親の目・子の目


「ほら、アナタ! 火影様にお願いしていた件。漸く調べがついたみたいv 報告書を頂いたわ」
イノ父、自宅に帰るなり奥方によって二階へ連行された。
通常ならまだ開店時間の山中花店。
早々にシャッターが下りている。
「……動向調査書?」
イノ母が差し出す巻物のタイトル。
声に出して読み上げてイノ父は首を捻った。
「ええ。基本的にナルト君の家へのお泊りは無条件で許してるでしょ? でもイノってば話してくれないじゃない。ナルト君との仲が何処まで進展しているか」
お茶を淹れ湯飲みをイノ父へ差し出しながらイノ母が言う。
奥方の言葉にイノ父は腕組みして思案顔。
「ナルト君は将来花屋になってくれるって言ってるし。有望な息子とうちの娘が上手くいってるか心配なのよ」
にっこり笑うイノ母の顔に出ているのは『好奇心』
イノ父は見なかったことにして、巻物を紐解いた。


報告書。
対象者二名。
火影直々に水晶玉使用。
巻物製作者・森乃イビキ。


暗部の仕事は不定期で任務終了の時間もまちまち。
その日もナルトは仕事後の倦怠感を抱え家路に付く。
変化をしチャクラの気質も少し変えて。
人の印象に残らないよう気配を消して幻術もかける。

「お帰りなさい、ナルト」
ボロアパートの玄関を開ければ中でイノが洗濯物を畳んでいた。
「おう」
ナルトは言葉少なに返事を返す。
別段何時もと変化のない笑顔でイノは笑っただけ。
ナルトの素っ気無い態度に慣れている模様。

イノと一部の人間しか潜ることの出来ない幻術。
何も知らない人間が入ったら、乱雑とした部屋が見えて。
仕掛けを知る人が見ればそれなりに落ち着いたシンプルな部屋。
間取りや家具の配置が一緒でも中身が違うと受ける印象も違う。

「夜食作ってあるけど、どうする?」
ナルトの下着を抵抗なく折り畳み箪笥へと仕舞う。
手際よく片付けながらイノが暗部装束を脱ぐナルトへ問いかけた。
「風呂」
疲れているのか相手がイノだからか、ナルトは単語で返事。
何時にも増して言葉数が少なく短い。
「入ってる。温泉の元あるから入れたいんだったら、入れて」
と、箪笥の整理をしながらイノ。
「ん」
ナルトも慣れた様子でイノの言葉を聞き流して風呂場へ消えた。

イノはナルトが脱ぎ捨てた暗部装束を片付け、汚れた物は専用の洗濯籠へ投入。
無造作にベッドに置いてあるホルスターとポーチから血の付いたクナイや手裏剣だけを拾い上げる。

「わたしが居ると面倒臭がりになるんだから」
口先では文句でもその表情は柔らかい。

無事に今日も帰ってきてくれた。
ナルトの実力を知っていてもこの安堵感ばかりは毎回イノの胸を覆いつくす。
胸に手を当ててイノは大きく息を吐き出した。

 神様なんて信じない。
 わたしが信じるのは、わたしが見て確かめてきた現実だけ。
 だから今はナルトが怪我もなく帰ってきた事実に『感謝』ねv

間もなく湯上りのナルトが頭にタオルをかけてイノの元へ戻ってくる。
「飯」
顎先をイノの頭に載せたまま一言。言いながら無言でイノを背後から抱き締める。
イノはナルトに背を預けた。
「鳥雑炊に煮びたしに漬物。明日は七班の下忍任務が朝から入ってるんでしょう? だから少し軽め」
「ん」
イノの説明に相槌? だけ打って、イノの拘束を解く。

ナルトは裸足のまま台所へ行き、イノが用意した夜食を食べ始めた。
イノはナルトの邪魔をしないように飲み物だけをナルトに給仕して後はナルトがしたいがままに任せる。

普段のイノといえば口が達者な勝気のくの一というイメージが浸透しているが。
中々どうして。
ナルトの気持ちを汲み取り静かに振舞うことだってする出来た女だったりもするのだ。

ナルトは任務明けは、特に暗部の任務明けは誰とも喋りたくない。
誰にも会いたくない。
一人だけの例外を除けば。

「……」
両手を合わせてご馳走様のポーズ。
取ってナルトは洗面台に消える。

明日の任務に備えて早々に寝るのだろう。
分っているイノも茶碗を片付け流しに入れ。
汚れたクナイと手裏剣を自分のポーチへ仕舞う。

後で裏の忍術の師匠・森乃イビキに綺麗にしてもらうのだ。
彼は暗部にも顔が利くので彼経由で何時も手入れをしてもらっている。
ナルトが往々にして無頓着であるから。

当然、イビキ経由で戻ってきたクナイと手裏剣の手入れ終了後のチェックはイノがする。
イノがチェックして、それをイノはナルトに確かめてもらっていた。

ナルトを守ると決めたときから決めたイノの不文律。
ナルトの邪魔にならないこと。
ナルトの居場所を作ること。
ナルトが安心して任務に行けるよう駄々を捏ねないこと。

「さて。ナルト、もう遅いからわたし帰る……」
言いながらエプロンを外すイノの身体は、浮遊感を味わう。
瞬きする間にそっとベッドの上に横たえられ、隣を見れば仏頂面のナルトが。
欠伸を一つ漏らしてイノの身体を抱えそのまま寝の体勢に入り、数秒もしないうちに寝た。

イノは赤面しつつもポーチを外し、掛け布団をなんとか引っ張り出し。
自分とナルトの上にかけてナルトに抱き締められながら眠りに付いた。



イノ父は、激しくイノ母に揺さぶられて危うく吐くところだった。

「キャ―――――――――ッ!!!! アナタv アナタv イノは立派なくの一に成長したわねv ナルト君も可愛いわぁ」
孫はさぞや可愛いだろう。
うっとりするイノ母にイノ父は苦笑する。
「これで納得したか? あの二人に付け入る馬鹿は本当に馬鹿だということが。どっちに取り入っても無駄だ。あの二人の絆は誰よりも強いからな」
イノ父は誰よりナルトの男としての器を認めている大人である。
毎回イノや、奥方が喚くほどには心配していない。
ナルトの事は。
「うちのイノが惚れ抜いて尽くす相手だ。心配は要らん……昔の俺とお前みたいだしな」
ニヤリと笑ったイノ父にイノ母が頬を染める。

「……万年新婚バカップル」
熱々の両親に当てられ、部屋の中へ入るに入れない。
部屋の前で思案する下忍任務帰りのイノがいましたとさ。



 コンセプトは亭主関白で。ブラウザバックプリーズ