お見舞いは甘い……?


中忍試験も波乱のうちに終わり、ナルトとイノの懸案事項。
という程、のものでもないが克服しなければならない小さな問題がひとつ。

二人は山中花店二階、イノの部屋にて額を着き合わせ密談中である。

「わたしは普通に花で良いんじゃないかって思うけど? サクラだって中忍試験の前に花を持って行ってたし」
テーブルに出した『お友達への正しいお見舞い・忍編』を捲り、イノが上目遣いにナルトを見た。
ナルトは顔色を変えず首を一度だけ横に振る。
「無難だが、あいつは里の忍ですら治療不可能と言われた重傷を負っているんだぞ? それなりに気遣ってやらないとな……」
イノの不安を少しでも解消できる人間が減った。
これはナルトにとって由々しき事態であり、即刻解決すべき問題でもある。

重傷を負いながらイノの絶え間ない愚痴を聞かされている、努力馬鹿。

 この間はイノの愚痴を聞きながら魂を半分飛ばし薄っすら笑っていたっけ。

三代目が亡くなり、大蛇丸があからさまにナルトを狙うご時世。
イノのストレスは溜まりに溜まり。
矛先は事情を知る少年へと一直線。
余談だが某パシリは里の復興に忙しく不在がちであった。

「そうね……わたしやナルトとは違った意味で、忍になりたがってた。我愛羅と戦わなければ、あのタイミングで戦わなければ。特別上忍位にはなれたのにね」
イノは寂しそうに呟きもう一枚ページを捲る。

必要に迫られて忍となった自分達とは事情が違う普通の忍。
彼が忍として絶望という事は。

 誰がわたしの悩みを汲んでくれるのよ〜!!!
 神様のバカバカバカ!!!

なんていう、イノの更なる怒りを生み出すことに成功している。
しかもその原因が我愛羅で、大本が大蛇丸の甘言に乗った砂の里なので、イノの怒りは高まるばかりだ。

「チョウジの時は果物だったな。……気持ち的な問題だが、身体の調子が少しでも良くなる様なモノを見舞いの品にしよう」

イノには笑っていて欲しい。
自分の事絡みで怒ってくれるイノの態度は嬉しい。

矛盾しているがナルトの偽らざる本音。

でも混乱期の里で冷静さを失う事がどれだけ危険かも知っている。
だからこそナルトは彼の回復を気にかけていた。
イノの為に。

「それが良いかもねv ナルト」
形あるモノを残し、誰かに疑われるのは宜しくない。
判断したナルトの提案に疑問を抱かずイノが賛成し、二人は仲良くカタログを捲る。

「あああああ……可愛いわv ナルト君もうちのイノも」
「母さん、覗きは駄目だ」
天井裏、普通にお茶でも持っていくフリをして顔出せば良いのに。
イノ母、天井裏から下を眺めてピンクのチャクラを飛ばす。

昔取った杵柄。
くの一の血(?)が騒ぐらしい。
そんなイノ母を天井裏から引っぺがし、イノ父は嗜めながら大きく息を吐き出した。







真夜中。
良い子はぐっすり睡眠中の時間。

無理矢理揺すられ、起こされ。
呆然とする少年の前に並ぶ得体の知れない物体。
得体が知れない、というよりかは。

「見舞いの品だ」
ポーカーフェイス・鉄面皮。
崩さず、感情も篭っていない声音で事実だけを告げるナルトは、暗闇の病室も相俟って迫力満点。
少年は思わず唾を飲み込んだ。

「……少しでもリーが元気になればって。ナルトと二人で選んできたのv 材料は極上だから安心してね♪」
同じく、瞳に『拒否したらどうなるか分かってるんでしょーね?』なんて脅しが浮き出ているイノの笑顔+台詞。

背筋を駆け抜ける悪寒に、少年・リーは顔を引き攣らせながらも「有難う御座います」と。
ガイが見たらガッツあるリーの言動に感涙して叫ぶであろう行動を持って応じた。

「シカマルの家が管理する鹿の角も入ってるのよ〜。あ、ちゃーんと分からないように盗んできたから大丈夫。シカマルの小父さん案外面倒臭がりだし」
イノがブイサインをした瞬間、思わずリーは手の中の紙に包まれた粉薬を取り落としかけた。

