越える原動力


ナルトは欠伸をかみ殺す。
そして今日は厄日というものなのだろうか、真剣に考える。

そもそも昨夜から何もかもが悪かった。
ナルトに運勢というモノが存在するなら。

昨日の任務(夜)は思ったより長引いた。
しかも、朝になってイノと二人してほのぼのと朝食を囲んでいたら邪魔された。

バカ(サスケ)がバカをやらかしたらしい。

別段、追いかけてやる義理も何も無いが、イノに火影になると約束したナルトである。
忍としての評価を落とさない為、致し方なくシカマル隊に参加してやった、のであった。

「さて……どんな風に殺してやろう?」
得意げに変態(大蛇丸)の部下だと名乗った新顔が、ナルトの実力を知らずに言った。
音の四人衆が聞いていたなら、それこそ我先に逃げ出しただろう。
誰だって命は惜しい。
敵わぬ相手(ナルト)に牙を剥くほど音の四人衆だって馬鹿じゃない。

 それはこっちの台詞だ

ナルトは言いかけたが、面倒なので止めた。

サスケは表向きイノが憧れる男の子。
そのサスケが自分の意思で里を去る。
変態にくれてやっても良し。
ドサクサに紛れて……しても良い。
どちらに転んでもナルトの懐は痛まない。

こう考えたナルトはドベナルトを演じこととした。
案の定、調子に乗った新顔、君麻呂はナルトを攻撃し始める。

「クククク」
樽が割れた。
バカが笑った。
そして逃走した。
心なしか、殺る気の顔をしたナルトを見るなり全力疾走を始めた気がする。

 面倒だ。
 矢張りバカは早めに始末しよう。
 変態には悪いが、イノのために害虫(サスケ)は始末しなければならない。

ナルトは考えを纏めるとさっさと君麻呂を半死の状態へおいやった。
時間にして五秒で。

「さて、バカを」
言いかけたナルトの前に暗部スタイルの女性が現れた。
シカマル隊が出発してからずっと影のフォローに徹してきた蕾バージョンのイノである。

「駄目よ、ナルト。勝手に予定外の行動とらないで。チョウジとネジはシズネさんに預けてきたし。キバとシカマルのフォローは五代目の隠し玉が入るんだし」
「しかしこれは好機だ。あのバカ(サスケ)を堂々と始末できる。変態も少しは静かになるかもしれない」
蕾(イノ)にナルトは真顔で提案した。
「うーん。確かに好機かもしれないけど、あの子(サクラ)の事とか考えると、やっぱり、あんなの(サスケ)でも生きていた方がいいのかも。とは思うの」
思案する調子の声で蕾(イノ)は答える。
ナルトの謂わんとする部分をきっちり理解しての見事な反論だ。
ちなみに、程よく半殺し状態の君麻呂はしっかり無視されている。
否、ナルトと蕾(イノ)の視野には入っていない。

「変態を静かにしたいのなら、逆にアレを与えておけば良いじゃない? 少しはこっちに来る回数とか減るかもしれないわ。あ、邪魔だったから音の四人衆はこれを機会に潰すけど。それだけでも変態には打撃になるわよ……少しは」
少なくとも体制の立て直しはする筈だ。
蕾(イノ)は、微妙にやる気を起したナルトを諌める為に釘を刺した。

この勢いでナルトにサスケを倒されても、ナルト自身の立場が危うい側に傾くだけ。
ナルトの本性を明かすには時期が早すぎる。

事情を知らされていない君麻呂には、何がなんだかさっぱり理解できなかったが、二つだけは正しく理解できた。
目の前のナルトが『本来』のナルトである。
また、『ナルト』と『くの一』は恐らく只者じゃない。という事を。

「そういうのも居たか?」
「ほら、少し前に珍しい球根をくれた四人よ。音の里では結構強い方なんですって」
頭には沢山の疑問符が浮かんでいるのだろう。
蕾(イノ)は、不思議がるナルトに理解できるよう四人組の説明をする。
「ああ。一人当たり二分でのしたあいつ等か」
ナルトは無表情のまま大きく一回頷いてみせる。
「そうそう。あの時の四人組よ。それから、あまり言いたくないけど、アレに最後の説得はすべきだと思うの。綱手様の顔も立てなきゃ悪いでしょう? 心配しないで? これ(君麻呂)の相手はわたしがするから」
任務は任務。眼差しだけでナルトに告げる。

ナルトは一瞬呆れた表情を浮かべるも、蕾(イノ)の意見に反意を示さず肩を竦めた。
蕾(イノ)はナルトの了解を得て、立ち上がりかけた君麻呂へ、目にも留まらぬ速さの回し蹴りを放つ。

