ライバル撃退法
ライバルは腐るほどいる。
だからわたしは考えた。考えたわっ。
影で三代目を脅し、ナルトを泣き落としして。
それから先生(この場合は師匠であるイビキのこと)を半殺しにして。
架空の人物を作り上げることに成功したのv
愛の力は絶大・偉大。
今日のターゲットは変態上忍よっ!!!
「今日の任務はこれまで」
半眼の教師。
はたけ カカシの言葉と共に下忍の仕事が終わりを告げる。
夕闇が深まる木の葉の里。
サクラはサスケに熱い視線を送るがサスケは涼しい顔で踵を返す。
カカシはサクラへ視線を送るナルトへ声をかけようとして。
「ナルト♪」
第三者の声に遮られた。
「蕾(つぼみ)ねーちゃんっv」
ナルトの顔が輝き、ペットフードのCMではないがまっしぐら。
美貌のくの一へ抱きつく。
妖艶な笑みを湛えナルトを抱き締める美女・蕾の勝ち誇った笑み。
カカシは片眉を吊り上げて蕾を睨みつけた。
「丁度私も任務が終わったの。イルカさんに聞いたら今日はココだろうって。任務は終わりですよね? はたけ上忍」
後半部分はカカシへ向け問いかける。
「ええ、終わりましたよ」
女性相手に殺気立つ。
冷たい声音でカカシは蕾へ答えた。
ふっ。
蕾の唇がカカシにしか分からないように。
ほんの数ミリだけ持ち上がる。
みしっと音がして、カカシの額に怒りからと思われる血管が浮かび上がった。
「じゃーさ、じゃーさ……」
興奮した子供そのもの。
ナルトが頬を高潮させて蕾を見上げた。
口を開きかけるナルトの唇を人差し指でそっと封じて蕾は極上の笑みを浮かべる。
「ラーメンだと栄養が偏るからダメv 今日は私が手料理ご馳走してあ げ るv」
「ホント!?」
ナルトの顔が微かに引き攣ったが、こんな所でボロを出すナルトじゃない。
蕾の言葉に大袈裟に反応。
尻尾があったなら千切れんばかりの喜びよう。
「でははたけ上忍。失礼しますわ。……ナルトのお友達の、春野さんもうちはさんも。ごきげんよう」
「じゃーねー、サクラちゃん。ついでにサスケ」
仲良しこよし。
蕾と手を繋いだナルトは上機嫌で手をフリフリ去っていった。
「……くっ……」
握り拳片手に膝を大地へ付けるカカシ。
「カカシ先生連敗ね…」
ナルトに気があるらしいカカシのナルトナンパ率、今までのところゼロ。
サクラは幾分気の毒そうに打ちひしがれるカカシへ目線を送った。
「フン」
短縮された言葉を理解できる言葉へ直すと、ざまあみろ、だろうか。
冷ややかにカカシを一瞥しサスケは帰路へついた。
「あー、サスケ君待って〜!!」
サクラもサスケを追いかけ帰宅。
カカシはサスケとサクラが消え去ってから、風のようにその場から姿を消した。
同じ頃。
(いいのか? カカシに面と向って喧嘩売って)
ナルトの唇が音もなく動く。
(あら? ナルトはわたしが怪我するの黙ってみてるの? 婚約者で将来の嫁なのに?)
蕾もナルトに応じて音もなく唇を動かした。
ナルトの肩が一気に下がる。
(……ってイノ! お前なぁ……自分で言うか? 自分で)
暴走しやすい将来の嫁は、相変わらずナルトの都合お構いナシだ。
(譲れないわ。ナルトの隣に立つのは。一番直ぐ近くに立っていいのはわたしだけ。こればかりは譲れないんだもん。仕方ないじゃない)
寂しそうに蕾(イノ)の瞳が揺れた。
切ないその表情にナルトも思わず顔を薄っすら赤くする。
「少なくとも。ストーカーまがいの変態に、ナルトを任せるのは心配なの」
蕾が指先で挟んだ千本を立て続けに投げ放つ。
キン。
涼やかな金属音がして、千本が全て弾かれる。
電柱の上に。
しゃがみ込んだカカシがクナイ片手に蕾とナルトを見下ろしていた。
「うわっ、わっ」
バラバラ落ちてくる千本にナルトが慌てる。
表向きの演技。
カカシは見破っているだろうに、ナルトはあくまでこの立ち位置を貫くらしい。
蕾は目を細めカカシの目線を正面気って受け止めた。
「ナルトの遠縁として一つ警告させてもらいます。カカシ上忍」
表情一つ変えず、カカシの射抜くような鋭い視線を受け止める。
そのまま蕾は静かに口火を切った。
「ナルトに手を出そうものなら。私が容赦しませんし、私の擁護者(三代目火影及びナルト本人及びその周辺)も黙っていませんからv」
見る者が見たら顔を赤くして照れるであろう、美女の微笑。
蕾はナルトと手を繋ぎなおす。
それから蕾の家へ歩き出した。
「諦められたら苦労はしないんだよね〜」
カカシ。
悔しいので握り締めた蕾の千本を、背中を向けた彼女目掛け放ってみる。
相手は特別上忍(蕾公式設定)。
避けるくらい簡単だろう。
思ったのに。
千本クリティカルヒット。
カクン。
上半身をよろめかせ蕾が崩れ落ちる。
「えっ!?」
カカシは仰天した。
当然、隣のナルトも少し驚いていた。
苦しそうに呻く蕾にしきりと話しかけ背中を擦っている。
「うちの部隊の忍に悪戯しないでもらえますか?」
気が付けば背後に見知った気配が一つ。
「や、やあ、イビキ」
冷や汗をかきつつカカシは片手を上げた。
普段なら温厚・温和なイビキも怒気を孕んだ顔つきでカカシを見据える。
「三代目火影様がお呼びです。お越し下さい」
用件を告げ姿を消すイビキ。
思わず頭を抱えたカカシの目の端に。
不敵に哂う蕾の笑顔が写ったのは言わずもがなであり。
夜。
何者かの襲撃を受けカカシが全治一週間の怪我を負ったのは。
偶然ではない。
「ヒヤヒヤさせるなよ」
山中花店二階イノの自室にて。
リンゴをむきむきするナルトの忠告に。
「ごめーんv 相手がカカシ上忍だもん、油断しちゃったv」
ベットで横になりながらイノが心底嬉しそうにナルトへ詫びた。
当然油断なんかしていない。
不意打ちされたらイノだってカカシに敵わないが。
演技力ならカカシに勝てる。
これでナルトはカカシを敵視するもんね〜v
千本の先が丸くなっていて。
本当は皮膚一枚斬ることさえ不可能だと知っているのは、ベットの中から恋人がむいてくれたリンゴを食べるイノだけなのだ。
勝者、イノ。
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