お土産の効果
両腕を押さえ呻く大蛇丸を見下ろし内心では『いい様(ザマ)だ』なんてカブトは考える。
光と闇を内包した凄腕忍者(美形←ここが大きなポイント)、うずまきナルト(大蛇丸談)を手に入れるためこき使われた日々が報われた気分だ。
「早く新しい器を用意しなければなりませんね」
椅子に座って悶絶する大蛇丸の傍らでカブトはこの上ない平静を保っている。
これで暫く大蛇丸様もナルト君の勧誘に動かないだろう。
等と算段をつけ『平和って有り難いな』と一人表情を緩ませる。
「ぐっ……三代目の封印術がここまでわたしを苦しめるなんて……」
部屋は暗いし腕は痛い。
非常事態で腹心の部下の表情までは気が回らない。
大蛇丸は腕から肩へ到達しようとしている三代目の土産に顔を曇らせた。
「……四人衆を木の葉に向かわせます。この混乱期ならば容易く侵入できるでしょう」
サスケを勧誘するだけなら、子供のお使い以下の任務ですけどね。
大蛇丸の反応が恐ろしいので黙っておくが。
カブトは心の中だけで四人衆の冥福を密かに祈るのだった。
その数時間後。
ナルトの実力を甘く見すぎていた四人衆は、ナルト自身に致命傷を負わされ文字通り虫の息で倒れこんでいた。
自分達を大蛇丸直属の部下=エリートと信じて疑わない四人衆。
呪印すらないナルトの底力を浅く測っていたのだ。
誤算というより命知らずな面々である。
「もう一度聞くが、なんだって?」
瀕死の重傷を負った四人衆を見下ろし、絶対零度の冷たさを纏った鬼が口を開く。
カブトからナルトは大蛇丸に並ぶ実力者だとは聞いた。
聞くには聞いたが、腐っても四人衆、血の気の多い過信過多の忍である。
どうせなら噂の『ナルト君』とやらの実力を試してみようと悪魔の囁きに負けたのが運の尽き。
逆にナルトに殺されかかっている現実が目の前に転がっていた。
「……ぜよ」
息も絶え絶えに鬼童丸が何かを呟くも。
ナルトは綺麗に聞き流して鬼童丸の腕一本を足先で踏みつける。
鈍い音がして鬼童丸の体が陸に上がった魚のように痙攣した。
「わ、我々は……」
怯えきった眼差しをナルトへ向け次郎坊が口を開くも。
「サスケならくれてやると前に言った筈だ。何故俺に言いがかりをつけてくる」
淡々とこれまでの事実だけを突きつけられ反論できずに終わる。
絶対零度の眼差しは己の上司よりも鋭利で冷たい。
他者を一切受け付けない鋼鉄の壁がナルトに重なる。
難攻不落の逸材。
大蛇丸の腹心・丸眼鏡があれだけ疲労困憊していた理由が最悪なタイミングで分ってしまった四人衆だ。
「それとも死にたいのか? お前等」
新手の自殺願望者か?
イノが以前呟いていた
『あの医療忍者って本当に大蛇丸の腹心なの? その割にいっつもフラフラしてて、今にも過労死しそうじゃない?』
の台詞を思い出しナルトは考えを改めてみる。
大蛇丸の処が嫌で逃げ出して、でも彼から逃れるには実力が足りないから手っ取り早く死のうとした……?
