったり。
落ち着きが無い。
本人にそのつもりはなくとも、不機嫌丸出しである。

「帰りたきゃ、別にいいんだぞ? 先に帰っても」
「駄目。これは“任務”でしょ? ……ま、わたしはオマケだけどさ」
少年の言葉に少女は素早く応じた。

眼前に広がる枯草色。
草原を突き抜ける風に頭上には目も眩むような太陽と空。
清清しいばかりの光景と。
知らぬ者が見たなら己が目を疑うであろう死体。

草むらに転々と無造作に転がっている。

ふぅ。隣の少年になるべく気取られぬようため息。

数少ない逢瀬の時間を任務に当てた挙句に、その任務でさえ僅か二時間で終わったのだ。
回収役が迎えに来てしまえば彼とは“サヨナラ”。

「あ――――あぁ」
ため息つき少女は少年に寄りかかった。
「なんて世の中リフジンなんだろ」
小さくぼやく。
「リフジンだから楽しいんだろ?」
少女の他愛も無い言葉に返事を返す。

辺りへの警戒を怠らない少年の引き締まった表情・・・その横顔。
誰をも魅了するであろう美しい横顔。
微かに微笑を湛えたそれはさながら一枚の絵。
何人もの侵入を許さぬ神々しささえ放って。

 う――――っ。わたしが見惚れちゃうのってどうなの!?

ぐるぐる回りだす少女の袋小路な思考回路は止(とど)まるを知らず。

 わたしの隣で滅茶苦茶格好良かったりするコイツは、わたしの幼馴染。

 名は“うずまき ナルト”。

 里一番の嫌われ者にして八年前里を襲った災厄、九尾の狐の器役を務める上忍。
 知っているのは三代目火影様と、わたしの家族。
 他諸々と数少ない。
 わたし的にはライバルも少なくてらっきー?かな。
 ナルトが素で暮してみなさいよ、絶対にモテるんだから。


 冗談じゃないわっ。


 ナルトと出会ったのは四年前。
 わたし、ナルト共に四歳の時。
 父親と母親に連れられて出向いた火影屋敷。
 滅多に入れない火影屋敷を探検中・・・そうよ?
 名誉のために云っておくけど、探検中だったの。

 迷子じゃないからね。

 偶然、本当にたまたま。
 わたしが初めて見かけた“ナルト”は血まみれスプラッターだった。
 正直、ビビッって何も出来なかったわ。
 金色の髪が血に染まって、ガラス玉みたいな目。
 動かない手足に飛び散る血飛沫。
 怖くて怖くてガタガタ震えてた。

 ただただわたしは震えてた。

「みぎ」
血がこびり付いた唇が動く。

 わたしは怖くて涙を流してて、言葉の意味を一回で理解できなかった。

「みぎ」
もう一度。
ナルトは静かに“右”だと言う。

 わたしは訳も分からずに右を見る。

 するとそこには苦い顔の火影様が立っていた。
 でも子供が、ナルトが気になってもう一度目を合わせて。
 自分でもよく分からなかったんだけど。
 ね?
 気が付いたらナルトにしがみ付いて自分の服を血だらけにしてわんわん泣いてた。
 わたしが。

 今なら分かる。
 涙も流さないで諦めきっていたナルトの心。
 だけど本当は泣いていたの。
 わたしにだけ届いたSOSのメッセージ。


 初対面でこれよ?
 わたしは懲りずにナルトに会いに行ったんだけど。
 後は思い出すだけ“うえっ”って感じ。


 乙女が見て良い場面じゃなかったのは確かよ。


 それから運命のプロポーズを経て。現在に至るってワケ。
 乙女の血と汗と努力と涙の結晶で手に入れたことポジション。
 他の女に譲ってたまるもんですか―――!!!

「……どうした?」
一人回想に浸る少女の百面相。
目まぐるしく変わる表情に些か驚いて少年は、ナルトは声をかけた。
「気にしないで。ちょっと気合を入れただけだから」
「はぁ・・・?」
怪訝そうな顔でナルトは少女を見るが、それも一瞬。
直ぐに仕事の“顔”に戻ってしまう。
少女にとってはそんなナルトの変わり身が、とても気に入っている瞬間である。

 男の顔、なんだよね。
 悔しいけど、腹立つけど。
 わたしじゃ、まだ、隣に立てない。
 ナルトが仕事をしている時の顔。

 わたしメチャメチャ好きかも……ううん、好きなんだよね。きっと。

「遅かったな」
ナルトが口を開けば音もなく姿を見せる巨漢の男。
顔中に走る傷がトレードマークの木の葉の忍。
ナルトの補佐役である。

「人の恋路を邪魔すると蹴られるらしいからな?」
巨漢の男はニヤニヤ笑った。

 それって。
 この間のデート兼暗殺任務でわたし達の時間を邪魔した木の葉の忍が。
 幻術に一週間魘されたってヤツだよね〜。

 愛されてるなぁ、わたしv

笑顔になる少女と、無表情になる少年。

「俺を“ヒト”だと“定義”するならな」
薄く笑うナルトに間髪入るビンタ。
「馬鹿いわないでっ。ナルトはわたしの旦那様兼史上最強の火影になる忍なの! いくらナルトでもわたしの野望を邪魔する権利は無いんだから。分かってる?」
痛む頬を押さえるナルトに、懸命に笑いを堪える巨漢の男。

 そりゃー、ナルトを引き止めるための精一杯のわたしの虚勢だけどさ。
 分かってるけど。

「少なくてもわたしにとってはヒトなんだから。そーゆーのは他所でやってよね」

 フン。

鼻を鳴らしてそっぽを向いた少女にナルトは困惑して。
巨漢の男は見て見ぬフリで明後日の方角へ顔を向けた。

 なによ、なによ。
 木の葉の優秀な上忍のナルトはいっつも任務三昧で。
 今日も里の侵入者の暗殺任務で。
 Sランクなんてザラで。
 里の裏じゃナルトを中心に木の葉は回ってるじゃない。


 いい加減自覚しなさいよね、ナルト。


「いいこと? ナルトが厭でも木の葉はアンタ中心に回ってんのよ。上忍のくせして、あったま悪いんじゃない?」

 あー苛々する。

少女は肩を怒らせ、岩から着地。
そのままナルトと巨漢の男を振り返らずに歩み去って行ってしまった。


「……」
呆然と彼女の背中を見送るナルトと。
「痛い愛情だな」
しみじみ呟く巨漢の男。

誰も知らない木の葉の裏側。

裏側でだけ軽やかに動く子供達のそんなある日のヒトコマ。


こういうナルトも大好きです。
この場合ナルトを木の葉に引き止めるための苦肉の策って感じで、彼女が迫ったんですヨ。火影の妻の座をあたしに頂戴とかって(爆笑)このナルトは執着心があんまりないタイプ。
出そうかどうしようか深く迷っていた作品でもあります。
あ、ナルト視点からも見ていただければより一層分かりやすいです。ブラウザバックプリーズ