乙女の悩みはかくも深く


イノは下忍任務の帰り。
運悪く第七班連中と遭遇した。

 あ〜、カカシのバカァ!!!! 喧嘩売ってんの!?

ナルトの行動を怪しみ出したカカシ。
表向きは惚けた調子ながら、ナルトとイノを注意深く観察している。

当のイノはしたくもないのに、サスケに抱きつき。
サクラに引き剥がされて内心深く安堵。

「イノブタ!! いい加減にしなさいよ、サスケ君だって迷惑してるじゃない」
サクラが目を丸くしてイノに突っかかる。

 そうよねぇ……わたしだってすっごく迷惑なんだよねぇ。
 何を好き好んでサスケなんかに抱きつかなきゃいけないのよ。
 しかも親友の想い人だし。
 てゆーか、カカシ。
 面白そうに見てないで止めなさいよ。……アスマも、だけど。

やっぱり胸の内だけでため息をつき、表情は妖艶な笑みを浮かべるイノ。
「あ〜ら、デコリーンちゃんだって本当は抱きつきたいんでしょう?」

 くいっ。

唇の端を持ち上げてサクラを挑発すれば、サクラはイノの腕を掴んで睨みつけてくる。

コレ幸いと二人のそばから離れるサスケ。
ついていけないナルト・チョウジ・シカマルは遠巻きに二人を見ていた。

「あ〜あぁ、メンドクセーのな」
気だるげに頭を掻きシカマルがその場にしゃがみ込む。
「今日は何分あーするんだろうね」
シカマルに倣って座り込み、チョウジが持参しているスナック菓子の袋を開ける。
「どうでもいーけど、任務終了報告が出せないってばよ。折角イルカせんせーにラーメン奢って貰おうと思ったのに」

 むぅ。

恋愛音痴丸出しの態度でナルトは口先を尖らせた。
表向きのドベを続けながらも、内心は噴火寸前である。

 なんだ、アレは。
 カカシもアスマも面白がって止めやしねぇ……。
 イビキ経由で薬でも調達して女の集まりにあいつ等を放り込むか。
 人のモノをジロジロ観察してるんじゃねぇよ。

不機嫌絶好調。
ブツブツ文句を言うナルトに、サスケは鼻で笑い。
シカマルとチョウジは「イルカ先生に集るなよ」なんて。
何時もの調子で突っ込んでいた。

その様子を見てナルトの怒りを理解してしまうのが、イノ。

 ああああ〜、やっぱり! やっぱり!
 ナルトが怒ってる。
 ……いい加減止めないと、カカシもアスマも使い物にならなくなる。
 いい気味だけど、三代目に怒られるのは嫌だし。

イノはニヤニヤ笑うカカシとアスマを殴りたい衝動に駆られるが。
まずはナルトを宥めるのが先とばかりに一計を案じた。

サクラと揉みあうフリをして木の陰にまで姿を隠す。
一瞬の隙を突き影分身を作り上げ、それはサクラと舌戦させ。
自分は変化して堂々と姿を見せる。

「あら、ナルト。どうしたの?」
腰まで届く美しい髪。
ポニーテールに結った髪を揺らしながら、姿を見せる妙齢な女性。
装束からして中忍以上。

カカシは女性の姿を確認し露骨に顔を顰め、アスマは美女の登場にタバコを落とした。

「蕾姉ちゃん!!!」
ナルトはパアァァと顔を輝かせ、素早く立ち上がると猛然とダッシュ。
蕾と呼んだ女性に抱きつく。

(あの馬鹿どもをなんとかしてぇ……一回三途の川でも拝ませてやりたいな)
蕾に抱きつきながらナルトは唇だけで愚痴を零し。
眉を顰めた。

(ハイハイ。怒る気持ちは分るけど、ナルトがしちゃ駄目。わたしが追い払うから、静かにしててね?)
ナルトの頭を撫でる仕草をしつつ、蕾は無音で返答を返す。

「お久しぶりです、はたけ上忍。任務が早く終わったので、ナルトと一緒に夕飯を食べようと探していたところだったんです」

 にこり。

愛想笑いを浮かべる蕾と歯軋りするカカシ。

七班にはお馴染みのくの一の登場に、サクラはイノとの口論を止め。
サスケも小馬鹿にした顔でカカシを見る。

「え? じゃ、じゃあ! 俺ってば、今日は蕾姉ちゃんと一緒に夕飯?」
ナルトの瞳が期待に輝く。
尻尾があったなら千切れんばかりに振っている、そんな風に。

「三代目から許可は頂いております。ナルトともまたすれ違う日が続きますので、今日は家族団欒という事で。お先に失礼いたします」
言外に「ナルトをつれて帰ります」宣言をし、ナルトと手を繋いで頭を下げる蕾。
カカシは手を伸ばしナルトを引きとめようとするが。
「じゃーなー! サクラちゃん! カカシ先生! それからサスケ」
妙に嬉しそうなナルトの分かれの挨拶にタイミングを逃す。

喜々として手を振るナルトに手を振り返し涙するカカシと。
呆れるサクラとサスケ。
突然の闖入者に呆気に取られるシカマルとチョウジ・イノ。

「すっげー別嬪だなぁ、あのくの一」
思わず率直な感想を洩らしたアスマに、シカマルだけが同意して頷く。
「わたしの方が綺麗よ」
イノの影分身はムッとした顔で呟き。
目に怒りの炎を宿すカカシに内心ほくそ笑む。


ナルトが帰ってしまったので、任務報告を済ませようと。
カカシもアスマも漸く重い腰を動かす。
そんなこんなでやーっと仕事を終わらせた彼等だった、のだが。


冷えた夜風に身を曝しながら、ナルトは腕中のイノを抱き締め一人剥れる。
真夜中の木の葉の里。
名も知らない民家の前の電柱上。
二人は座っていた。

「シカマルが感づいたかもしれない。アスマも純粋に興味を持った」
不服そうに呟くナルト。
実は蕾と帰ったフリをしてその場に留まり、彼等の発した言葉を全部聞いていたのだ。
「そりゃ、大人の女にならアスマだって興味を持つでしょう? シカマルはどういうつもりだか知らないけど」
ナルトがイノの首に顔を埋める。
くすぐったさに笑い声を立てながらイノが呑気に応じた。

イノの答が気に入らないのかナルトは憮然とした表情になる。

「イノは俺に危機感が足りないと言うけどな、お前の方こそ危機感が足りないじゃないか。自覚を持て」
はっきり言えなくて遠まわしな表現を使ってしまったけれど。

イノは普通にしてても良い女なのだ。
気の強そうな発言に騙されて気付かない男が殆どだが。
シカマルやアスマなんかはいつか気付くかもしれない。

イノが持つ強さと優しさに。
誰にもイノを譲れないと考えるナルトとしては、もう少しイノに警戒して欲しかった。

「大丈夫、大丈夫! 蕾がわたしの変化した姿だって、バレやしないわよ。ナルトったら心配性ねv」
「……」
微妙に勘違いしたイノの返答に不安を覚えるナルト。
だが生来の気質が災いして、口が裂けても言えない。

「女のフェロモンを無駄に振りまくな、俺だけに振りまけ」と。

 はぁ〜、ナルトったら。蕾バージョンのわたしに会う度の、あの笑顔。
 止めて欲しいのよねぇ。
 カカシが喜ぶし、サスケは顔を赤くするし。
 今日なんかシカマルに目撃されちゃったじゃないのぉ〜!!


そんなナルトの思惑も知らず、イノもイノで深く不安を覚えているのだった。



 どっちもどっちなのさ〜。ブラウザバックプリーズ