赤信号


三代目の『命令』で仕方なく、中忍試験の第三の試験。
本選まで伝説の三忍の一人、自来也と修業をすることになったナルト。

そんなナルトをイノが放置するわけもなく。
修行場の温泉場に手料理持参し、陣中見舞い。
ナルトの嫁を豪語するだけあってイノの行動には卒がない。

ナルトの為を想って第三の試験予備選でダブルノックアウトを狙ったのだ。

 こうでもしないとナルトが心配するもんv
 当分はわたしも下忍でいてあげないとねv

そんなこんなでやって来たイノ。
予想されるべき展開はしっかりナルトの眼前で繰り広げられていた。

「ナルトの許婚ですv」とかなんとか。
言ってお重を差し出したイノをスケベ目線丸出しで魅入る自来也。

当然不機嫌通り越して、自来也に殺気混じりのチャクラを送るナルト。
なんとも奇妙な空間の出来上がり。

「……」
じーっと。
自来也は穴が開きそうな勢いでイノを見続ける。
「あの?」
自来也の意図が分からず愛想笑いを浮かべたまま、イノは小首を傾(かたむ)けた。
「うむ」
一人会得して、自来也はイノへ手を伸ばそうとして。
ナルトが繰り出す素早く威力のある蹴りにより倒された。
「邪な視線を送るな」
ナルトは額に青筋を浮かべ自来也へ怒った。
「安心しろ。お子様趣味は……」
口を開きかける自来也の台詞に、チャクラを一層尖ったものにしナルトが再度張り倒す。

「いいか、イノ。コレには極力関わるな。お前が穢れる」
片足をしっかり自来也の背中に乗せ。
ナルトは真顔でイノへ告げる。
「穢れるって」
珍しくナルトの剣幕に押されイノは口篭り。
ナルトの発した言葉を反芻した。

イノの戸惑いを察しつつもナルトは慣れたイノの体温を。
手を握り、体温を確かめ小さく息を吐き出して告げる。

「下忍同期のあいつ等ならイノの方が強いしな。心配はしていない。だがコレは曲がりなりにも伝説の三忍だ」
ぐりぐり爪先で自来也の背中を攻撃しつつ。
ナルトは淡々と語る。

淡々とした語り口なのに妙に真剣で熱っぽく喋る。
いつもならイノがするのに今日は反対。
手を握られたまま不謹慎ながらイノは一人ドキドキしていた。
ナルトの綺麗な顔と瞳がイノだけを写しているこの状況に。

「でも」
ナルトからの熱い視線。
全身で感じてイノは取り合えず反論の言葉を口にしてみた。
「女湯覗いて開き直ったオープンスケベだぞ」
即行で返されるナルトの台詞にイノは表情を凍らせる。

ナルトの爪先攻撃に呻く自来也へ目線を落し。
またナルトの瞳に視線を合わせる。
切羽詰ったナルトの様子からして言葉は本当。

「分かった、帰る」

自来也様への挨拶は後日書面でしておこう。
決めてイノは素直にうなずいた。

ナルトが苛々するのは嫌だから。
自分が原因だとしても彼に苦しい気持ちは味わって欲しくない。

 そう。
 良い女はきちんと引くべき部分を心得てるの。

一緒に居たい。
折角のチャンスを無駄にするのは嫌。
けれど我慢。
ナルトが心底嫌がっているのが分かるから。

「じゃあね、ナルト」
精一杯の笑顔。
浮かべてイノは立ち去る。


どんなに苦しくても笑顔でナルトの前から去るのだ。
いつでもどこでも。
ナルトに覚えていてもらいたいのは自分の笑顔だから。

「ああ、イノも気をつけろよ」
柔らかく崩れるナルトの顔。
悔しいけどこのナルトの顔にイノは弱い。
こうして大人しくイノは実家に帰ったのだった。



数日後。

《前略。 自来也様。この間は大変失礼しました。折角のご挨拶の機会でしたが、後ほど両親と共に挨拶に伺いますので宜しくお願い致します。
その後、ナルトの調子は如何ですか? よく寝つけていますか? あの通り無頓着な性格をしていますが、根は優しい強い忍です。温かい目でナルトを見てやってくださいませ。末筆ながらこの辺りで。
                                 山中 イノ》

自来也の元へ届いた押し花つきの可愛らしい手紙。
読み終えた自来也、遠くにナルトが黙々と修行する様を眺め呟く。

「うーむ。次は新婚モノかのォ」

 ぴこーん。

自来也の頭に閃きランプが灯る。
ニヤケた自来也の顔を遠くから盗み見てナルトは密かに嘆息した。

 やっぱりコイツは危険だな。
 例えれば赤信号ってところか。
 止まれというか、止まらせないと暴走するタイプだ。

ナルト(弟子)に改めて警戒されているとは知らずに。
意欲満タン。

執筆活動に勤しむ売れっ子作家(?)様の姿が暫くの間。
温泉街で見かけることが出来た、そうだ。


 自来也さんには悪気はありません。純粋にナルトの許婚に興味を持っただけ。
 でもナルトはある意味心が狭いので駄目だったらしい。珍しい?  ナルトの嫉妬話。
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