ヤンバルクイナ
Okinawa Rail (Rallus okinawae)
新種の動物や鳥類が発見されて、科学者が狂喜乱舞し、
マスコミがこぞってスクープ争奪戦を演じる事が、
自然環境の大多数が失われた今現在でもごく稀に起こる事がある。
然し、文明社会に首までズッポリと浸かって生きる人間達が、
「この地球上にまだ未発見の動物がいたなんて!」と驚く一方で、
自然と共に暮らし、生き物の姿に見慣れた地元の住民達が、
「何だ、このような生き物が珍しいのかね」と呆れると言う事も、またごく稀に起こる事である。
1981年、沖縄県の山中で見慣れない鳥類の屍骸が発見され、
学会に報告された結果、新種のクイナ類と判って大騒ぎになった。
ヤンバルクイナである。
ところがこの鳥は、山仕事をする人達には結構馴染みの深い鳥であったと言う。
戦前の話であるが、箱罠を仕掛けて捕らえて食べていたと言う話があるし、
地元の人の回顧録に拠ると、子供達が手を繋いで輪になり、
その“輪”の中に生け捕りにしたクイナを放して、
自分の足元にクイナが逃げると足先で輪の中心に追い返すと言う、
ピンボールゲームに似た遊びを経験した方もいるらしい。
地元の人達はこの鳥を「ヤマドゥイ」(山の鳥)とか、
「アガチドゥイ」(慌て者、若しくは働き者の鳥)と呼んで慕っていたそうだ。
特に「アガチドゥイ」の名称は、
クイナ独特のせかせかした動きから来る的確なる渾名、と言う気がする。
<データ>
*分類*
鳥綱 鶴水鶏目 クイナ科
*分布*
日本(沖縄県・沖縄本島北部、所謂“山原(ヤンバル)”)の森林地帯
*大きさ*
全長28〜35cm、体重400〜435g
*食性*
肉食性と思われる。
飼育下では昆虫やカタツムリ、トカゲなどの小動物を摂食する事が確認された。
*備考*
1981年に沖縄で“発見”されたクイナの仲間で、沖縄本島のみに棲息する日本固有種。
胡麻塩模様の腹部と黒味がかった褐色の翼、
そして鮮やかな赤い目と嘴、脚が特徴的。
野外での詳しい生態調査が殆ど行われていない為、その暮らし振りには不明な点が多いが、
針葉樹と広葉樹の混交林や原生林を棲息区域とし、時には平地の畑などにも姿を現す。
ニワトリ程度の飛翔能力しかなく、通常は地上を素早く走って移動し、
夜、休息する時は2mほどの高さの木の枝まで飛び上がって、其処で休む。
野生化したネコやマングースなどによる捕食や、住環境の悪化で個体数は減少傾向にあると思われ、
昨今、人工飼育及び人工繁殖の研究がスタートした。
天然記念物及び特殊鳥類の指定を受けている。
尚、分類については南方系クイナ類であるGallirallus属に含める学説もある。