カムルチー
Spotted Snakehead (Channa argus)

東京都台東区・不忍池での出来事。

今ではあまり見かけなくなってしまったが
(一時期流行った魚類の伝染病コイヘルペスの所為だろうか)、
嘗てこの池ではあちこちでコイに餌付けをする光景が見られた。
私自身も幾度かパン屑を持って出かけた事がある。

ある時の事。
細かく刻んだパンの耳を池の水面に巻いていると、大小さまざまな魚のシルエットの中に異様な影を見かけた。
明らかにコイではない。
寧ろそれは、トカゲを大きくしてそのまま魚にしたような不気味な姿だった。

「ライギョだ」
誰かがそう言った。

ライギョもパン屑を食べに来たのか、と思ったら違った。
彼の目当てはパン屑に群がる小魚たちだった。

ライギョが小魚の群れに踊りかかり、
幾匹かの小魚が瞬く間に彼の口の中に消えた。
暫くライギョはそうして小魚を貪っていたが、
やがてパン屑が無くなり小魚が四散すると、
ゆっくりとハスの葉陰に泳ぎ去っていった。

不忍池では、悪名高い外来魚・ブラックバスでさえ、
ライギョの前では格好の餌でしかない、と言う。

都会の公園の池に隠然と君臨するライギョ。
隠れた不忍池の「主」と言った所か。
<データ>

*分類*
硬骨魚網 スズキ目 タイワンドジョウ科
*分布*
東アジアの淡水域。日本へは朝鮮半島経由で移入。
*大きさ*
全長30〜80cm(最大1m)
*食性*
肉食性。小魚や甲殻類、カエル等を食べる。
*備考*
別名の「ライギョ(雷魚)」の方が有名。
日本へは昭和初期に食用として持ち込まれた。所謂「外来魚」のハシリ。
土着の魚介類を貪欲に捕食し生態系を撹乱する為、漁師や釣魚師には嫌われる存在である。
住環境として水草が豊富で流れの少ない河川の下流域や湖沼を好む。基本的には単独生活者。
鰓蓋付近に血管が収束した「上鰓器官」と言う呼吸補助器官を持っており、
濁って酸素濃度が生存不可レヴェルのギリギリまでに落ちた水域でも
水面から口を使って空気呼吸を行う事により生存可能。
逆に定置網にかかるなどして、空気呼吸が阻害されるような状況に陥ると酸欠で溺死する。
寒くなると泥や水草の中に潜り込み、冬眠する。
英語名は避けた口の有る獰猛な頭部と体の模様がニシキヘビに似ている事に由来。
水草で巣を作ってその中に産卵し、孵化した稚魚は親魚がある程度保護する。
肉は美味で、アジアでは重要な食用魚だが、
肝炎ジストマを引き起こす寄生虫が体内にいる為、生で食べるのは危険。食する際には加熱の必要がある。