ウォンバット
Coarse-haired Wombat (Vombatus ursinus)

「収斂進化」と言う言葉がある。

隔てられた環境で、同じニーズの生態的地位に進化した異なる系統の動物が、
互いによく似た姿になる現象を言う。

有袋類、即ちカンガルーの仲間が多く住むオーストラリアは、
この「収斂進化」の好例のようなモノで、

イヌに似たフクロオオカミ。
ナマケモノに似たコアラ。
クズリに似たタスマニアデヴィル。
モグラに似たフクロモグラ。
モモンガに似たフクロモモンガ。

等々、まさしく「生物版デジャ・ヴ」の感がある。

此処に紹介するウォンバットは、
差し詰め「有袋類のウッドチャック」だ。
地面に穴を掘り、植物やキノコを食べてつましく暮らす。
しかもウォンバットは、植物食と言う習性に対応して、
齧歯類のそれのような一生伸び続ける門歯さえ持つのだ。

更にウッドチャックとウォンバットは、
あまり有難くないと言うか名誉ではない共通点も持っている。
それは即ち、
「嘗て害獣として迫害され、その肉は珍味として持て囃された」
と言う事である。
地上に穴を掘り、牧草を好む習性が特にヒツジ飼いに目の仇にされた為だ。

幸い、今では両者とも迫害を受けてはいないが。
然し…若し、ウォンバットとウッドチャックが揃い踏みして語り合う機会があったなら、
お互いの境遇の相似に涙ぐむかも知れない…
と、私はひとり思ったモノである。
<データ>

*分類*
哺乳綱 有袋目 ウォンバット科
*分布*
オーストラリア南東部の森林地帯
*大きさ*
頭胴長70〜120cm、尾長2〜3・5cm、体重25〜40s。
*食性*
植物食。地上の草本類の葉、茎などを好んで食べる。
他にキノコや野生の根菜類なども食べる。
*備考*
がっしりした、小型のクマのような姿をした地上性の有袋類。
あまり姿は似ていないが、コアラに近縁。
鋭い爪、短い切り株状の尾、質の良い毛皮を持つ。
湿潤な二次林や山地に通常単独で棲息し、個体差はあるものの概ね夜行性である。
性質は割と臆病な方で、警戒心が強いが、
一方で小さな子供の内から飼育したものは、ヒトに良く馴れる。
穴掘りが得意で、時に長さ30mにも及ぶ巣穴を掘る事も。
巣穴は内部の温度が常に一定であり、夏は涼しく冬も4度以下に下がらず快適。
嘗てはその巣穴が牧羊業に支障を来たすとして嫌われ、また肉と毛皮を目的に過剰に狩猟されたが、
現在ではオーストラリア政府によって厳しく保護されている。