わたしの“美人な王子様”


 神様。
 わたし、ちょっと人には言えない“秘密”を持ってます。
 自分で望んだ秘め事だけど、やっぱり“秘密”っていうのは。
 時々ややこしい“悲劇”を招いてしまうもので。

 ごめんね、サクラ。
 アンタの好きなサスケ君に付き纏って。

 だって。だって!! 任務なんだもん〜!!

 山中 イノ。
 今年で9歳。

 海よりも深く山よりも高くここに懺悔しますっ。
 だから神様!わたしから“彼”を奪わないで下さい。
 ……神様なんてのがこの世にいるのなら。



アカデミー生。
くの一クラスの中でも上の実力を持つ、忍の卵。
山中 イノ。
彼女は大層機嫌が悪く眉間に皴を寄せつつソレを眺めていた。

「ふん……ドベが」
鼻でクラスメイトを笑う黒髪の少年と、黒髪の少年に食って掛かる金色の髪の少年。

 なにがドベよ。
 わたしのナルトにちょっかいかけてんじゃないわよ〜。

イノの眉間の皴が一ミリ深くなった。

「なんだよ、お前。ナルトばっかり責めたって仕方ないだろ?」
犬を頭に乗せた少年が黒髪の少年を睨む。
「そ、それより……早くしないと日が暮れちゃうよ」
おどおどした調子で、大人なしめの少女が進言すれば一同沈黙。
そう、この困ったアカデミー生達は演習場の森の中で絶望的な迷子に陥っていた。

金色の髪の少年の暴走で。

「……」
金色の髪の子供。
ナルトの蒼い瞳がイノの目線を捉える。
ごく自然に細められたナルトの瞳にイノは背筋を伸ばす。
「囲まれてるのね」
今まで沈黙を守っていたのが奇跡のよう。
イノは諦め口調で言い切ってナルトの傍に歩み寄る。
突然豹変したイノにナルトを除いた三人は唖然とした。

「俺とお前じゃ楽勝だけろう。ただ、相手の狙いは日向とうちは、それから犬塚の嫡子。どっかでまた仕入れてきたんだろ? 血継限界のハナシ」

スイッチが切り替わったかのようなナルトの静かな口調。
思わず隣に立っていた黒髪の少年・クールが売りのうちは サスケ。
間抜けた顔でナルトの横顔を眺める。

「ふ〜ん。毎回毎回懲りないのねぇ〜、他の里連中は」

 今度はドコの里からかしら?
 折角の潜伏任務を無駄にしてくれちゃって。
 記憶操作とかって面倒臭いし?

 それにナルトのこの笑顔!!

 アンタ達には拝ませたくなかったわ。

はぁ。幼馴染のため息癖。
真似てイノは息を吐き出した。

「仕方ねえんじゃねぇの? 立地条件がイイからな、ココは」
ナルトは薄く笑って複雑な印を片方ずつまったく互い違いに組む。
一見滅茶苦茶に印を組んでいるように見えるが、片手ずつ異なる術を発動でき、組み合わせることが出来るナルトオリジナル能力。
「さて、結界張っておくからオメーら出てくんじゃねーぞ」
「え、う、うん……」
気おされた感じでヒナタがおずおずとうなずいた。
「イノ、念の為お前がコイツらの警護」
顎先で結界の中に納まった三人を見やりナルトが指示を出す。
キバにサスケは完全に固まっていて当分こっちに戻ってきそうにはない。

 その方が都合良いんだけどね。

イノは、目の端でキバとサスケを観察して考えた。

「うん……」
一人で片付けるらしいナルトの言葉に思わず浮かぶ不満の表情。
見咎めたナルトが怪訝そうな顔でイノへ言葉をかける。
「なに不満そうな顔してんだよ」
仕方ないな。
そんな言葉が聞こえてくるかのように、柔らかい微笑を湛えるナルト(イノ限定)に、イノは頬をうっすら赤く染めた。
「だってさぁ。なんか不満です」

 ああ。
 笑顔一つで懐柔されちゃうあたしって、くの一失格?

 でもナルトにだけだもん。

 許されるよね。

考えなんておくびにも出さない。
まだ胸に燻る不満沢山です。
そんな顔をしながらもう心は決まっている。
なれた仕草で髪をかきあげ、ナルトの頬に唇を寄せ押し当てた。

「じゃあ十分で帰ってきてね。そうしたら今晩の夕飯ラーメンにするから」
上目遣いでナルトを見上げれば返ってくるのは薄い笑み。
静かに殺気を漂わせた、戦う状態にテンションを持ち上げたナルトの笑顔。
「了解、お姫様」
ナルトはイノのこめかみに口付けを落とし姿を消した。
イノには姿が遠ざかる様が見えたが、生憎アカデミー生である残り三人にはナルトが消えたようにしか見えなった。

「あ、あのね……イ、イノちゃん」
結界の中からヒナタがイノを見つめる。
「あたしはナルトのサポート役で将来の嫁よ。ナルトは上忍。しかも暗部レベルの実力者。色々複雑な事情があってアカデミーでの潜入任務の真っ最中」
ヒナタの目線を真っ直ぐ受け止め、イノは淡々と答えた。
心持ち胸を張って。
「悪いけど、今日の記憶は一時的に封印させてもらうわ。ナルトの正体は極秘なの」
躊躇いもなく言い放ったイノの言葉に、本日何度目かの衝撃を受けたキバとサスケ。
「イノ、お前……」
どれから質問すればいいか分からない。
そんな感じでキバはアワアワ目線を泳がせる。

「ふふ。気にしないで。時が来れば封印は解けるわ。
それに……今のうち注意しておくけど!

