平和な時は長くは続かない。
わかっていても人は永遠を願わずにいられない…。

天界の戦いから数年がたった。
すべてが無に帰った魔界も少しずつ以前の姿を取り戻しつつある。
しかし、完全にかつての姿に戻るにはまだ膨大な時間を要するだろう。
「父さん、帰ったよ」
私はいま、刹那と共に暮らしている。
戦いの最中、一度は離れ離れになってしまったものの、
再びめぐり逢うことが出来た。他の者の消息はわからない。
「お帰り、刹那」
「俺、昼食の支度するよ」
「ああ…すまないな」
「それ何?」
「ああ、これは…」
私は手にしていた写真を刹那に手渡す。
「これ、ひょっとして母さん?」
「そうだ」
「そっか…これが母さんなんだ」
「刹那…」
戦場で刹那を見つけたとき、彼の記憶はなかった。
覚えていたのは自分の名前とデビルチルドレンという事だけだった。
私のことすら覚えてはいなかった。
「ごめん…また湿っぽくなっちゃって…。お茶でもいれようか」
「刹那、おいで」
私は刹那の腕を引き、膝の上にかけさせる。
「父さん…」
「…記憶などなくてもよい…。私はお前が生きていてくれただけで充分なのだ」
刹那の身体を強く抱いた。それ以外に上手く想いを伝えられなかった。
「俺だって…父さんがいてくれたからどんなに救われたか…。でもそれだけじゃ駄目なんだ」
刹那は私の目を見て言う。
「ちゃんと思い出したいんだ…何もかも」
「そうか…」
こんな時何を言えばよいのだろう。
どんなに長く生きていても役に立たない。
結局、何も学んではいないのだ。

穏やかなときは長くは続かない。
近づきつつある終わりに言葉ひとつかけられないまま、
それでも私は願わずにはいられない。
このときが少しでも長く続くよう…。
永遠の眠りにつくその瞬間まで。


うえむら会長からのリク(4441)
ルシセツ小説です。
花葬の続きっぽくしてみました。
オリジナルっぽくなってしまいましたね…。そのもの?
2002.1.9 UP