ノガン
Great Bustard (Otis tarda)

静岡県・浜松市に住む両親の元に身を寄せていた、7〜8年ほど前の出来事。

休日の寝ぼけ眼の私に、母がその日の朝刊を差し出した。
何でも浜松市・天竜川上流の河川敷で珍しい鳥が見つかった、との事。
どれどれ、と記事に目を通す。

記事には、「中国の珍鳥・ノガン 浜松市で発見」とあった。

ノガンは日本ではごく稀に飛来する迷い鳥である。
これは大スクープ!と思い、掲載されている写真を見た私はがっかりしてしまった。
写真に「ノガン」として紹介されていたのはノガンではなく、
俗に「フランスガモ」と呼ばれる家禽、バリケンだったからだ。

バリケンは動物園に行けば結構見かける事の出来る鳥である。
母に「新聞記者の連中、珍しくも無い鳥を写真に収めて大騒ぎしてるよ」とこぼしたが、
動物にあまり詳しくない母は私の頭でっかちの意見など耳にも入れなかった。
「世の中には図鑑にさえ掲載されない珍しい鳥だっている。
 この写真の鳥もきっとそんな鳥に違いない」と。

この時の母の一言は、一週間後の新聞で覆された。
写真を見たとある鳥類の研究家が、私がこぼした一言と
ほぼ同じ内容の投稿を新聞に寄せたのが切欠で、
かの写真の鳥の正体(つまり、ノガンでは無かった事)が明らかにされたからである。

今でも、鳥類図鑑でノガンを見るとその時の事を思い出す。
<データ>

*分類*
鳥綱 鶴水鶏目 ノガン科
*分布*
西部ヨーロッパから中東・中央アジアにかけての草原地帯
*大きさ*
全長105〜120cm、翼開長1.9〜2.6m、体重16〜20kg。メスはオスの8割くらいの大きさ。
*食性*
雑食性。様々な植物質と昆虫等の小動物が主食。
*備考*
一見すると小型のダチョウみたいだが、ツル類に近縁の珍しい地上性の鳥。
飛行可能な陸上棲の鳥の中では、平均体重が最も重いモノのひとつ。
頑丈な足指と長い首を持ち、走るのが巧みで、滅多に飛ばない。
小さな群れで行動し、繁殖期にはオスは首の羽毛を逆立て、全身を使った荘厳なディスプレイを行う。
大きな体がスポーツハンティングの格好の標的とされ、
また住環境が劇的に破壊されている事から、その個体数は分布域の広大さに反比例して少ない。
嘗て中国では「舌を持たない鳥」だとか、「メスしかいないふしだらで多淫な鳥」等とする伝承があった。
海外での著名振りに対し、日本では稀に渡来する迷い鳥で、
動物園での飼育例も極めて少なく、著名度はかなり低い。