ジェレミークラークソンのスイスポ試乗レポート(備忘録)

ネット徘徊しておりましたら、「Top Gear」のジェレミー・クラークソン氏によるスイフトスポーツ試乗レポートを見つけましたのでアップします。

<スズキ・スイフトスポーツ (2012) 試乗レポート By Jeremy Clarkson>(以下、転載です)
 これまで私は自動車サッカーを何度も見てきた。これはTop Gear Liveの一番の見せ物であり、普通のサッカーとはあらゆる全てが違う。例えば、プレイヤーは各チーム3人で、プレイヤーは全員車に乗っている。それに、ボールは直径1.2mだ。ゴールキーパーは存在せず、ジェームズ・メイのチームが負けるまで試合は続く。
 ありとあらゆる車で自動車サッカーを経験し、どんな車が適しているかということまで分かるようになってしまった。もっとも、こんな情報を誰が欲しているのかは分からないが、ともかく続けよう。
 リライアント・ロビンは駄目だ。エンジンやトランスミッションは悪くないのだが、敵選手の前に出ようとするたびに倒れてしまう。それに、ボールを追う時も、シュートをするときも、ディフェンス時も、いつでも倒れてしまう。
 スマート・フォーツーはこれ以上に酷い。この車も倒れやすいし、その上、1速からリバースに入れるのに時間がかかってしまう。時折、トランスミッションの変速待ちで全プレイヤーが一斉に止まってしまうことさえある。そうなれば、観客は退屈してしまう。
 トヨタ・アイゴやオースチン・ランドクラブはこの2台に比べればかなりましだが、一番適しているのはスズキ・スイフトだ。この車は小さく、素早く、そしてタフだ。唯一の問題は、ウォッシャー液のタンクがフロントバンパーのすぐ後ろにあるため、ダメージを受けやすいという点だ。
 スイフトが秀でているのは自動車サッカーのフィールド上だけではない。アイスホッケーも得意だ。Top Gearのウインターオリンピックスペシャルでは雪が吹き荒れるスケートリンクで見事に活躍してくれた。

 スイフトは、Top Gearの司会者3人全員が好きな珍しい車だ。3人共好きな車はほかに、フォード・モンデオやスバル・レガシィアウトバックがある。2006年に試乗した際にはかなりの高評価を与えた。ミニクーパーよりもかなり安いにもかかわらず、実力はミニクーパーに比肩する
 そして新型モデルが登場した。ボディサイズは明らかに拡大しており、サッカー場での取り回しは悪くなっていることだろう。それに、街中で駐車するのも大変になった。もしこの拡大分が室内空間の増加に繋がっているならその代償を払う価値はあるだろう。しかし実際はそうではない。リアシートは非常に窮屈だし、荷室も笑えるくらいに狭い。
 しかし幸いな事に、ボディサイズは拡大しても車重はさほど増加していない。この軽さは燃費にもスピードにも好影響だ。実際に調べたところ、パワーウエイトレシオはかつてのプジョー・205 GTIとほとんど同じだった。そしてこの比較は必須だ。

 かつてのプジョーや80年代のホットハッチが恋しい。かつて、フォード・エスコートのイギリスでの売り上げの12%はホットバージョンのXR3だったし、街中にはフォルクスワーゲン・ゴルフGTIが溢れていた。当時は誰もがホットハッチを欲し、どの自動車メーカーもホットハッチを作っていた。
 ところが、もはやホットハッチの基本など誰もが忘れてしまったかのように思える。現行型のゴルフGTIの走りは確かに素晴らしいのだが、隠そうとしても隠し切れないような標準モデルとのデザインの違いというものはなくなってしまっている。バッジを取ってしまえば、ディーゼルのゴルフと何ら変わらない。
 フォードは正反対の道へ突き進んでしまった。フォーカスのホットモデルはディスカウントストアで売っているありとあらゆる自動車パーツが装着されたような様相になってしまった。スポイラーも、色付きブレーキキャリパーも、エアスクープも、ベントも付いている。
 それに、ルノーにも素晴らしいホットハッチがあるのだが、あまりにスパルタンだ。ルノーは高速コーナリングにしか興味を持っておらず、それはホットハッチの本質とは違う。

 ホットハッチは万能でなければならない。ドライバーがやる気になれば速いが、そうでない時は落ち着いていなければならない。目立たない車ではないが、目立ちすぎてもいけない。それに、価格は安くなければならない。なので、シトロエン・DS3やミニ、アウディ・S1はホットハッチとはみなせない。
 今や室内空間やデザインが重視され、誰もがレジローバーイヴォークを欲しがるような時代であり、自動車メーカーはもうホットハッチを作る意味などないと考えているかもしれない。しかし、我々がイヴォークを欲しがるのは、速さと実用性を兼ね備えたホットハッチがなくなってしまったからに他ならない。

