*零落の水神*
日本の水の妖怪の中で、「河童(かっぱ)」ほどメジャーな存在も珍しいだろう。衿筋のところで切り揃えた髪型を指す語「おかっぱ」や、胡瓜を巻いた巻き寿司を指す「河童巻き」(胡瓜は「河童」の好物のひとつとして夙に名高い)の語などはそれを明確に現している。
「河童」の由来については「中国の水怪『河伯』(かはく)に由来するもの」「日本独自の水神信仰から派生した“零落した群小の神”」「航海術や漁業に秀でた大陸からの渡来民が見誤られた者」等諸説あるが、ひとつの説に絞るよりは複数の要素が複雑に絡み合って今のイメージへと繋がったと見るのが妥当だろう。その姿も、獣じみた姿、鳥に似た姿、ヒトに似た姿など様々なカタチへと変遷を遂げ、今の普遍的なイメージ…頭に皿を抱き、背に甲羅を負い、両生類のようなぬめぬめした皮膚と鳥のような嘴、手足には水掻き…へと落ち着いたものらしい。
「河童」の伝承は北は北海道から南は九州まで広く分布しており(広義的な見解ならば類似した妖怪は沖縄諸島にも棲息している)、名称や属性も様々である。共通する特徴としては以下の要素が挙げられる。

@鳥の嘴、或いは犬の吻部に似た突出した口
A頭にはハマグリの貝殻に似た皿のような窪み
B背には甲羅を負っている事が多い
C全身の皮膚に独特のぬめりを持つ
D伸縮自在の腕、指の間には水掻き。爪は猫のそれのように出し入れ自由
E胡瓜や甘瓜などのウリ類を好む
F縄張りに入り込んだ人間や家畜に対しては攻撃的で、深みに引き摺り込んで溺死させたりする。時にはそうして殺した動物の内臓を食べる事もある
G相撲が好き
H地域に拠っては酒を好む者もいる
I猿が苦手。また、御仏飯(仏前に供えた米飯)を食べた者には手出しが出来ない

後、最大の特徴としては「人間臭い一面がある」と言ったところだろうか。人間を出し抜こうとして裏を掻かれて失敗したり、その詫びとして償いの印(「河童」秘伝の傷薬の伝授、詫び証文、秘宝の贈呈、若しくは一定期間魚を貢ぐ事など)を人間に贈った、と言う逸話は極めて多い。