M16Aにおける油温に関する考察(その3)

今回も引き続き油温の話をば。
スイスポは油温が高いという話は以前よりネット上等で言われてましたが、某元レーサーさんがブログで「高速道路で油温130℃になっちゃって・・・」ということを書かれていたのを見かけてね・・・「はて?」と思った訳ですよ。
確かに、高速道路を走行すると110℃前後まで油温は上昇しますけど、渋滞にハマるか、もしくはおおっぴらにできない速度で走行でもしない限り、130℃までは中々いかないのではないか?と思うんですよね。(嘘とまでは言いませんけど、状況説明が少なすぎなので「煽ってる?」という気はします)
で、ネットで検索してオイルクーラーを装着している方のブログなどを読んでみても、意外と油温を確認した上でオイルクーラーを取り付けた人って少ないというか、あんまり居ないんですよね。
大抵が「ネットで書いてあった」とか「ショップに勧められて」とかいった具合で、「油温を測ったら○○○℃になってたので取り付けた」という話があまり出てこないんですよね。
そこで、あれこれと実験をしてみた訳ですが、結果はあんな感じです。

そもそも適正な油温って何度なんでしょうか?
エンジンオイルの缶には「0W−20」などといった表示がありますが、後ろの「20」は油温100℃の時のオイル粘度を指していますので、オイルメーカーは100℃(実際には90〜110℃くらい)を基準に考えていると見ていいかと思います。
それではエンジン内でもっとも温度が高くなるのはどこでしょう?下はモービルのHPから拝借してきた画像なんですが、オイルラインでもっとも温度が高くなるのは燃焼室周辺部で200〜350℃にもなるそうです。

一瞬とはいえ200℃以上の場所も潤滑している訳ですから、状況によっては油温が100℃を超えることもあります。一般的には油温が100℃を超えるとオイルの劣化が始まるとも言われています。
実はSAE規格にはHTHS粘度という項目もありまして、これは油温150℃での高温せん断粘度を表している数値なのですが、この数値が2.6以下だとエンジンが焼き付く事があるそうです。
「メーカーは油温100℃を基準に考えてる」とは書きましたが、実は150℃まで想定していたんですね。


M16Aエンジンは確かに油温が高いかもしれませんが、それ位は開発したメーカー自身よくわかっているハズです。
M16にはオイルエクスチェンジャー(現行の整備要領書には”オイルクーラー”と記載されております)が装備されてますが、これは素早く油温を上げるための措置なのではないかと妄想してます。

冷却水とオイルの熱交換を促す装置ですので、油温の方が水温より高ければ冷却水でオイルを冷やすという事になりますが、逆に水温の方が油温より高ければ冷却水でオイルを温めるという事になります。
つまり「オイルクーラー」として作用する場合もあれば、「オイルウォーマー」として作用する場合もあるという事です。

つまり、M16Aエンジンは元々が油温を高めに保つような設計がなされているのではないかと考えられます。
おそらくはフリクションロスの低減による燃費の向上等を狙っているのでしょう。

それはサーモスタットの開弁温度の変更からも推察できます。
ZC31のサーモスタットの開弁温度は82℃ですが、それに対してZC32は88℃となっています。
さらにはラジエーターファンの作動温度は100℃(!)とだいぶ高めとなっており、これも油温を高め安定させるのが目的ではないかと推察します。
そして油圧はというと下の一覧表のようになります。
エンジン形式 水温(℃)エンジン回転数(rpm) 油圧(KPa) 指定オイル
M16A暖気終了後(86〜88) 4000 270 0W−20もしくは5W−30
B16A 暖気終了後(76〜80) 3000 340 5W−30もしくは10W−30
SR20DE 暖気終了後(76〜78) 2000 290 7.5W−30
(暖気終了後の温度はサーモ開弁温度を元にしています)

