ライバル丸め込み法

その日。中忍試験を控えたある日。
下忍ルーキー・うちは サスケは荒れていた。
ぶっちゃけキレていた。

秘密の(サスケ本人はそう思っている)修行場でクナイを放ち、術を使い、身体を鍛える。
来るべき『復讐』の為鍛錬を怠る事はない。
深い森の奥にクナイの打ち込まれる音が響く。

 あーあぁ。あんなに我武者羅になっちゃって。

サスケの修行を密かに観察する影が一つ。
外見は美女だが中身は違う。

 そりゃー、演技上のナルトはどんどん綺麗になるし。
 輝いてるし。
 動揺しちゃうサスケの心境も分からなくはないけど。

 けれどね、サスケ。
 絶対ナルトの隣は譲れない。
 変態上忍カカシの次は『サスケ』アンタよ!!

握り拳片手に決意を固める20代前半の美女。
表向きの名前を『花咲 蕾(はなさき つぼみ)』という。
特別上忍・くの一。

ナルトの遠い親戚というポジション。
しかしてその実体は?

 ふふふ〜、三代目火影様を脅した甲斐があったものよね。
 わたし天才!!

ニンマリ笑う笑顔が蕾本来の姿、イノと被る。
裏のナルトを知りナルト一筋。
山中 イノはナルトに対する好意(友情ではなく愛情)の芽を摘むべく奔走していた。

額から滴る汗を拭い、サスケは浅い呼吸を繰り返す。
奇妙な焦りと苛立ち。
心の中に救う何か。
気持ちの正体を見極められずにサスケは心にもやもやを抱えていた。

「ちっ」

脳裏に浮かぶ波の国。始めての実戦経験。
それから始めての死。
始めての……。

考えてサスケは軽く頭を左右に振る。

「ほどほどにしないと、身体壊すわよ?」
聞き覚えのある声音。
だが一瞬誰だか分からない。
勢いよく振り返ったサスケの視線の先には美貌の女性が一人。
微苦笑を湛えてタオルを片手に立っていた。

「アンタは……」
「花咲 蕾。ナルトの保護者役よ。貴方はうちは サスケ君でしょう? ナルトと同じ班の」
眉間に皴を寄せるサスケにタオルを取り出し、蕾(イノ)は己の立場を明かす。
「ナルトを迎えに来たつもりだったんだけど、入れ違いになっちゃって。そしたら君が居たから、つい」
蕾(イノ)は平然と嘘をついた。

 ナルトに迎えなんていらないわよ〜。
 さあ、うちは サスケ。
 アンタの感情のベクトル、イノ様が方向を変えて見せるわ。

サスケがタオルを手にした時、蕾(イノ)の瞳が細められる。

「波の国の話は聞いたわ。ごめんなさいね、ナルトを庇わせて」
大人の女性らしくしおらしく。
蕾(イノ)は小さく俯いてサスケに詫びた。
「俺は」
言いかけてサスケは口篭る。

改めてあの時の心境を考え、複雑な気持ちになってしまう。
無謀にも実力違いの相手に戦いを挑もうとしたナルトを。
見捨てて置けなかったのは何故なのか。
無意識に身体は動き、ナルトを生かそうとしたのは何故なのか。

「俺はナルトを」
ほんのり頬を赤くしてサスケは小さく呟いた。
「嬉しいわ。ナルトを心配してくれる『友達』が居るのは」
サスケの思考を遮るように蕾(イノ)は口を挟む。
少々棘のある蕾(イノ)の台詞にサスケは秀麗な顔を顰めた。
「この際だから教えておいてあげる。貴方の望みは別として、貴方は木の葉の里のうちはの末裔なの。子孫を残し『うちは』を復活させなければならない」
「言われなくても分かっている」
諭すような蕾(イノ)の口調にサスケは憮然とした顔で応じる。
「本当に? 貴方がナルトに友情以上の好意を抱くのなら、里としても『それなりの処置』を取らせてもらう事になるのよ?」

 ふふん。
 わざとサスケの恋心を煽るのはちゃーんと確証があるから。
 だもんねv

話術なら蕾(イノ)の方が数段も上。
サスケなぞ太刀打ちできない。

言葉に詰まったサスケだったが数秒の後、口を開く。
「指図は受けない」
簡潔だが決意の固まりつつあるサスケの短い言葉。
「そうね。人の気持ちは、誰かに言われて左右されるものじゃないものね」
得体が知れない。
人の神経を逆撫でしたかと思えば、肯定してみせて。
蕾の意図が分からずにサスケは口を引き結ぶ。

「人の気持ちは移ろいやすいわ。それはサスケ君、君が一番良く知っているでしょう。あんなに穏やかだった家は一夜にして崩壊」
寂しそうな顔で笑う。
当然サスケ用に狙って作った顔。
蕾(イノ)は空高く飛ぶ鳥を眺めた。

「愛情も激しく移ろうもの。愛するからこそ憎んでしまう。紙一重よ。
聡いサスケ君なら分かっている事でしょうけど……でも友情は違うと思うの。
そんな柔な繋がりじゃないと、そう思えるの。だからサスケ君に無理を承知でお願いしたいの。
ナルトの友達で居てあげて欲しい」

誘導的語りだがサスケが気がつけるはずもなく。
蕾(イノ)の放たれる穏やかな口撃に陥落寸前である。

「友達」
サスケが言葉を零した。
「ええ。わたしも四六時中ナルトと一緒に居れる訳じゃないから。サスケ君みたいな『友達』が居てくれると心強いわ。友情は変わることがない不変のものだもの」
畳み掛ける蕾(イノ)に揺れるサスケの瞳。

 さあ、サスケ。これがトドメの一撃よっ!

「一生モノよ、友情は」
蕾(イノ)が言い放った。

途端にサスケの顔つきが変わる。
すっかり蕾(イノ)の策に引っかかり、芽生え始めていた友愛がしっかり友情へと書き換えられた。

「ふん。俺が居ないとアイツは危なっかしいからな」

面倒見てやるよ。
なんて暗に理解できるサスケの分かり易い『友達』宣言。

「ふふふ、嬉しいわv」
虚勢を張るサスケを微笑み眺めつつ、蕾(イノ)は内心ガッツポーズで勝利宣言。

 ちょろいわね。

サスケ、イノの策略に嵌り早々に戦線離脱。
当然このイノの行動を知る三代目と、彼女の師匠であり仕事仲間の特別上忍は。
ため息をついたが別段咎めはしなかった。

というか。
咎める事が出来なかったらしいが。
木の葉の里は兎も角も平和である。

書きたくて思わずさっき書きました(笑)いえ、元ネタは書いてあったから少々手を加えて。サスケバージョンのライバル撃退法。圧倒的実力差でイノの勝利ですvブラウザバックプリーズ