オオアリクイ
Giant Anteater (Myrmecophaga tridactyla)

動物の中には「手」を持たぬ代わりに、舌を巧い具合に使う器用な者が多い。

キリンやオカピの舌は木の枝を巻き取るマジックハンド。
ネコの仲間の舌は骨から肉をこそぎ落とすナイフ、兼、毛並みを整える櫛。
ある種の鳥では舌が温度計の役割を果たす種類もいる。
極めつけとしては、獲物の昆虫を一瞬で捕殺するリーサルウェポン、カメレオンの舌…。

だが、魔法のような舌の使い方に関して、
オオアリクイに匹敵する者はまずいないと私は思う。

のっぺりとした、ヘチマのような長い顔を持つ彼等。
その口先は鉛筆ほどの幅しか開かない。
ある種の管のようなそんな口で、彼等は野生では日に2〜3万匹のシロアリを舐めとって食べる。
その際、シロアリを効率よく捕らえ、口に運ぶのが、
口の外に40cmも飛び出すムチのような長い舌だ。

この舌は意外な「魔力」を秘めている。
ある動物園では、檻の外に置いてあったショートケーキが、
かの長い舌で残らず舐め取られてしまったと言う話がある。
檻の隅を走るゴキブリを素早く捕らえて食べるなど朝飯前、
海外の動物園では、生きたマウスを試みに与えたところが、
あの長い舌で瞬時のうちに捕らえて飲み込んでしまった、と言うから驚きだ。
鉛筆ほどしか開かないおちょぼ口でどうやって飲み込んだのか、飼育係も全く判別できなかった、と言う。
ひょっとしたら、野生でもネズミの類を食べる事があるのではないか、
そう思わしむる光景だったそうだ。

彼等の意外な側面にただただ驚くばかりである。
<データ>

*分類*
哺乳綱 貧歯目 アリクイ科
*分布*
中米から南米にかけてのラテンアメリカの草原地帯
*大きさ*
頭胴長1〜1.2m、尾長60〜90p、体重20〜39s
*食性*
昆虫食。餌の9割以上がアリやシロアリ。
*備考*
ふさふさの尻尾と荒い体毛、そしてのっぺりとした長い鼻面が特徴。
シロアリ食と言う特殊な食性に適応し、口の中には全く歯が生えていない。
長い舌は口の外に出る部分だけでも40cm、舌骨を含むと60p以上になる。
前脚にカーブした鋭い爪を持ち、摂食行動(シロアリの塚を破壊する)や護身の為に用いる。
普段はこの鋭利な爪を守る為、手の甲を地面につけて歩く(この歩行法を「ナックル・ウォーキング」と言う)。
また皮膚も分厚く、イヌに噛まれたくらいではびくともしない。
生まれた子供を成長するまで親が背におぶって歩くと言う微笑ましい習性を持つ。
寝る時はふさふさの尻尾で体を包み、夜の寒さから身を守る。
尚、飼育下ではシロアリの確保が難しい為、
挽肉(鶏挽肉、レバー等)、卵黄、牛乳、各種ビタミンをミキサーで配合した流動食を与える。
この「人口シロアリ」はアリクイ達に好評(?)のようである。