「父さん、早くっ」
今日は夏休み最後の土曜日。
俺はまだ支度の整わない父さんを急かす。
本来ならみんなで行く予定だった花火大会。
いろんな悪条件が重なって、父さんとふたりで行くことになった。
そこで俺はひとつのいたずらを思いついた。
「待たせたな、刹那」
そう言って現れた父さんは、俺とお揃いの柄の浴衣を着ていた。
普段とは違った印象に俺はとまどう。
「…やはり変か」
父さんが困ったように言った。俺は大きく首を振った。
違うんだ、あんまり似合っていたから。
黙り込んだ俺を見て、父さんがどうしたのかと問う。
俺はなるべくそっけなく父さんの腕を取って引っ張る。
…気付かれたらおしまいだ。

会場はすでに人でいっぱいだった。
はぐれないようにと手をひかれる。
また子供扱いされてしまった…。
俺はふい、と横を向く。屋台が目に入った。
こうなったら色々買ってもらおう。
父さんは何もいうわけでなくついてくる。
なんだかこっちが振り回されている気分だ。
当初の予定と違う。なんか悔しい。
そこで俺はちょっと無理を言ってやった。
「あれ買って」
指差したのはアクセサリーの並んだ露店。
カップルがひやかして歩いている。
父さんは気にするわけでもなく、そこを覗いている。
どれがいいのかと聞かれたので、俺はある物を指差す。
それを見て、父さんはしばし言葉を失った。当然だろう。
男にしかも子供に、そんな物を要求されるとは普通考えない。
しかし父さんはしばし考えたあと、それを手に取り、俺に渡した。
俺は予想だにしなかった行動にすっかり動転してしまう。
「う、嘘だよっ」
あわてて突き返す。父さんは訝しげに俺を見つめていたが、
何かを悟ったように笑った。
どうやら俺の考える事など見当がつくらしい。
「刹那、受けとって」
父さんは再びそれを俺の手に戻す。
そして耳元でつぶやいた。
「………」
その言葉に俺は耳まで真っ赤になってしまう。
…結局、俺が父さんに勝てるはずがなかったのだ。
でも悔しいから俺は言ってやんないよ、絶対。


祐樹 彬さんからのリク(100)
「ルシセツでラブ」 こんなカンジになりました。
自分的にはある意味問題作。
親子でどこまでオッケーですかー!?(笑)
気分的には「へへ…やっちゃった」
2001.8.31 UP