 ここでスイフトスポーツの話に戻ろう。このツインカム1.6Lエンジンは小さいながらに魅力的だ。可変吸気システムや可変バルブタイミング機構が備わっているため、小さいながらも先進的だ。エンジンをかけると、まるで小型犬を棒で突いたかのようになる。すぐに興奮し、大声で鳴き、駆け回る。
 ギアは驚くほどにショートストロークで、運転感覚はとても活き活きとしている。ジャーマンシェパードやスパニエルというよりもむしろ、ウエストハイランドテリア的な車だ。どんどん回し、どんどんやる気になっていくエンジンだ。0-100km/h加速には8.7秒かかる。これは1.6Lの205 GTIと全く同じ数字だ。
 しかし、ちょっとした欠点がある。6速で140km/hで走ると回転数は3,000rpmを指すのだが、これがまた非常にやかましい。やかましすぎると言いたいくらいだ。頭痛がするレベルだ。
 しかし、高速道路を降りると、この車の本領が発揮される。これは80年代に連れて行ってくれる車だ。どんな時でもやる気にさせてくれるので、日常の買い物のような退屈な移動でさえ思わず笑顔になってしまう。

 この車はさほど速いわけではない。しかし、これは1万3,499ポンドの車だ。この車は、安さと楽しさを見事にブレンドした車だ。
 デザインも見事だ。アルミホイールのデザインもサイズもまともだし、エグゾーストは左右に1本ずつの計2本付いている。
 シートは大仰に見えることなくそれでいてホールド性は高いし、装備内容は必要十分だ。クルーズコントロールやUSB接続、7エアバッグも付いている。それに、オーディオも優秀だ。

 新型スイフトスポーツは各所で絶賛されており、私も今回絶賛した。確かに音はうるさいし、荷室は顕微鏡レベルだ。しかし、それ以外の点は現在売られているどんなコンパクトカーにも勝ることだろう。

〜転載終了〜

実はもう一つ試乗レポートがあります。

<スズキ・スイフトスポーツ (2014) 試乗レポート By Jeremy Clarkson>(以下、転載です)
 コンビニに新聞を買いに行っても、私は絶対にそこでチョコレートバーは盗まない。法を犯そうなどとは露ほども思わない。
 同様に、私は会議中に人を殺したこともない。そんなことはできないと刷り込まれているのだ。もっとも、私が勤めるBBCでは、何度ボールペンで上司の目を抉ってやろうと思ったかしれないが。
 スーパーの使いづらいセルフサービスのレジではいっそレジを通さずに持ち去ってしまおうかと思ったことはあるが、それでも物を盗んだことはない。同様に人殺しもしていないし、スリだってしていない。私は基本的に善良なのだ。
 恐らく、この記事を読んでいる読者だってあまり変わらないだろう。ただ、その前提は車のハンドルを握ると覆ってしまう。日常茶飯事のように法律を破るほかないのだ。
 車に乗れば当然急ぐこともある。信号が赤に変わった直後に前の車について交差点を突破してしまうこともあるし、誰も見ていないだろうと右折禁止のところで右折してしまうかもしれない。駐車禁止の場所に車を停めることも、運転中に携帯電話を使ってしまうことも。そんなことしたことないと胸を張って言える人もいるかもしれないが、そんな人でも前回運転した時に制限速度を完全に守っていたと言えるだろうか。

 ジャック・ストローは素晴らしい人だ。尊敬できる、善良な政治家だ。ところが先日、彼が高速道路でバナナを食べながら運転しているところが写真に撮られた。彼はこれが法に背く行為であることを知っていたはずだが、きっと知ったことかと言ってバナナを食べていたのだろう。ではなぜ、彼は教会の募金箱から同様に知ったことかと言って金を盗むことはしないのだろうか。
 私はこれが答えだと思う。ほとんどの法律は合理性に裏打ちされているのだ。法律は普通、我々が普通の考え方であればしないようなことをするなと言っているのだ。殺すな、盗むな…当たり前のことだ。
 ところが、車に関する法律となるとまったく馬鹿げている。高速道路でバナナを食べたところで誰に迷惑をかけるわけでもないということはそこら辺の草にだって分かるはずだ。BBC近くの右折禁止の交差点でもし右折をしても、誰の迷惑にもならないことはBBCに勤める私がよく知っている。高速道路で120km/h出したところで問題なんて何もないことは、誰だって分かるだろう。
 象牙のために象を殺すことは悪いことだし間違っている。でも、ちょっと店の前の道路に車を止めて牛乳を買うのは同様に悪いことだろうか。
 飲酒はどうかだって? 言うまでもなく呂律が回らないような状況で車を運転するなんて論外だ。ただ、それはともかく、朝にワインをちょっとだけ飲んで全く酔っていない状況ならどうだろうか。酒を飲んでいない人と違った運転になったりするだろうか。
 私は時々、世界の運転に関する法律がなくなったらどうなるかと想像する。思うに、大したことは起こらないのではないだろうか。 世の中には速度を厳しく取り締まれば命を救うことができると主張する人もいるが、これが間違っていることは常識で考えれば明らかだ。道路の設計や車の衝突安全性の向上により、交通事故による死者数は減少し続けている。もし速度制限がなくなれば、この数はうなぎのぼりにでもなるのだろうか。そんなことはないだろう。特にガソリンが高騰している今ならば。
 誰もが酒を飲んで運転するだろうか。そんなことはないだろう。だって誰もが飲酒運転をするなんて馬鹿げたことだと考えるはずなのだから。赤信号を突破するか? ラウンドアバウトで反対方向に突き進むか? 交差点のど真ん中に駐車するか? ありえない。常識さえあればそんなことは誰もしない。