しかしながらナルトを襲ってきたときは随分と威勢が良かったので、確立は低い。
死体を四つ処理するのは面倒だ。
考え始めたナルトと本当にご臨終しそうな四人衆の均衡を破ったのはイビキである。
「やれやれ。音も懲りないな」
云って暗部装束に身を包んだイビキが舞い降りてきた。
絶対零度に近いチャクラを発するナルトの傍へ寸分違わず着地する。
「懲りないっていうかアレね」
イビキと共に暗部服に身を包んだ蕾バージョンのイノも降りてくる。
味方二人の到着に一先ずナルトは殺気立ったチャクラだけは引っ込めた。
「小蝿より性質が悪い。矢張りあの蛇は殺しておくべきだった」
うんざりした態度を隠しもせずナルトが吐き捨てる。
「仕方ないじゃない。今は里の復興が優先されるんだから」
イノはナルトの頭を撫でて彼の気分を落ち着かせるべく宥めた。
ここで大きなチャクラ反応が出てしまうと、木の葉の警護をして居る他の忍に自分達の存在を気づかれてしまう。
ナルトの実力はまだ隠しておくって、五代目とも確約してるんだからっ。
日々、日陰にナルトを魔手から守っているイノだ。
ナルトの存在を隠蔽する為には手段選ばす。
幸せな未来目指して驀進中である。
四人衆全員、虫の息ながらまだ死んじゃいない。
互いに視線を交差させ比重的に軽い任務(サスケの音勧誘)をこなせる様、この状況から生還する為の必殺アイテムの導入を決める。
「み、土産です……」
ただでさえ白い顔が出血して土気色に変化している左近。
懐から万が一を考えたカブトから託された球根を取り出した。
途端に蕾(イノ)の片眉が持ち上がる。
つられるようにしてナルトも顎に手を当て球根を凝視した。
「珍しい球根だな」
イビキも左近の取り出した球根を眺め素直な感想を零す。
「め、珍しいなんてものじゃないわ。これは木の葉や火の国には自生しないユリ科の植物の球根よ……。花は愛好家の間では珍重されているし、根も葉も毒成分を含んでいて役に立つわ」
蕾(イノ)が上擦った声音で球根の解説を始める。
「小父さんの所の図鑑で見たな、確か」
隣でナルトも真顔で言い切る。
「薬師カブトより……普段の非礼を詫びを含めた……球根で……大蛇丸様の……関与はありません」
球根一個で態度を軟化させたナルトに対して左近は懸命に球根の出所を説明する。
己の命がかかっているとなれば、誰でも極限まで頑張れるのかも知れない。
「ああ、あの医療の?」
虫の息の四人衆を前に哀れみの気持ちは浮かぶ由もなく。
イノは手をポンと打って一人納得した表情で頷いた。
言われてみれば『そんなの』も居た。
なんて風に。
「あいつか」
ナルトもナルトで、実はうろ覚えのカブトの顔を脳裏に浮かべたりして。
四人衆を許そうという雰囲気は見受けられない。
もう駄目なのか? ここまでなのか?
それより何よりどうして上司はこんな危ないの(九尾のガキ)を欲しがっているんだ??
左近はブルブル震える腕で球根を掲げ続けながらかなりの現実逃避を試みる。
「ならこの球根で今回の件は不問とする。だが忘れるな。俺の周りでウロチョロしてみろ。言い訳を聞かずに今度は潰す」
球根をそっと左近の掌から取り上げ、ナルトはきっちり釘を刺した。
「うちはの末裔の勧誘ならご自由にね〜、こっちも大義名分が出来て始末しやすくなるから。貴方達を」
淡いベージュ色に彩られた唇から零れるのは不穏な台詞ばかり。
外見は細身の美女なのに只ならぬ空気を持つ事、ナルトが嫌がらない事を考慮してもかなりの手強れなのだろう。
謎のくの一の正体に検討をつけつつ、左近は腕を地面に投げ出し浅い呼吸を繰り返す。
「今回は死体処理が面倒だから助けてあげるけど、二度はないわよ?」
連れて行くなら、あの阿呆だけにしなさいよね?
妖艶に微笑み掌仙術を四人へ施すイノの背後で重々しくイビキが頷き、ナルトは目を細める。
首の皮一枚で命を繋いだ四人衆は深く丸眼鏡に同情すると同時に、キワモノばかり欲しがる上司を恨めしく思うのだった。
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