「……くっ……」
リー直伝の回し蹴りは君麻呂を吹き飛ばした。
「甘いわよ? ホネホネ君」
クスクス笑いながら蕾(イノ)が君麻呂を挑発する。

安い挑発だが時間がない君麻呂にとっては屈辱的なものだろう。
格下が実力を隠して自分の様子を伺い、自分の力を知った途端に尾尻を見せたのだ。
舐められてるとしか思えない。
(実際、ナルトと蕾は君麻呂なんざ敵としての数には入れちゃいないのだが)

「いや、君麻呂というらしい」
律儀に訂正しているナルトもナルトだ。
「あ、そうなの」なんて頷き返す蕾(イノ)も蕾(イノ)だが。

渋るナルトの尻を叩きサスケを追わせる。

そして目を吊り上げる君麻呂の骨攻撃を敢えてギリギリに避けながら、蕾(イノ)はどうしたものかと考えた。
君麻呂はどこぞの酔っ払いの様だ。
「大蛇丸様がどうたらこうたら」等と持論を展開しながら、如何に『大蛇丸様が偉大か』を蕾(イノ)に講釈している。
君麻呂を倒す事は容易い。
けれど綱手が救援を送るとも言っていたので、果たして自分が何処まで介入して良いものか。

つらつら思案しつつ攻撃を交わす蕾(イノ)の視界を見慣れた『緑色』が横切った。
「蘇りしは木の葉の青き……」
「はい、邪魔
ポーズを決めるリーを回し蹴りして真横に吹き飛ばし、蕾(イノ)は一言で切り捨てた。

「な、い……蕾さん!! 酷いじゃないですかっ」
危うく『イノさん』と呼びそうになり訂正して。リーは上半身を起し側頭部を手で押さえる。

痛みに呻くリーを見ず、蕾(イノ)は沸き上がる怒りの衝動を抑える事が出来なかった。
君麻呂の講釈は蕾(イノ)にとって不愉快以外のなにものでもなかったのだ。

「あー!!!! もうっ!!! ほんとーにっ、どいつもこいつもっ」
構えたまま唐突に怒鳴った蕾(イノ)にリーがビクリと身体を揺らす。
先ほどから君麻呂の言動を見ていればどうだ?
孤独と異能に耐え切れず大蛇丸の甘言に浸り、現実を直視できなかった殺人鬼の戯言ばかりではないか。

 冗談でしょう?
 サスケは仕方ないにしても、ナルトがそんな簡単に闇に染まるわけ無いじゃない。
 たとえ闇に染まっても何度でも。わたしが染め直してやるわよっ!!
 山中花店色にね!!

「存在意義だとか、宿命だとか。御託は良いのよ。もう聞き飽きたわ」
クナイの刃先を君麻呂に向け蕾(イノ)は地を這う低い声音で言った。
どうして男ってのは色々な事象を『仕方ない』だとか『運命だった』だとかで片付けるのだろう。
女である自分には男の考えるところの『存在意義』を完全に分ってない。けれど。

「わたしが欲しいのは唯一つ。共に過ごす時間。死んで花咲く命なんて一つもないのよ。孤独に耐え切れず闇に溺れた貴方には一生分らないでしょうけどね? 分からせるつもりもないけれど。これ以上お前達の暴走でわたしの知人達を傷つける事は許さないわ」
蕾(イノ)は耐え切れずつい本音で言い返した。

彼女にしては珍しく、格下の敵相手に『マジギレ』したのだ。
熱くなる自分が存在する反面、冷静な自分もいる。
冷静な自分が囁く。
遠くに気配がするのは、あの子。
ナルトに似ているけど、ナルトよりは普通に育った修羅の子供。
彼に任せておけば大丈夫だろう。

「綺麗事を」
君麻呂は醒めた表情で蕾(イノ)の主張を否定した。

「綺麗事で結構、肯定して欲しい訳じゃないわ。わたしはわたしが信じる行動を取る。あの強固な壁(ナルトの頑固)を突き破る原動力を持った、わたしに勝てるなんて考えないで頂戴。特別な血統如きに折れるわたしじゃないわ」
それに貴方の相手はあっちよ。
付け加えて蕾(イノ)は嫣然と微笑む。

さっと横に飛び、君麻呂と間合いを空けた間に、修羅の子供が気配を殺したまま着地する。

「……借りを返しにきた」
背に瓢箪を背負った子供の台詞に、蕾(イノ)は姿を消す事で応じたのだった。



 一番書きたかったのは、リーを邪魔と言い捨てるイノ(笑)
 それからやっぱり邪魔だから、この機にサスケを……と考えるナルト(笑)
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