ウオクイコウモリ
Greater Bulldog Bat (Noctilio leporinus)

俗に「鳥無き郷の蝙蝠」と言う。

傑出した人物が居ないと俗物が幅を利かす、と言う意味で用いられる言葉だが、
これが動物の世界の話になるとまた違った意味合いになる。

南アメリカと言う場所は、とかく独自の生態系が構築されている
様々な意味で非常に興味深い地域であるが、
この大陸、実は名だたるコウモリの宝庫でもある。
ごく一部の地域だけでも200種類以上も確認されていると言うから驚きだ。
普通、ある程度似たような暮らしを送る動物同志は、
同じ生態的地位を巡って激しく競合し、
結果、より強い種のみ繁栄するするのが常だからである。

然し、南アメリカのコウモリは多くの種が、
実に様々な生態的地位に落ち着いて共存している。
これは他の大陸では例が無い事である。
主だった種類だけでも、吸血性、昆虫食性、肉食性、果実食性…
更にはある種の鳥のように花の蜜だけを食べる者までいる。

そんな中でも最も変り種がウオクイコウモリである。
彼等は昼間の世界では猛禽類が独占する「空の漁師」のポジションを、
南アメリカの夜の世界で独占して生きている。

ウオクイコウモリは、適応能力の高い動物が持つ
ポテンシャルの奥深さを象徴している存在と言っても過言じゃないだろう。
<データ>

*分類*
哺乳綱 翼手目 ウオクイコウモリ科
*分布*
中米から南米、カリブ海周辺の森林地帯
*大きさ*
頭胴長9〜13cm、翼開長50cm以下、体重90g前後。
*食性*
魚食。川や河口の表層に居る小魚を捕らえて食べる。
魚の他にカニやヌマエビなどの甲殻類も好物。
*備考*
魚を専門に食べる唯一のコウモリ。川や沼に隣接する森に多数の群れで棲息する。
夜行性で昼間は木の洞で休む事が多いが、ごく稀に日中に狩りをする事もある。
体型は典型的なコウモリのそれで、体色はオレンジ、灰色、褐色と変化に富む。
ただ、どのような体色でも、背に沿って白い模様があるのは同じ。
しゃくれた上唇、鋭い爪の生えた後足、体の割に大きめな翼が特徴。
夜に水面近くをジグザグに飛び交い、エコーロケーションを用いて
小魚が立てるごく僅かな細波を感知し、後足で引っ掛けるようにして捕らえる。
頬袋があり、捕った魚をある程度貯める事が出来るらしい。
また、魚食性の為に極めて強い体臭を持つのも特色のひとつで、
その生臭い悪臭は90m四方に渡って臭うとさえ言われる。