 とまあ、前置きはこれくらいにして、本題に移ろう。実に素晴らしい、スイフトスポーツの話だ。
 近年のホットハッチというものは、極端なまでに速さを求め、サイズも大きくなり、そして見た目は派手になる傾向がある。しかしこれは的はずれだ。ホットハッチというのは、普通のハッチバックに少しだけ刺激を加えた車であるべきなのだ。フォルクスワーゲン・ゴルフ、プジョー・205、フォード・エスコートといったホットハッチの元祖ともいうべき存在はそうだった。そしてこのスイフトスポーツもそうだ。

 この1.6Lエンジンには過激な「ターボ」や「スーパーチャージャー」のようなものは付いていない。単にハイリフトカムシャフトが装着されているだけだ。このため、出力は136PSと控えめだ。部屋でパソコンを見ながら「俺の車のほうが凄い」と思う車好きもいるかもしれない。 ただ、スイフトは軽い。わずか1,045kgだ。つまり、パワーウエイトレシオは130PS/tとなる。これは伝説のプジョー・205GTIとそれほど変わらない。
 この車は速くないし、ゴルフRやA45 AMGとは比べるべくもないが、それでも楽しい。ハンドリングは素晴らしく、攻めようという気分の時はステアリングを握ると興奮する。ただし、何の気なく運転しているとこれはただの小型ハッチバックでしかない。そして普通のハッチバックらしく、エアコンやBluetooth連携機能などは標準装備だ。
 ダッシュボードのシルバーのトリムが75.97ポンドなのだが、自分で取り付けると56.17ポンドだということに驚いた。そうすると19.80ポンドの節約になるが、指は怪我をし、ダッシュボードはガタガタで血まみれになることだろう。
 スイフトはまさに日本的だ。ブレーキには東洋的なシャープさがあるし、全ての装備は7年間は壊れることはないだろう。そして7年経てば図ったように壊れる。ただ、スイフトは日本の車ではない。ハンガリーで製造され、インドでその多くが販売される。
 これは売れるために作られた実用車だ。そしてそういった車は概して酷いものだ。ところが、車を熟知した人間がちょっとした魔法をこの車にかけた。そしてその結果、これだけ楽しい車が3ドアと5ドアで、それぞれ13,999ポンドと14,499ポンドで手に入れることができる。実にお買い得だ。
 リアシートには子供には十分なスペースまである。なぜこんなことが言えるのかといえば、一度この車でリチャード・ハモンドを送ったことがあるのだが、この車が狭いという文句を全く言わなかったからだ。

 ここまで読んでもらって分かると思うが、私はこの車を随分と気に入った。この車より高価な、最高の保守的ホットハッチであるフォード・フィエスタSTの次くらいにだ。ただ、この車はスズキ車であり、その大衆車的なイメージから誰もが買うのをためらうことだろう。しかし、これは実に愚かだ。そんなことだから、バナナを食べたり、携帯電話で話したり、50km/h以上で運転したりすることを禁止されるのだろう。

〜転載終了〜

あの毒舌家のジェレミーにしては最大級と言って良いほど褒めちぎってます。(多分に主観を含んでます・・・笑)
何故この記事を転載したのかといいますと、本文内で語られている「ホットハッチの定義」に感じ入ったからです。

ホットハッチは万能でなければならない。ドライバーがやる気になれば速いが、そうでない時は落ち着いていなければならない。目立たない車ではないが、目立ちすぎてもいけない。それに、価格は安くなければならない。
ホットハッチというのは、普通のハッチバックに少しだけ刺激を加えた車であるべきなのだ。フォルクスワーゲン・ゴルフ、プジョー・205、フォード・エスコートといったホットハッチの元祖ともいうべき存在はそうだった。そしてこのスイフトスポーツもそうだ。

今更ながら、この車を買ってしまった理由が解ったような気がします。


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