「刹那、未来?…いないのか?」
とある日曜日の朝、ルシファーは子供たちの姿が見えないことに気づく。
今日は学校もないし、どこかへ出かけるという話も聞いてはいなかった。
「まあそのうち戻ってくるだろう…」
近くのコンビニに買い物にでも行っているのだろうと思い、ルシファーは遅い朝食をとる。
少し苦めのコーヒーを飲みながら子供たちの帰りを待っていると、玄関先で声が聞こえた。
「おかえり、2人ともどこへ行ってたんだ?」
キッチンからわずかに顔だけだして問う。
「あっ、お父さん、起きてたんだ…」
未来が少し気まずそうな顔をする。
「ああ。お前たちは…買い物か?」
未来の手の中の袋をみてルシファーは言う。
「そ、そうなのよ!近くのスーパー安売りしててね。それで…」
「…何を慌ててるんだ未来?」
「えっ?そ、そんなことないわよ、ねえ刹那?」
「…今日は父の…」
早起きのせいでまだ半分寝ぼけている刹那の口を手で押さえて、未来はそのまま2階へ引きずっていく。
「じゃ…じゃあね、お父さん、私たち自分の部屋に戻るから…」
「ああ…」
1人残されたルシファーの顔には疑問符が張り付いたままだった。
「もう刹那ったら!バレたらどうすんのよ!」
部屋に戻るなり、刹那は未来の鉄拳をくらった。
「…ってぇ〜。いいじゃん別にバレたってさ…」
「駄目よ!今までせっかくうまく進めてきたんだから」
「そりゃそうだけど…」
「だからあんたもちゃんと最後まで協力すんのよ?」
「わかってるよ…でもオレ、あれ苦手なんだけど」
「私が教えてあげるから大丈夫よ!さ、そうと決まったらお父さんに出てってもらわないとね…」
未来は再び階段を駆け降り、リビングへ向かった。
「お父さん!」
「どうした、未来?」
「頼みがあるんだけど…いい?」
「改まって何だ?私に出来る事なら言ってみなさい」
「実は買い忘れたものがあってね…お父さんに買い物頼みたいな…って」
「なんだ、そんな事か。かまわんが何を買ってくればいいんだ?」
「これお願い」
未来から渡されたメモを見てルシファーはしばし固まった。
「…こんなにあるのか?」
「うん、お願いねお父さん」
「…わかった」
肩を落とす父の姿を見て少し気の毒に思ったが、今家にいられては困るのだ。
「行ってらっしゃーい」
ルシファーを見送ったあと、未来と刹那は準備にとりかかった。
数時間後、ルシファーが買い物から帰って来た。
「ただいま…」
慣れない買い物でへとへとになった父を未来が出迎える。
「お帰りなさい、お父さん。ごめんね疲れたでしょ」
「ああ…頼まれたものはこれでよかったか?」
「ありがとう。さあ、こっちへ来て」
「…?」
訳の分からないルシファーの手を引き、未来はリビングへと導いた。
「いいわよ、刹那」
未来からの合図と共にカーテンが開かれる。
「これは…」
「びっくりした?これは私たちからお父さんへのプレゼント」
「今日は父の日だからね」
「……父の日」
「そう、お父さんに感謝の気持ちを伝える日なのよ」
「未来、刹那…だが私は今までお前たちになにもしてやれなかった。感謝されるようなことは…」
「そんなことないわよ。大魔王が父親だなんてそれだけですごいことよ?
普通の父親よりずっと素敵だし、頼りになるもの。ねえ刹那?」
「そうだよ、父さん。父さんは…俺たちの自慢だよ」
「刹那…」
「さあさあ、せっかくの料理がさめちゃうわ。
これ刹那と私で作ったのよ、食べてみてお父さん」
「刹那も作ったのか?」
「うん、大変だったけど父さんに食べてもらいたかったから」
「…そうか」
ルシファーが優しく笑む。
3人にとって初めての父の日。
それはとてもあたたかく幸せな時間になった。