・・・次の父の日には皆と食事会を開いて、用意していたプレゼントを父さまに渡して。
普段はなかなか照れくさくて言えなかった言葉を父さまにちゃんと言おう。
「父さま、いつも僕に優しく接してくれてどうも有難う」・・・


「やはりまた完全には良くなってないようですね・・・」
自室のベッドに横になっている永久の様子をひと通り見ていたラファエルは
一言そう呟いた。一昨日から永久は体調不良の為、床に伏していた。
昨日までは大人しく横になっていた永久だったが、今日はそわそわと落ち着かない。
今日は待ちに待っていた父の日であった。
「もう大丈夫だよ、昨日に比べたら大分良くなったもの。もう起き上がれるから!」
自分自身に気合を入れるかの様に勢いよく立ち上がろうとする永久だったが、
フラフラとバランスを崩して倒れそうになった所を、脇からラファエルに支えられた。
「そんな状態でまだ食事会を開くというのですか?」
「だって今日は父の日なんだよ!?今まで色々準備してきたのに・・・
用意していた花とかも取りに行かないと・・・」
ラファエルの手を振り払ってもなお立ち上がろうとする永久にラファエルは一喝した。
「聞き分けのない事を言わないで下さい!仮にそんな体調で開いたとしても、
貴方の父上がお喜びになるとお思いですか?」
「・・・でも僕は・・・!!」
「とにかく今日の食事会は中止するようにとミカエル様にも言われていますので」
「・・・・・・・・・」
「永久さまは何より身体を休める事だけを第一に考えて下さい」
一言釘を刺すようにそう諭してラファエルは部屋を出て行った。
永久はベッドに深く潜り込み、ただ悔し涙を流すしかなかった。


本当なら今頃は食事会の準備に追われている頃なのに。皆で食事をしながら
楽しく過ごす筈だったのに・・・今外に出て頼んだ所で自分の体調不良を理由に部屋に戻されてしまうだろう。
・・・どんなに多忙でも必ず会いに来てくれる父親に精一杯の感謝を伝えたかったのに・・・


「永久・・・起きていたのですね・・・」
突然自分の頭上でミカエルの声がしたので、慌てて飛び起きると、ベッドの傍らにミカエルが立っていた。
永久の驚いた様子に面食らったミカエルだったが、
「何回かドアの向こうから声をかけたのですが、返事がなかったのでてっきり眠っているものだと・・・」
側にあった椅子を引き寄せて腰掛けた後、ミカエルは永久の顔を覗き込んだ。
「顔色は大分良くなったようですね、今日いっぱい安静にしていたら大丈夫だそうですよ。
・・・永久、泣いていたのですか?」
目に涙を浮かべて俯いている永久に、ミカエルは戸惑いの表情を浮かべた。
「食事会は中止になってしまって残念でしたが、私はあなたのその気持ちだけで充分です。
・・・今日は一日中あなたの側にいるつもりで私はここに来たのですよ」
その言葉にビックリして永久が顔をあげると、ミカエルは穏やかに微笑んで
「今日は父の日という事で、私からのお願いです。私は他に何も要りませんから、
その代わり今日一日あなたと一緒にいても構いませんか・・・?」
そうミカエルは言った後、そっと永久の手に自分の手を重ねた。
重ねられた手を通して伝わってくる父の体温と温かくて優しい思い・・・
永久は嬉しいと思いつつも複雑な表情で、
「父さまがそれで良いというのなら・・・でも僕は本当は・・・・」
「あなたと一緒にいられるのが私にとって何よりも嬉しいプレゼントなのですよ」
普通ならかなり恥ずかしいであろう言葉をさらりと言ってしまうミカエルに永久は思わず笑ってしまった。
それにつられるようにしてミカエルも嬉しそうに笑った。
「父さま、いつも優しく見守ってくれて有難う。僕はとても幸せです・・・」
永久は一言そう呟いてミカエルに勢いよく抱きついた。
当初の予定と違った父の日になってしまったけど、父さまと一緒にいられるなら・・・
いつまでもこんな自分ではいけないのだろうけど、もう少しだけ・・・・