特にうちは サスケ! ナルトにヘンないちゃもんつけないでよね?
あたしのナルトなんだから。

ヒナタ、貴女とはライバルになりたくないけど……勝負ならいつでも受けてたつわ。
断っておくけど、あたし相当良い女よ。
ナルトの横に立つに相応しく日々磨いてるんだから。

キバ、ナルトを見下していられるのも後ちょっとよ。
せいぜい楽しんでなさい」

一気に喋り倒す肺活量は、なんだか凄い。
捲くし立てたイノの毒の篭った言葉。
ヒナタだけはちゃーんと理解して微笑を湛えた。

「うん。わ、わたしも頑張る」
ナルトを好きなヒナタ。
でもそのナルトは今日見たナルトとは違うナルト。
だったら最初から勝負になんかなりはしない。
ヒナタが本当のナルトを知っていたとしても。

それでもライバルだと。勝負を受けて立つといえるイノは。
良い女なのだろう。

「ちっ……」
普段無口な上にイノの豹変に実は一番驚いているうちは サスケ。
会話に割り込むタイミングを完全に逸して舌打ちした。







イノが大胆不敵に宣戦布告していた時刻。
空を切り森を移動しつつ、ナルトは影分身をサスケ達に変化させ敵をおびき寄せていた。
「……」
森に仕掛けてあった罠で怪我をしたナルト(影分身)。
と、それを取り囲んで騒がしく揉めに揉める子供達。
静けさが近づく夕闇の中、一際甲高い子供の声は良くとおる。

 気配は四つ。そのうち二つはアウトだ。

統率された動きを見せる四つの気配。
そのうち二つはナルトが仕掛けた罠に近づいていた。

バサバサバサバサッ。

不意に森から数羽の鳥が飛び立つ。

鳥の気配と同時に消えうせる気配は二つ。
次第に充満する血の匂い。
口角を持ち上げナルトは片手ずつの印を交互に組み合わせた。

一気に低下する大気中の気温と消える気配一つ。

眼下の子供達(ナルトが作り出した影分身達)は、周囲の変化にすら気付かずワイワイ騒いでいる。
近づく影は一つ。
ナルトは真下目掛けてクナイを投げ放った。

驚いた影が飛び退った瞬間、影分身が影の首を胴体から切り離す。
驚愕の顔のまま死体と成り果てた影は夕日を浴びて赤く染まる。

ナルトは無表情に印を組む。
すると死体は見る間に巨大な氷に包まれた。
残りの三つも同じく氷に包まれて永久の眠りについているだろう。

別の印を組み、ナルトの補助に当たっている特別上忍へ連絡をつける。
青い姿の小鳥が夕焼けをバックに里方面へと飛んでく。
「五分、二十六秒」
呟きとともにナルト・それから下で騒いでいた子供達の姿が消えた。







これ以上の醜態はないだろう。
白目を向き気絶中のクールなエリート、うちは サスケ。
流石にナルトもコメントしようがなく、呆然と眺めた。
「イノ?」
「記憶操作よ」
タンコブこさえて倒れたサスケを見下ろし、満面の笑みで応じるイノ。
笑顔がはっきり言って怖い。
有無を言わさぬ口調にナルトもそれ以上問いかけはしない。
元々サスケ達、血統書付きに興味自体がさほどないせいだ。

「十分で済ませてきたぜ?」
死体処理までの時間がなかったので、当然しわ寄せはナルトが呼びつけたパシリ(特別上忍)が行うのだが。
罪悪だとか、申し訳ないだとか。
愁傷な感情、ナルトは持ち合わせていない。

「じゃ、今日は特製ラーメンねv」
後は普通に気絶したヒナタとキバ+オマケ。
見下ろしイノはナルトの腕に自分の腕を絡ませた。

結界内に放置しておけばナルトのパシリ(特別上忍)兼、イノの師匠が引き取りに来るだろう。
生憎イノにも愁傷な感情は存在しなかった。

「一楽じゃねーの?」
探る口調でさり気なくナルトが問い直す。
「あたしのお手製ラーメンが嫌だって言うの?」
可愛らしく唇を突き出してイノは拗ねた。
「この間媚薬盛ったじゃねーかよ、俺のラーメンに」
特殊体質のナルトに薬は効き難い。

にも関わらず、イノは自分で調合した媚薬をナルトに盛ったのだ。
つい数日前に。
無論効きはしなかったが成分を聞いてナルトは身を凍らせたものだった。

「子は鎹(かすがい)って言うのよ、知らない?」
「知るか」
それでもイノの腕を振り払わずに、ナルトは移動を開始する。


見る者からすればラブラブチャクラを放出した、幼い、木の葉最強最悪のカップルは里へ帰還するのだった。



 うーん。ナルトで書くと殺伐としますね(笑)
 マイポイントは媚薬を堂々とナルトに盛るイノですv
 何故美人なのかというと、綺麗でカッコいいから(イノ視点)ブラウザバックプリーズ