インドタテガミヤマアラシ
Indian Porcupine (Hystrix indica)

時折、居酒屋などで半分に切っただけの生キャベツに塩を振り、
バリバリと平らげて満足感を露わにする、
威勢の良い食いっ振りの御仁を見かける事が有る。

「ある量を超過するとそれは質に転ずる」とよく言われる要因のみならず、
その歯応えなども満足感を得る要因のひとつなのではないかと思う。
現代の食事は味重視、見た目重視…歯応えを重視した食べ物は割と少ない気がする。

数多の動物の中で顎のつくりが割と脆弱な人間でさえそう思うのである。
まして、強力な顎と伸び続ける切歯を持つ齧歯類などは、
動物園で出される(彼等にとっては)歯応えの無い食事に対して、
どのような思いを抱いているのやら。

ある動物園でヤマアラシの食事風景を見た事がある。
出されたメニューはニンジンやサツマイモなどの生の根菜類、リンゴ、殻つきのクルミ。
クルミなどはとても人間には歯が立たない代物だし、
生の根菜類も人間にはちょっと顎の負担になりそうな食材だろう。
然し、食事をするヤマアラシの顔つきは何となく憮然としているように見える。
伏目がちの顔つきがそう思わせるのかも知れないが、
私には、それが食事に対する歯応えの少なさにあるのでは、と思えた。

何となれば、彼等が易々と、むしろ強い歯と顎を持て余し気味にサツマイモを齧る時の様子は、
人間がコッペパンを齧る姿と殆ど変わりが無かったから。
<データ>

*分類*
哺乳綱 齧歯目 ヤマアラシ科
*分布*
東南アジアから南アジアにかけての森林地帯。
近縁種がアフリカ全土からヨーロッパ南部、ヒマラヤ山脈にかけて計7種ほど確認されている。
*大きさ*
頭胴長58〜90p、尾長6〜10p、体重5.2〜27kg
*食性*
植物食。主に穀類、果実、木の根、根菜類、樹皮等。畑を荒らす為農民には嫌われる。
“棘”の育成に欠かせないカルシウムを補給する為に、時折動物の白骨死体を齧って食べる事がある。
*備考*
毛が変化した“棘”を持つ地上性の大型齧歯類。
堅くしなやかな“タテガミ”と、ずんぐりむっくりの体型が特徴的。胸にはクマ類のような“月の輪”がある。
岩がちの土地に家族単位の群れで生活し、夜行性。昼間は巣穴で寝ている事が多い。
性質はおとなしいが、肉食獣や人間に襲われると棘だらけの尾を振ってガラガラと警告音を出し、
それでも退かない敵には後ろ向きに体当たりを食らわせ、棘を相手に突き刺して防御する。
棘は抜け易く、その先端には“かえし”がついていて、一度刺さるとなかなか抜けずに深く食い込み、
刺さり所に拠っては死んでしまう可能性も。
こうした積極的な“攻撃による防御”はヤマアラシに独特のものである。