オタリア
South American Sealion (Otaria flavescens)
アシカの類は、見る側に非常に不思議な印象を与える動物である。
陸上で虚空を見上げ吼える彼等の姿は、
「海の獅子」と言う異称が非常に良く似合う姿である。
特に、壮年のオスはまことそのイメージに近い。
太い首、がっしりした鼻面、荒い毛のタテガミ、そして屈強な体つき。
反対にメスは非常に機動的で優美な姿をしている。これもライオンと共通する特徴だ。
だが、水の中で矢のように泳ぐ彼等はまた印象が違う。
ある動物園で、メスのオタリアが3頭、連れ立って泳ぐ姿を見た。
陸上にいてさえ優美なその流線型の体が、水の中では
尚一層の事優美に見えるのだ。
彼女達が水面から首を出して私に近づき、興味深げに見つめる。
見つめる時の仕草の、あまりの妖艶さに私はドキリとした。
そんな私の動揺を、彼女達はまるで楽しんでいるかのようだった。
彼女達を、伝説の「人魚」の正体のひとつと考える海洋学者もいるやに聞く。
伝承によれば、男の人魚は無骨で恐ろしげな姿をしているのに対し、
女の人魚は非常に美しい容姿だ、と言う。
この学説を提唱した海洋学者も、
私と同じように妖艶な立ち振る舞いで泳ぐ彼女達に魅せられた人なのかも知れない。
<データ>
*分類*
哺乳綱 食肉目 アシカ科(後述参照)
*分布*
ペルーからウルグアイにかけての海岸
*大きさ*
頭胴長2〜2.3m(オス)1.8〜2m(メス)、体重140〜300kg(オスで最大500kgの記録がある)
*食性*
魚食性。甲殻類や頭足類も好物。
地域によってはペンギン等の海鳥も捕食する。
*備考*
南米に棲息する大型の海獣で、英語圏で「Sealion」と呼ばれる動物の中でも、
最もその風貌がライオンに似ていると評判が高い。
1頭のオスに10頭前後のメスが従う「ハレム」を形成して繁殖する。
まずオスが上陸し、次いでメスが多数上陸すると、
オスが前もって構えた縄張りの中に囲い込んで交尾に至る。
また、あぶれた若いオスによるメスの強奪もしばしば確認されている。
因みにオタリアとは「耳が小さい」と言う意味のギリシア語に由来する。
尚、アシカ類を始めとする海の捕食性動物を独自の系統と考え、
「鰭脚目(ききゃくもく)」として独立させる学説もある。