手元に資料が残っているのが少し古いエンジンのものしかないので比較対象としてはナンなんですが、基準となる水温が高くなるにつれ油圧は下がっていますね。

一般的に油温が130℃を超えるようならオイルクーラーが必要と言われていますが、これは油温上昇による劣化によってオイル粘度が下がり油膜保持が難しくなったり、油圧の低下による潤滑不良の危険性が高くなるという事が考えられます。
また、エンジンのオイルシールやパッキン等に使われているニトリルゴムやアクリルゴム等の耐熱温度は110℃〜120℃とも言われています(短時間なら140〜150℃まで耐えられるものもあるそうです)ので、シール類の劣化も考慮しての事というのもあるようです。 ただし、この『130℃』というのも、あくまで一般的な目安であって、実際のところはそれぞれのエンジンによって数値は変わってくるかもしれません。(一部では有名な話だそうですが、ホンダのVTECエンジン等は油温140℃でも問題ないそうです)

M16Aの場合、油圧は4000rpmで270KPaと結構低めとなっています。春先に0W−20のオイルでサーキット走行を行ってみましたが新油であれば油温が130℃程度でも油圧は300KPa以上は保たれていました。(この時は目視確認)
元々油温が高めになることを想定しているのなら、むしろ油圧に気を使った方がよいのかもしれません。
それに油温が130℃になったからといって、一瞬でオイルがパーになる訳でもなければ、シール類が一瞬で劣化してオイル駄々漏れになる訳でもありませんしねぇ。
要は使い方の問題ではないかと考えます。

ご存知の方も多いと思いますけど、レース仕様の車両ですと計器類は回転計と水温計と油圧計しか取り付けないとか、見ないなんて話も良く聞きます。まぁ程度問題はありますけど油温よりは油圧の方が重要なのではないかということです。(なのでマーチの時は油圧計しか付けなかったんですが)

ネットや雑誌はとかくパーツを取り付ける事を推奨している場合が多いですが、パーツ取り付けによるデメリットにも目を向けたほうが良いのではないかと思います。
オイルクーラの場合、サーモ付であっても一般走行でのオーバークールに悩まされる方が結構いらっしゃるようです。
油温が低ければいいという訳でもなく、80℃未満ですとオイルが硬いままなので燃費も悪化しますし、車両によってはパワーダウンを感じるでしょう。(低温のオイルはエンジンにとって抵抗になります)
あとはパイプラインからのオイル漏れを指摘する方も少なくないですね。まぁこれは定期的にチェックしていればある程度防げますが。
さらには(取り回しにもよりますが)オイルラインが長くなるために油圧が低下してしまう事があるそうですのでオイルポンプの性能も確認しておいた方が良いかもしれません。
頻度は低いとは思いますが、オイルクーラーを取り付けた事により油圧低下を引き起こして潤滑不良によるエンジンの焼き付きなんていう惨事に見舞われた方もいらっしゃるとか。
それは極端な例としても、本当に自分に必要なのかよ〜く考えてからのほうが良いのではないかと思います。

スイフトで実際に油温を計測しますと、確かに油温が高めというのは嘘ではないという事はわかります。
先日仙台ハイランドを走った時は3周ほどで油温130℃超えましたから(笑)
そして5周走ったら138℃まで上昇したので走行中止しましたよ(爆)
私がメインで走行しているのはリンクとかエビスといったミニサーキットがメインですし、夏場はあまりやる気が無いので(笑)オイルクーラーまでは不要でしょうかね。
オイルの劣化が気になるならマメに交換すればいい話ですし、100%化学合成油なら高温にも耐えられますのでグレードの高いオイルを使用するという手もあります。
油温よりもオイル漏れのリスクの方が怖いですねぇ、私は。
勿論エンジンの劣化防止も兼ねてオイルクーラーを取り付ける方を否定するつもりはありませんし、油温130℃以上で真夏のサーキットを連続周回するような方やサーキット専用と割り切っている方なら、むしろ取り付けた方が良いでしょう。

昨今、車種に限らず「油温がー」という話をよく見かけるのですが、ネットの情報に踊らされる前に自分で調べてみましょうよ、というお話でした(笑)

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