落としたら落としたで、ナルトとイノからステレオ口撃を貰うだけなので動かない筋肉を根性で動かし、悲劇を回避する。

「シカマルに似てるよな、あの性格。年食ってる分だけ侮れないが」
「あはははは、そうだね」
腕組みしてしみじみ喋ったナルトに、イノが笑いながら同意する。
「それって、窃盗では……?」
手に持たされた粉薬を持って固まるリーの、命を掛けた問いかけ。
「この混乱期に里の備品を持ち出すのは色々難しい。三代目が存命していれば多少の融通は利いただろうが……。今は非常事態だ」
ナルトはドキッパリ言い切った。

上擦った声音のリーに対し、当人は悪びれる様子は微塵も無い。
イノもナルトと同じ意見しく、リーに早く粉薬を飲むよう促す始末だ。

「大丈夫よ、人体実験は済んでるから」
リーの躊躇いを別の意味で解釈したのか、戸惑うリーにイノが爆弾発言をかます。
覚悟を決めて粉薬を口に落とそうとしたリーは動きを止めた。
「ああ、医療忍の一人が快く実験に応じてくれたからな」
ナルトはイノに頷き返し真顔で再度リーへ薬を勧める。

快く、かは不明だが。
ナルトの依頼を喜々として受け入れた大蛇丸の手によって、今一番『おーじんじ』に近い忍が実験台となった。
リーの怪我に一番効果がある薬になるよう、木の葉外れの小屋に軟禁し睡眠時間も与えず、薬を作らせたのがつい二日前。

「しかも秋道家秘蔵の朝鮮人参までブレンドされてるから!! わたしとナルトじゃ知識が無いから、ナルトの知り合いの医療忍が調合もしてくれたの」

更にイノがナルトに託した秋道家の秘蔵の品を調合させようとしたのは、薬の成分がほぼ固まってからで。
哀れな医療忍は再度薬を調合し、屍状態で薬を作り上げナルトへ届けたのが今朝。

それら全てを感じさせず概要だけをリーへ説明するこの二人。
ある意味傍迷惑である。

「ナルト君、イノさん……僕の為にそこまで……」

秋道家秘蔵という事は矢張り窃盗……なのだろうが、危険を冒してまで自分の為に働いてくれた二人をリーが咎められようか?
否、咎められまい。

胸をほこほこにさせちょっぴり涙ぐむリーに優しく水入りのコップを持たせるイノ。

「まぁ、ガイもリーに差し入れしてるんだろうけど。それだけじゃぁ、不安でしょう?」
薬を飲み終わったリーへイノが晴れ晴れとした笑顔つきで切り出す。
「ガイ先生は親切ですよ? もうすぐ退院も出来ます……リハビリの目処は立ってないですけど」
リーが小首を傾げ、キョトンとした顔でイノとナルトを見遣った。

「もしかしたら、リーは何度か手術を受けなくてはならないかもしれない。基礎体力は大事だ。手術があると仮定して基礎体力を高めておいた方が良い」

これ以上深く考えるな。
イノを悲しませるな。

ナルトの冷たさを含んだ瞳が雄弁に語る。

リーはこの二人の好意だけを受け取る事にして、内心両手を合わせ奈良家と秋道家の方々に謝罪。
ついでに草葉の影の三代目にも頭を下げ、有難く残りの粉薬も頂く事にした。

尤も、拒否するという選択肢はリー少年に残されてはいなかったのだけれど。

「有意義な見舞いだったな」
目的を果たせ、少々満足気味にナルトが言い背後の木の葉病院を顧みる。
「ほーんとっv リーも嬉しそうだったし、良い事したよね〜v わたし達」
イノはホクホク顔でナルトと手を繋ぎはしゃぐ。

結果的には基礎体力が付き、無事綱手の手術を乗り越えるリーなのだが。

矢張り盗品の薬とは心苦しかったようで、精神的疲労から退院が延びたのはココだけの話である。



 お見舞いネタ!! やっと書けました。これは三代目が逝去した後のお見舞い。
 怪我直後もお見舞いに行ってましたがネタにする材料が無かったので(笑)
 結果、リーは甘い二人の雰囲気と脅しをお見舞いに貰ったので。
 甘い? と、タイトルがなっているのです。ブラウザバックプリーズ