新たな敵(カモ)


第44演習場。通称死の森。
中忍選抜試験第二の試験。
サバイバル。

カカシ上忍担当の第七班は森の中を彷徨い、ソレと遭遇した。
「……うわっ。ウッザ」
露骨に嫌な顔をしてナルトがその草忍を見やる。
「知り合いか?」
馬鹿正直にサスケがナルトに問いかける。

すう、細まるナルトの瞳に射抜かれてサスケはかきたくもない冷や汗をかいた。
演習場に入った瞬間、サスケは封印されていた数々の記憶を解かれナルトの協力者(サスケだって命は惜しい)として、サクラの目を誤魔化すように頼まれ(脅され)ている。

「あのさー、アンタ、草忍じゃないだろ? そのチャクラも下忍並みじゃないし。あんまり聞きたくないけど、目的は?」
醒めた態度と口調でナルトは不敵に微笑む草忍へ声をかける。
「まずは自分から名前を名乗ったらどうかしら?」
草忍は唇を歪ませニイと笑う。
サスケなんか鳥肌モノで顔面蒼白。
ナルトと草忍が放つ殺気だったチャクラに当てられ気絶寸前だ。
「俺? 俺はナルト。あっちはサスケ」
「九尾のガキとうちはの末裔って訳ね?」
知っているだろうに、小さな皮肉を織り交ぜて草忍はナルトへ言葉を返した。

ナルトの瞳の奥が怪しく揺らめく。
隣でナルトの目が変化する様を見ていたサスケは、自分の運のなさを心の底から恨んだ。

「アンタは大蛇丸、かな? 確か? 最近音の里を起こした伝説の三忍の成れの果て、だったよな」
嘲る様にナルトは薄っすら微笑を湛え草忍を見下ろす。

ビシイィ。

音がしたかと錯覚するくらい。
草忍の顔が笑顔を浮かべたまま固まる。

「あら知っていたの? 光栄だわ」
「知ってるも何も。四代目になれなかったからって駄々捏ねて、人体実験しまくった挙句に里抜けて。ガキじゃねーんだから馬鹿やってんなよな? って感じ」
ため息混じりにナルトが口を開けば、草忍……大蛇丸の額に青筋が浮かび上がる。

サスケは表情こそ崩していなかったが、俺の人生短かったな。
とかなんとか考えていた。

「木の葉崩したいんだろ? ま、崩したきゃ崩せよ。そんな事より約束しろ」
ナルトが剣呑な瞳を大蛇丸へ向ける。
「何を?」
「花屋は残しておけ」
真顔のままナルトは言い放った。
「……」
サスケはあいた口が塞がらない。

アワアワと、一人で混乱というか。
呆然とナルトの横顔を凝視する。

ナルトは何処吹く風。
飄々とした態度を崩さず不思議顔の大蛇丸を観察していた。

「花屋……?」
「ああ、俺は将来花屋になるんだ。だから将来の家を壊されると厄介だろ? どーせアンタが見せ付けたいのは音の里の力。
木の葉の忍を追い詰めたいんだろ? 俺には関係ないしな。勝手にやってくれ、俺に迷惑がかからない範囲で」

平然と常識から約数キロは離れた発言をかますナルトに。

サスケは眩暈を感じて頭を抱えた。
そしてこの場にサクラが居なくて(ナルトの暗示で睡眠中)よかったと。
仲間を案じて心の中で涙する。

「花屋くらいいいでしょう」
思案した後、大蛇丸はアッサリ承諾した。
その言葉にもサスケは愕然とする。

「目的はそう、君が言った通り一つは木の葉崩しよ。もう一つは木の葉崩しにあたり、優秀な人材を木の葉から引き抜くこと。どう? 音に来ない? 君は見込みがあるわ」
「や、俺は火影にならなきゃいけないしさ。面倒だけど。アンタとはきっと打ち解けられないし。だからコイツをやるよ」

 ぐっ。

サスケを自分の前に押し出し、ナルトは大蛇丸の誘いを即行で断った。

「いらないわ」
大蛇丸も即答である。

「うちはの末裔だぞ? 写輪眼の持ち主だし、復讐マニアだ。力を誰より求めてる。戦力になるだろ?」
サスケの意志はきっぱり無視。
逆にナルトはサスケを大蛇丸へ売り込み始める。

「確かに。見込みはあるわね。でも私が欲しいのは君。
その底知れない闇の深さと、かろうじて光側に精神を置いているアンバランス加減がいいの。深遠の闇に引きずり込んでみたくなるわ」
舌なめずりをした大蛇丸。
嘗め回すような大蛇丸の視線とナルトの視線が交差する。

威圧的な二人のチャクラが場を支配し、影響を受けた数キロ先の下忍達は軒並み気絶。
獰猛な動物さえ尾尻を巻いて二人のチャクラから逃げ出す始末だ。

ナルトはサスケを横へ張り倒し、すぐさま術をしかける。
火遁と火遁。
ダブルで掛け合わせ高温と化した炎の渦を大蛇丸へ差し向けた。
大蛇丸は冷静に風遁の術を使い炎の矛先を両脇へ分散させる。
森が、瞬く間に炎に包まれた。

「……ふふふ、いい目をしてる」
赤い炎に照らされた蒼い、ナルトの感情の消え失せたほの暗い蒼い瞳。
愉しそうに微笑み大蛇丸は感嘆の吐息を漏らす。

ナルトが一旦瞳を閉じそれから見開く。
赤い、見る者に畏怖を与える赤き禍々しき瞳。
微かに息を呑んだ大蛇丸を見下ろし、ナルトは口角を緩やかに持ち上げた。

「遊びはコレ位にしておけ。俺の逆鱗を突かないうちにさっさと失せろ」
ナルトを取り囲むように吹き上がる九尾のチャクラ。

圧倒的な差。
見せ付けてナルトが一歩を踏み出す。
ナルトのチャクラに耐え切れず、足場となっている巨木の枝が崩壊した。

「仕方ないわね。今回は引くわ……でも、諦めたわけじゃないの。忘れないでおいてね、ナルト君」
しおらしい態度で帰る。
と見せかけて、大蛇丸が首を伸ばしナルトの首を狙う。

ナルトは大蛇丸の行動を予測していて事もあろうにサスケを盾にした。

「「……」」
唖然とする大蛇丸と、ニヤリと哂うナルト。
あんまりな扱いに魂を飛ばしているサスケ。

「サスケは力が欲しい。そのうち、アンタの力さえも取り込んで。もっと強くなるだろう。せいぜい寝首をかかれないように気をつけるんだな」
冷笑を顔に浮かべたまま、ぐったりしたサスケを抱え。
ナルトは姿を消す。

その後、燃えさかる森に雨雲が現れ大量の雨が振った。(ナルトが水遁の術で呼んだ水である)



「ふふふ、欲しい。欲しいわっ! ナルト君」
「……はぁ」
(また始った、大蛇丸様の『欲しい病』が)
妙に気合の入った大蛇丸と、なんだか疲れた顔の腹心カブトの姿がその後の死の森にありました、とさ。



 何故花屋に拘るのかはお分かりですね?(爆笑)被害者はサスケ。
 新たな敵はイノにとって。
 カモってのはナルトにとって(八つ当たり出来るから)という意味でのタイトルです。
 ブラウザバックプリーズ