ヘビクイワシ
Secretary Bird (Sagittarius serpentarius)

猛禽類はその姿かたちの美しさと、獲物を捕らえて食べる時の荒々しさ、
そして大空を悠々と飛ぶその力強さ故に、
動物園でも非常に人気のある動物のひとつである。

しかし、世の中には変わった存在が何処にでもいるもので、
大空からの狩りを放棄し、ひねもす地上を歩き回る猛禽がいる。
その名をヘビクイワシと言う。

見かけは、銀色の羽毛を持ったキジとツルの合いの子のようにも見える。
それは他の猛禽が持つ荒々しさとはかけ離れた、
女性然とした非常に優雅な姿である。
うなじに生え揃う冠羽は、恰も中世ヨーロッパで用いられた鵞毛ペンのようでもあり、
しゃなりしゃなりと歩くその立ち姿は、
まるで貴婦人かバレエのプリマドンナのようである。

獲物を捕らえる時の仕草も振るっている。
長い脚で草むらをゆっくりと踏みしめながら歩き、獲物を確認するや
翼を広げ身体の輪郭を崩して相手を威嚇し、
舞うような蹴りを何度も食らわせて倒すのである。
ある鳥類研究家はこれを『フラメンコのステップのよう』と形容した。

“草原の猛々しき踊り子”
私が彼女達に密かに送った渾名である。
最もこんな渾名を頂戴しても彼女達は喜んではくれまいが…。

<データ>

*分類*
鳥綱 鷲鷹目 ヘビクイワシ科
*分布*
アフリカ(サハラ砂漠以南)の草原地帯
*大きさ*
全長115〜150p、翼開長2〜2.2m、体高1m、体重3.4〜4s
*食性*
肉食。地上性の様々な小型脊椎動物や昆虫が主食。名前の通り、特にヘビをよく捕らえて食べる。
時折野火の周囲に集まり、炙り出された小動物を捕らえる事もある。
*備考*
アフリカ大陸特産の特殊な猛禽類で、地上での狩りに適応した非常に独特な鳥である。
頑丈な長い脚、猛禽類としてはあまり強くない小さな爪、そして美しく良く目立つ黒い冠羽が特徴。
猛禽類としては珍しくオスメス同じ大きさで、夫婦仲は良く、つがった相手との配偶関係は一方が死ぬまで続く。
繁殖期等に、オスはとんぼ返り等の動作を含めた非常に派手なディスプレイ行動を取る。
低木の頂上に小枝を集めて大きな巣を作り、通常一回のお産で1個、最大で3個までの卵を産み、育雛。
時にその巣の大きさが直径2mを越す事もある。
小動物を貪欲に捕食するその習性から、アフリカ各地では飼い馴らしてネズミの駆除に用いる。
英語名はその冠羽を、産業革命以前のイギリスの宮廷書記官(セキュリタリー)の肖像に見立てた命名。
日本ではその英名の直訳から『書記官鳥』と呼ばれる事もある。
低く太い声で断続的に「ガガガガ…」と鳴く。